12 / 138
第12話 おねだり
しおりを挟む「うん? どうしたんだい?」
「あの、今さらですけれど、よかったんですか? わたしなんかが今宵、王子様のエスコートをお受けしても?」
「構わないさ。前に一度、公爵家の夜会に参加してみたいって言っていただろう?」
「それは……だって、王弟のランスフォード公爵様が主催されるパーティーって、女の子達の憧れなんですもん! 外国からお客様もたくさんお見えになるし、珍しいお花やお菓子、お料理なんかもあるって!」
「ははっ、そんな可愛らしい理由だったんだ? サリーナが来たがっていたのって。野心がありませんね」
リアンが微笑ましそうにそう言うと、他の三人も同意するように頷いている……がしかし、野心がない女ならそもそも彼らに近づかないはずである。
「へ? そんな理由じゃだめですか。貴族令嬢らしくないって怒られちゃいますかね?」
「いいや。そんなことないさ。君はそのままでいい」
「ありがとうございます、ランシェル様。でも、わたし……一人じゃ心細かったですし、ランシェル様達と一緒に来れてとっても嬉しいんですけど……でも、何だか婚約者のお嬢様達に悪くって……ジョナス様やリアン様、クレイグ様にも申し訳ないです……」
「おや、嫌でしたか?」
「そんな、リアン様。皆が迎えに来てくださって、とっても心強かったです!」
「まあ俺の場合はあいつに必要ないだろ。何しろルイーザは男のエスコートなど必要ないくらいに強い奴だからな」
「ふふふっ。まあ、クレイブ様。そんなこと言ったら、ルイーザ様が可哀想ですよぉ」
「サリーナは優しいな。あいつに随分、キツいことを言われたのに」
「きっとルイーザ様も、その時、機嫌が悪かったんですよ。わたし、気にしてません」
「はぁ……こんなに素敵な子なのに、何故アンジュリーナは君に優しくできないんだろうね」
ジョナスがため息をつく。
「う~ん。ほら、あの方って誰にでもお優しいからストレス溜めちゃってたりするんじゃないのかな? わたしなら大人しいアンジュリーナ様でも、嫌みを言いやすいんじゃないんですかね?」
彼らの婚約者について、持ち上げる振りをしながら落としめている。その事に、ランシェル王子達は気づかず、婚約者の批判を続ける。
「……君の優しさにつけこんでいるってことだろう?」
「えっと……それは」
その問いかけに、返事を迷う素振りをみせたサリーナ。その様子を見て、ランシェルが言った。
「無理に答えなくていい、サリーナ。思い出すのも辛いだろう」
俯いてしまった彼女を、痛ましげに見つめる。
「我々の婚約者が迷惑をかけているようだからね。そのお詫びにと私が望んだんだ。君は気にしないで楽しめばいい」
「ランシェル様……」
サリーナは優しい言葉にソッと顔をあげると、目を潤ませて感激したかのようにランシェル王子を上目遣いに見つめる。
2
お気に入りに追加
6,375
あなたにおすすめの小説
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
旦那様、最後に一言よろしいでしょうか?
甘糖むい
恋愛
白い結婚をしてから3年目。
夫ライドとメイドのロゼールに召使いのような扱いを受けていたエラリアは、ロゼールが妊娠した事を知らされ離婚を決意する。
「死んでくれ」
夫にそう言われるまでは。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜
雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。
リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。
だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。
7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。
なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。
7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。
溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!
無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後
柚木ゆず
恋愛
※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。
聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。
ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。
そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。
ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――
【短編】国王陛下は王子のフリを見て我がフリを反省した
宇水涼麻
ファンタジー
国王は、悪い噂のある息子たちを謁見の間に呼び出した。そして、目の前で繰り広げられているバカップルぶりに、自分の過去を思い出していた。
国王は自分の過去を反省しながら、息子たちへ対応していく。
N番煎じの婚約破棄希望話です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる