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第122話 潜伏
しおりを挟むそれだけの期間があれば、他にも彼女の毒牙にかかった神官がいる可能性を危惧するのも分かる。
「神官もだが、それ以外に大神殿にいる者達の中にも親しくしていた者がいないかどうかを、現在調査中だそうだ」
「……わたくしも通っておりましたが、気がつきませんでしたわ。この大神殿で、彼女と会ったこともありませんでしたし」
「そうだろうね。君は特別プログラムを受けていたのだから、接点がないのも当然だ」
アンドレアは八歳でロバート王子の婚約者に選ばれた時点で、聖魔法の素質がある聖女候補生の少女達とは違う教育を受けていた。
そのため、顔を合わせる機会がなかったのだ。
これはグローリア王国が執っている政教分離政策のためだ。
王子妃候補になったアンドレアは聖女教育を受けられなくなったからである。
「ヒューイットは聖魔法の使い手達の直接の教育係ではなかったようだけれど、二人は何度も接触していたらしい。見ていた神官はたくさんいたよ」
ただ、課題が出来ない少女達を大神殿に所属する神官が手助けしてあげる光景は、ユーミリアだけではなく他でも見られるので微笑ましく受け止められており、特に注意を引かなかったそうだ。
「それがいつからか分からないが、彼も彼女に取り込まれてしまったと言うことだね」
「まぁ、闇の神官なら精神系の魔術には耐性があるはずですのに……」
闇の神官は厳しい戒律のもと修行を積んで、担当指導官に認められた者だけがなれる。
そのヒューイットと言う神官も闇の神官を名乗っていた。相当、優秀だったはずだ。
それでもユーミリアに取り込まれたと言うのか……。
今回彼は、ユーミリアを救い出したいという気持ちを王妃派に利用されたのだろうが、これでエリートコースから転落してしまった。
「確かにそうだけれど、術者本人に好意を持ち、気を許してしまうと隙を突かれる。自ら受け入れることに同意したことになってしまうんだ。余程のレベル差がないと、精神攻撃は防げないだろうと言うことだった」
「精神耐性も万能ではない……ということですのね」
「そうだね。ところでこのヒューイット・シモンズという闇の神官だけれど。君は知っているかい?」
「いいえ、兄様。わたくしは存じ上げませんでしたわ」
アンドレアも聖女候補として五歳の頃から大神殿に通っている。
知り合いだったとしても不思議ではなかったが、知らない人だった。
そのことにどこか安堵しながら、首を振った。
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