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第12話 おねだり

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「うん? どうしたんだい?」

「あの、今さらですけれど、よかったんですか? わたしなんかが今宵、王子様のエスコートをお受けしても?」

「構わないさ。前に一度、公爵家の夜会に参加してみたいって言っていただろう?」

「それは……だって、王弟のランスフォード公爵様が主催されるパーティーって、女の子達の憧れなんですもん! 外国からお客様もたくさんお見えになるし、珍しいお花やお菓子、お料理なんかもあるって!」

「ははっ、そんな可愛らしい理由だったんだ? サリーナが来たがっていたのって。野心がありませんね」

 リアンが微笑ましそうにそう言うと、他の三人も同意するように頷いている……がしかし、野心がない女ならそもそも彼らに近づかないはずである。

「へ? そんな理由じゃだめですか。貴族令嬢らしくないって怒られちゃいますかね?」

「いいや。そんなことないさ。君はそのままでいい」

「ありがとうございます、ランシェル様。でも、わたし……一人じゃ心細かったですし、ランシェル様達と一緒に来れてとっても嬉しいんですけど……でも、何だか婚約者のお嬢様達に悪くって……ジョナス様やリアン様、クレイグ様にも申し訳ないです……」

「おや、嫌でしたか?」

「そんな、リアン様。皆が迎えに来てくださって、とっても心強かったです!」

「まあ俺の場合はあいつに必要ないだろ。何しろルイーザは男のエスコートなど必要ないくらいに強い奴だからな」

「ふふふっ。まあ、クレイブ様。そんなこと言ったら、ルイーザ様が可哀想ですよぉ」

「サリーナは優しいな。あいつに随分、キツいことを言われたのに」

「きっとルイーザ様も、その時、機嫌が悪かったんですよ。わたし、気にしてません」

「はぁ……こんなに素敵な子なのに、何故アンジュリーナは君に優しくできないんだろうね」

 ジョナスがため息をつく。



「う~ん。ほら、あの方って誰にでもお優しいからストレス溜めちゃってたりするんじゃないのかな? わたしなら大人しいアンジュリーナ様でも、嫌みを言いやすいんじゃないんですかね?」

 彼らの婚約者について、持ち上げる振りをしながら落としめている。その事に、ランシェル王子達は気づかず、婚約者の批判を続ける。

「……君の優しさにつけこんでいるってことだろう?」

「えっと……それは」

 その問いかけに、返事を迷う素振りをみせたサリーナ。その様子を見て、ランシェルが言った。

「無理に答えなくていい、サリーナ。思い出すのも辛いだろう」

 俯いてしまった彼女を、痛ましげに見つめる。

「我々の婚約者が迷惑をかけているようだからね。そのお詫びにと私が望んだんだ。君は気にしないで楽しめばいい」

「ランシェル様……」

 サリーナは優しい言葉にソッと顔をあげると、目を潤ませて感激したかのようにランシェル王子を上目遣いに見つめる。




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