上 下
122 / 128

第122話 潜伏

しおりを挟む
 

 それだけの期間があれば、他にも彼女の毒牙にかかった神官がいる可能性を危惧するのも分かる。

「神官もだが、それ以外に大神殿にいる者達の中にも親しくしていた者がいないかどうかを、現在調査中だそうだ」

「……わたくしも通っておりましたが、気がつきませんでしたわ。この大神殿で、彼女と会ったこともありませんでしたし」

「そうだろうね。君は特別プログラムを受けていたのだから、接点がないのも当然だ」

 アンドレアは八歳でロバート王子の婚約者に選ばれた時点で、聖魔法の素質がある聖女候補生の少女達とは違う教育を受けていた。

 そのため、顔を合わせる機会がなかったのだ。

 これはグローリア王国が執っている政教分離政策のためだ。

 王子妃候補になったアンドレアは聖女教育を受けられなくなったからである。



「ヒューイットは聖魔法の使い手達の直接の教育係ではなかったようだけれど、二人は何度も接触していたらしい。見ていた神官はたくさんいたよ」

 ただ、課題が出来ない少女達を大神殿に所属する神官が手助けしてあげる光景は、ユーミリアだけではなく他でも見られるので微笑ましく受け止められており、特に注意を引かなかったそうだ。


「それがいつからか分からないが、彼も彼女に取り込まれてしまったと言うことだね」 

「まぁ、闇の神官なら精神系の魔術には耐性があるはずですのに……」

 闇の神官は厳しい戒律のもと修行を積んで、担当指導官に認められた者だけがなれる。

 そのヒューイットと言う神官も闇の神官を名乗っていた。相当、優秀だったはずだ。

 それでもユーミリアに取り込まれたと言うのか……。

 今回彼は、ユーミリアを救い出したいという気持ちを王妃派に利用されたのだろうが、これでエリートコースから転落してしまった。



「確かにそうだけれど、術者本人に好意を持ち、気を許してしまうと隙を突かれる。自ら受け入れることに同意したことになってしまうんだ。余程のレベル差がないと、精神攻撃は防げないだろうと言うことだった」

「精神耐性も万能ではない……ということですのね」

「そうだね。ところでこのヒューイット・シモンズという闇の神官だけれど。君は知っているかい?」

「いいえ、兄様。わたくしは存じ上げませんでしたわ」

 アンドレアも聖女候補として五歳の頃から大神殿に通っている。

 知り合いだったとしても不思議ではなかったが、知らない人だった。

 そのことにどこか安堵しながら、首を振った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!

朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。 怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。 マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。 だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

AK
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」 私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。 ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。 でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。 私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。 だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

マルフィル嬢の日々

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉襦袢を着込んだ肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットを始めた。そして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することをスタート目標に、更生計画を開始する! ※こちらはアルファポリス様、小説家になろう様で投稿させて頂きました「婚約破棄から〜2年後〜からのおめでとう」の連載版です。タイトルは仮決定です。

処理中です...