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第40話 追及

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 そんな二人を唖然として眺めていた男がいた。

 目の前で起きたことが信じられない、というように見つめていたが、ついに黙っていられなくなったのか、彼女達の間に割り込んできた。

「ルイーザ嬢……」

「クレイブ様?」


 険しい視線で見上げてくるクレイブに、ルイーザは何を言いだすのかを大体察した。

 幸せに満ちた表情を、さっと消して対峙する。


「いつの間に、剣聖様と恋仲に……?」

「あら、まるでわたくしが不貞を働いたようにおっしゃいますのね」

「違うと言うのかっ。俺が婚約を破棄した途端に求婚を受けておいて!?」


 自分のやってきたことを棚にあげ、激しい口調で責めてくる。


「はぁ。少しは考えてから発言なさいませ」

「何を……」

「わたくし、貴方様のために剣聖様とお会いしましたのよ。その為に随分と骨を折りましたが、折角の機会は下らない理由で反古にされてしまいました。そんな信じられない不義理を働く婚約者を持つわたくしが、どうして彼と恋仲になることができましょう」


 今、思い返してもあの時の彼の不誠実さには、フツフツと怒りが沸き上がってくる。


「そ、それは……そうかもしれないが……」

「はっきりと申し上げます。わたくし、そこまで厚顔無恥ではありませんことよ」

 元婚約者の追及をきっぱりと否定する。

「申し訳なくて、連絡をとることすら出来ませんでしたのに……まさか、そこまでお疑いになるなんて」


 淡々と答える姿は堂々としていたが、ルイーザに関すること全てを悪く捉える彼に、彼女が悲しんでいるのを敏感に感じ取ったアデルヴァルトは黙っていられなくなった。

 自分の背に隠すように優しく押しやると、急なことに目をパチクリさせる彼女に安心させるように微笑んでから、前を向く。


「クレイブ殿」

「け、剣聖様っ」


 憧れの人から話しかけられ、クレイブの声が裏返った。

 余程、緊張しているらしい。


「名は聞いていたが、こうして直接顔を会わせるのは初めてか」

「は、はいっ。あの、その節は大変失礼を。謝って許されることではありませんが、どうかお許しください」


 剣術指南の約束を反古にしてしまったことを、深く頭を下げて詫びるクレイブ。

 この件に関してだけは深く反省しているらしい。


 しかし、ルイーザを疑ったことに対する謝罪の言葉はない。

 その事に、苛立ちを感じている剣聖にも気づかないようだ。


「……その縁も、君の元婚約者の並々ならぬ尽力の賜物だったのだがな……自分の為に尽くしてくれた行動さえ、不貞と疑うとは。騎士失格だ」


 騎士として守らなければいけない者を護らず、疑いをかけた彼に剣聖の怒りが静かに降りかかる。


「ち、違うんです、剣聖様。信じてください!」


 憧れの人に騎士失格だと言われたクレイブは焦り、慌てて弁明する。


「俺は騎士として、騎士だからこそ弱い立場のサリーナ嬢を守ってあげなければと思って行動していただけなんです!」

「……守る順序が違うだろう」


 心底、呆れたというようにため息をつく剣聖に、ビクッとなるクレイブ。




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