8 / 138
第8話 主賓登場
しおりを挟む王弟であるランスフォード公爵が主催するパーティーの主賓は、ランシェル・ハワード第一王子。
ゴールデンパールを溶かし込んだかような美しく艶めく金髪と、まるでサファイアのように神秘的な輝きを放つ深みのある紺青の瞳。
黒地に細かな金銀の刺繍が施された軍服風の夜会服は、細身ながら均整のとれた長身を優美に包んでいた。
ただ立っているだけでも人目を引く強烈な存在感は、一国の王子としてふさわしい。
王家の特徴が色濃く出た美貌の王子の登場に、陶然と見惚れる令嬢達が続出した。
「なんて素敵なの。このパーティーに来て良かったですわっ」
「ええ、こうした機会でないと間近でお目にかかれませんものね!」
「側近の方々もタイプの違う美形で素敵ね。婚約者の方がうらやましいわ」
と、令嬢達がはしゃいでいる傍で貴婦人達も色めき立つ。
「近頃は益々、陛下のお若い頃に似てこられて。わたくし、年甲斐もなくときめいてしまいそうですわ」
「ホホホッ、子爵夫人ったら。お気持ちは良く分かりますけれど」
「……これで邪魔なお荷物がいなければ、もっとよろしいのにと思ってしまうのはわたくしだけかしら?」
「いいえ。勿論、皆様そう思っていらしてよ」
「やはり例の噂通り、エスコートはあの女を……」
「ええ。本当に目障りですわ、あの毒花令嬢」
女性陣の熱い視線を集めている彼が同伴してきたのは、三人の令息と一人の小柄で愛らしい雰囲気の令嬢だった。
三人の令息はランシェル第一王子の側近で、王子の右後ろに控えているのが宰相の息子でもあるリアン・ブラッドリー公爵令息。側近達の中では殿下の右腕的存在だ。
男性にしては少し長く伸ばされたストレートの蒼髪が特徴的な優男風の青年で、ダフネ・マリー侯爵令嬢の婚約者でもある。
その隣を歩いているのがアンジュリーナ・ロウ伯爵令嬢の婚約者で、魔法省長官の息子でもあるジョナス・ハーバー伯爵令息。
内包魔力が多く、コントロールにはまだ難があるものの、稀少な複数属性の使い手として将来有望だと言われている若者でもある。
そして最後尾で鋭い視線を放っている大柄な青年が、ルイーザ・ヴァレンチノ辺境伯令嬢の婚約者で、将軍の息子でもあるクレイグ・バラミス侯爵令息。
騎士として鍛え上げられた立派な体の持ち主で、剣の腕も確かだということだ。ランシェル王子の警護も任されているらしい。
いずれ劣らぬ美青年揃いなため、彼らが一堂に会するととても華やかである。
それに今は、愛するサリーナのそば近くに侍れているのがよほど嬉しいのか、無駄にその美が輝いていた。
幸せオーラ全快の彼らの周りだけ、背景もキラキラして花でも飛んでいるように見える。
それぞれの婚約者のエスコートは直前でキャンセルするという暴挙に出たくせに、堂々としたものだ。
「はぁ、呆れましたこと」
「ええ、本当ですわね。ですがこれくらい、予想通りですわよ……」
「……言ってて悲しくなりますわね」
覚悟をしていたとはいえ、間近で見る羽目になったシルヴィアーナたちの目からは、完全に光が消えたのだった……。
2
お気に入りに追加
6,371
あなたにおすすめの小説
「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【短編】国王陛下は王子のフリを見て我がフリを反省した
宇水涼麻
ファンタジー
国王は、悪い噂のある息子たちを謁見の間に呼び出した。そして、目の前で繰り広げられているバカップルぶりに、自分の過去を思い出していた。
国王は自分の過去を反省しながら、息子たちへ対応していく。
N番煎じの婚約破棄希望話です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる