32 / 138
第32話 クレイブの言い訳
しおりを挟む「それにわたくし、何度も申し上げておりますが、あなたに名前で呼ぶ許可など一度も出していなくってよ、ボートン子爵令嬢。一体、いつになったら理解していただけるかしら?」
「ひぃっ」
「貴族令嬢として余りに教養のない、恥を知りなさいなっ」
「ル、ルイーザ嬢、待ってくれっ。彼女は生粋の貴族令嬢である君達とは違うんだ。生まれたときから庶民として育てられて、まだ子爵家に引き取られて間がない。そんなにキツく言うのは可哀想だろう……」
クレイブがブツブツと言い訳めいたことを言って、プルプル震えながら己の腕にくっついているサリーナを庇う。
そんな情けない男をキッと睨みつけるルイーザ。
「少なくとも彼女が引き取られてから二年は経っておりますわよっ。二年あっても五歳の子供でも知っている簡単な礼儀一つ、まだ覚えられないと言うんですの!?」
ルイーザが指摘する簡単な礼儀と言うのは、身分の低い者から高い者に対する基本的なマナーのこと。
自分よりも高位の貴族には許しもなく声をかけてはいけないとか、ファーストネームで呼ぶことは公式の場では不敬になるので例え本人の許可があっても身内や親しい者以外は控えるとか。
他にも身分が高い貴族同士の会話中は、話を振られない限り口を挟まず勝手に発言してはいけない、高位の貴族の会話を遮ってはいけないというものなど。
サリーナはこのルールを悉く無視しているのだ。
彼女はいつも、勝手に自分からルイーザ達に声をかけ、許可なく彼女たちのファーストネームを呼びつけ、それぞれの婚約者との会話も遮って、平然と割り込んでくる。
「あっ。い、いや、それは……」
「しっかりなさいませ、クレイブ様。ボートン子爵令嬢は全てを理解した上で、無礼にもわざと礼儀を無視しているのです。軽々しくわたくしたちの名を呼んで、侮辱なさっているんですわ」
「いや、そんな。優しくて控えめなサリーナに限ってそんなことはない、と思うぞ? きっとそれは……ほら、あれだっ。彼女なりの親愛の示し方というやつで……」
「……見損ないましたわ、クレイブ様。口を開けばサリーナ、サリーナと彼女を庇うお言葉ばかり……貴方の脳味噌にはそれしか入っておりませんの!?」
「そ、そんなことはないっ」
「いいえ、そうに違いありませんわ。あれほど熱心にされていた剣の鍛練にしてもそうです。彼女と出会ってから貴方は真剣に取り組まなくなってしまわれた」
「……ルイーザ嬢、俺は」
「そんな貴方を心配したバラミス将軍に頼まれて、折角、わたくしが伝を頼りに剣聖様に剣のお稽古の約束まで取り付けましたのに。貴方はその女と遊び回って、反故にするようなことをなさいましたわね……」
「それはっ。それについては、父にも貴女にも本当に悪かったと思っているんだ。ただ俺は、どうしてもその時、サリーナ嬢を放っておけなくて、それでつい……」
そのふざけた理由は勿論、ルイーザだって知っていたが、それでも改めて本人の口から聞かされると当時の怒りを思い出してしまう。
2
お気に入りに追加
6,373
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ
榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの!
私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる