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第77話 自分勝手
しおりを挟む社交界に出て、同世代の令嬢たちがきらびやかに着飾っているのを初めて見た時から、羨ましくて仕方がなかった。自分も彼女達と同じか、それ以上のものが欲しくて、欲しくて堪らなかった。
ちょっと生まれが違うだけなのに、サリーナが欲しくても手に入れることが出来なかった贅沢品を、当たり前のように手にして微笑んでいる、苦労しらずの貴族のお嬢様達。憎かった。
だから、サーカス団の誘いに乗った。
そうすれば、望みが叶うと言われて……。
言われるがままに魅了魔法のかかった魔道具を使えば、面白いように彼女の言いなりになる貴公子達。
人が羨むほど魅力的な彼らも、魔法で魅了してしまえば、愛をささやいてくれるし、少し甘えてねだるだけで、今まで手が届かなかった贅沢品を競うように贈ってくれる。彼女の自尊心は満たされた。
それ以上に快感だったのは、自分を見つめる貴族令嬢たちの嫉妬と羨望のこもった眼差し。
温室育ちの貴族令嬢達から、婚約者や恋人を奪ってやることも面白かった。自分見下していた彼女達の顔が絶望染まっていくのを見ては、優越感に酔いしれた。
暫くはそれで満足していたのだ。
だが、そんな日々が日常になってくると物足りなく感じるようになる。貴公子達を誑かし、令嬢達の心を弄ぶのも楽しかったのだが、簡単に行き過ぎてつまらなく感じてしまう。それと反比例するように物欲は強くなっていき、満たされるためにはお金が必要だった。
元々着飾ることが大好きだった彼女は、もっともっと欲しくなった。
誰がみても一番だと言うくらい、可愛く贅沢に着飾ってみたい。
物欲は膨れ上がり、愛を囁かれても満たされなくなっていった。
段々と要求の高くなる彼女の願い全てを叶えられなくなった時、彼らに対するサリーナの不満は爆発した。
「もっといっぱい欲しいって言っても、お金がなくて買えないって言うんだもの! 何着かドレス一色をおねだりしただけなのにっ。本当、上位貴族の子息のくせに使えないんだから!」
「……っ!」
いくら貴族と言えども、当主でないものが自由に使えるお金は限られている。それがサリーナには分からなかった。
上位貴族の令息を魅了すれば、欲しいものを欲しいだけ手に入れられるし、お姫様のように贅沢できると思い込んでいた。
「だから彼らに、サーカス団を紹介したんですのね?」
「そうよっ。だって帽子屋さんが、代わりにお金を払ってくれるっていうんだもの!」
その時のことを思い出したのか、機嫌良さそうに話すサリーナ。
彼女にとって魅了した男たちは、もはや金蔓でしかなかったのだろう。
「……それで彼らにサインするようにと言ったの?」
「だって、一筆書くだけでドレスをくれるっていうし。初めは渋っていたけれど、わたしからお願いしたら、みんなも書いてくれたわ」
サーカス団はサリーナに贅沢品の買い物をさせ、代金を立て替える代わりに貴公子達に借用書のサインをさせたのだ。
書類だけでも揃えてしまえば、企みがバレた時に言い訳ができる。誘拐したのではなく、借金の形に連れていったのだと。
「彼らにそこまでの支払い能力はないと分かっていた癖に、借金までさせて……そんなにドレスや装飾品が欲しかったの? すでにたくさん、持っていたでしょう?」
「だって、どれも少しずつ違うデザインなのよ。それに、帽子屋さんが薦めてくれるのは、わたしにとってもよく似合う可愛いものばっかりなんだものっ。彼らにサインさせるだけでわたしのものにしていいって言われたんだものっ」
身勝手な主張をするサリーナを怒鳴りつけたくなるが、リアンはぎゅっと唇を結んで耐える。
同じように自分の感情を抑えながら質問を続けるダフネの、邪魔をしないために……。
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