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第54話 禁術の反動
しおりを挟む「あまりにも騒ぎ立てるので少し大人しくしていただいただけですよ。そう心配せずとも大丈夫です。魔道具の影響ではなく、威圧スキルを浴びてそうなっているだけですから」
ジョナスの短気さに呆れながらも、一時的な現象で時間が経てば自然と解除されると丁寧に答えてやるランドルフ。
「威圧スキルですって? 貴方がやったと言うんですかっ」
「……実際にやったのは私だ」
ここで、様子を見守っていた剣聖が口を挟んだ。
こんな状況でも、憧れの人の声というのは魅惑的に聞こえてしまうのだからタチが悪い……と、ジョナスは舌打ちしそうになる。雰囲気に飲み込まれそうになりながらも必死で口を動かす。
「剣聖様が……ですか?」
「ああ、そうだ。何しろ、あのままでは一向に話が進まなさそうだったからね。それに、これから起こることを思えば必要になるはずの処置だ。そうだろう、魔術師殿?」
「流石ですね。そこまでお見通しでしたか、剣聖様。そうですね、とても助かります」
「……どういう、意味です? あなた方は一体、何の話をしているんですか!?」
「お忘れになりましたか? ボートン子爵令嬢には禁忌の魅了魔法を使用した疑いがかかっているのですよ」
「……っ! そ、それは聞きましたが。ですが、それと彼女のこの状態に何の関係があるというのです?」
「術の暴発や反動で暴れる可能性を考えてのことです。私もこんな事態に立ち会うのは初めてでしてね」
やれやれ困ったと言うように肩を竦め、ため息をついてみせた。
禁忌魔法に手を出した者は問答無用で死罪と決まっている。それが分かっていて使用する者はそうはいない。正確な対処方法など分からなくて当然だろう。
「殿下やジョナス殿達の身を守るためにも、彼女を直接取り押さえ、拘束することも考えましたが、剣聖様がいてくださって良かった。おかげで穏便に済ませられます」
「……」
ランシェル王子の為だと言われると、ランドルフを責められない。
それに、これでもまだサリーナに温情をかけた処置なのだと釘を刺されては口を噤むしかなかった。
「何しろ術者は……この場合は彼女ですが、ジョナス殿達を魅了する為に、自分の魔力を魅了魔法が掛かった魔石に流して発動させていたはずです。破られれば、その反動が彼女を襲うのは当然ですからね」
「まさか、彼女が本当にそんな事を!?」
「……ジョナス殿、発言には気をつけた方がいい」
信じたくないという気持ちから思わず溢れてしまった本音を、ランドルフに冷たく遮られ、ハッとする。
サリーナが魅了魔法を使用したという疑いが晴れていないのに、冷静さを欠いていたらしい。審議中だということを忘れそうになっていた事に気づき、唇を噛みしめた。
周りを窺うと、好奇に満ちた視線を向けてくる大勢の貴族たちがいる。
固唾をのんで行方を見守っている彼らの前で、迂闊に庇うような発言をすれば、ジョナスも共犯だと受け取られかねないのだ。
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