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第37話 真摯に答えたい
しおりを挟む(は、早く、お答えなくては……)
婚約破棄された直後に別の男性に求婚される……それも、クレイブよりもはるかに極上の男に……。
信じられない幸運にクラクラとめまいがしたが、ここで倒れる訳にはいかない。
辺境伯の娘として生まれ、物心がついた時には戦いの中に身を置いていたルイーザにとっても、憧れの存在である剣聖アデルヴァルト・リューディガー。
その人から求められて、嬉しくないわけがない。
当初は物語の英雄に抱くような、憧憬の念を持っていただけだった。
彼に近づいたのも、婚約者であるクレイブを立ち直らせる為、何とか剣術指南を依頼できないかという思いがあったから。
そこに、二心はなかった。
しかし辺境の地で共闘して魔物討伐をするうちに、死と隣り合わせの現場という環境もあったのだろう。
自然と信頼関係が生まれ、思った以上に親密な関係になっていく。
そして女性の身ながら体を張って信を得ようとするルイーザの強さと心意気に、すっかり心を掴まれてしまった剣聖の方が先に恋に落ちたのだ。
やがてルイーザも、彼の瞳の奥にある熱く燃える情熱に気がついてしまう。
何故なら彼女もその頃には同じ思いを抱いていたのだから。
互いに惹かれ合っていた。
でも、ルイーザはその時、彼の思いも自分の気持ちにも蓋をして気が付かない振りをすることを選択してしまう。
当時はまだ、クレイブのことを婚約者として認めていた。
剣聖と交流を持ったのも彼の為で、恋情はなくとも幼馴染みで出来の悪い弟のような婚約者にはまだ、思いが残っていたのだ。
二人の男の間で揺れ動く心がある内は、彼の真摯な愛情を受け入れることも答えることも無理だと諦めた。
不誠実な対応はしたくなかったから、と逃げてしまったのだ……。
剣聖も、彼女から感じる無言の拒絶に、今はその時ではないと何も言わずに別れた。
――しかし、ここにきて事態は動いた。
彼女が出席すると聞いて向かったパーティーで、クレイブが婚約破棄を言い出す場面に偶然、出くわす。
恋する男の直感で、彼女の気持ちが完全に離れたのも感じ取れた。
出来る男がこんなチャンスを逃がす筈がない。
真っすぐにルイーザを見据える金の瞳には引力でもあるのか、優しく捕まれたままの手をほどくことも出来ない。
まるで捕らえた獲物を逃さないと語っているようで怖いくらいだった。
視線に絡めとられて心臓が痛いくらいにキュっとするが、彼の気持ちに自分も真摯に答えたい。
クレイブから婚約破棄された今なら、それが出来るのだから。
「剣聖様、わたくしは婚約者に可愛げのない、冷たい奴と言われて婚約破棄を突きつけられた女ですのよ」
「ああ、聞いていたよ」
「よろしいんですの、そんな傷物の女に求婚なさって?」
「私は、貴女の強く美しいところに惹かれたんです。甘ったれた坊やには君の魅力がわからないのさ」
「剣聖様……」
「自分の器の小ささを棚にあげ、生涯の伴侶となるべき人の美徳を否定する男など、初めからあなたにふさわしくなかったのですよ」
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