15 / 138
第15話 宣言
しおりを挟む周囲から注がれる、好奇心むき出しの視線をものともせず散々いちゃついていた彼らは、シルヴィアーナたちを見つけると一直線にこちらへ向かって歩いてきた。
「……皆様、ついにここへと来られますわよ」
「あら、いやだ。見つかってしまいましたのね」
「わたくし、切実にお相手したくありませんわ……絶対に面倒なことになりますもの」
「同感ですわ、ダフネ様」
四人の令嬢がいくら嫌がろうとも、彼らの歩みが止まることはない。
ランシェル王子達の進む方向にいた紳士淑女の面々は、巻き添えを食っては堪らないとばかりにそそくさと道を開けていく。
そのため、あっという間に目の前まで来られてしまった。
「シルヴィアーナ嬢、話がある」
先ほどまでサリーナに向けていた蕩けるような甘い声と優しい笑顔は影を潜め、厳しい表情で挨拶もなしにいきなり切り出してきたランシェル王子。
豹変した王子に臆することなく、シルヴィアーナは微笑みを浮かべながら王族に対する型通りのカーテシーを完璧にこなしてみせた。
「ごきげんよう、殿下。お久しぶりにございます。お話でしたら、ランスフォード公爵にお願いして別室を用意していただきましょう。そちらで承りますわ」
今宵のパーティーには外国からの招待客も多く来ている。この国に仕える臣下の一員として、できる限り醜聞から王子達を遠ざけなくてはならない。
事前にランスフォード公爵にも話を通し、いざという時には協力してくれるようにと頼んであった。
「いや、その必要はない」
だが、シルヴィアーナの気遣いはあっさりと無視された。王子は、その場で話を続ける気でいるらしい。
サリーナの華奢な肩を優しく引き寄せると、己の婚約者をキッと睨みながら高らかに宣言する。
「シルヴィアーナ・バーリエット公爵令嬢! 今、ここで……」
「あっ、殿下……お待ちになっ……」
「黙れ! 貴女との婚約を解消する!」
シルヴィアーナが再度、止めようとするのを遮り、そう言いきってしまった。
「今まで散々、サリーナ嬢を寄って集っていじめるように指示していたのだろう? 身分を振りかざして弱い立場の彼女を傷つけたこと、いくら貴女でも許しがたい」
続けて彼女を糾弾する言葉を並べ立てる。
勿論、これで終わりということはなく、後ろ側に控えていた側近たちに意味ありげな視線を送ってみせた。
その視線に、心得たように頷いた彼らは一歩前に出てそれぞれの婚約者に向き直った。
順に自らの婚約者の前に移動し、こちらも宣言する気満々である。
2
お気に入りに追加
6,371
あなたにおすすめの小説
「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【短編】国王陛下は王子のフリを見て我がフリを反省した
宇水涼麻
ファンタジー
国王は、悪い噂のある息子たちを謁見の間に呼び出した。そして、目の前で繰り広げられているバカップルぶりに、自分の過去を思い出していた。
国王は自分の過去を反省しながら、息子たちへ対応していく。
N番煎じの婚約破棄希望話です。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる