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第109話 闇の神官

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「許可が下りた理由は?」

「申請によると、学術研究の為だとか……」

 言われて見てみると、確かにそう書いてある。

「分隊長……」

「仕方がない。面会が防げないのなら、囚人に会わせる前に一度直接面談するか。勝手に動かれても困るし釘を刺しておこう」

 はぁ、と億劫そうに息を吐いて言う。

「そうですね。少しでも、誰にどんな指示を受けているのか、聞き出せるといいのですが……」

「でも、相手は闇魔法の使い手ですよ。難しいんじゃないですか?」

「……分かっているさ」


 闇魔法持ちの人族は稀少でその能力は利便性が高い。しかし、負の誘惑が多い属性としても知られている。

 相手の精神や記憶を操れるということもあり、使い方を誤れば即、犯罪者になってしまう。その為、一般的には危険視される能力でもあるのだ。

 だからこそ闇属性持ちと判明した時点で神殿に保護され、誘惑に負けず、正しい使い方が出来るように心身ともに鍛えられることが求められている。

 この黒の塔には魔術妨害の魔法がかかっているため心配ないとは思うが、闇の神官は闇魔法の理解を深める為に心理学にも精通しているらしい。

 話術にも優れ、交渉術も上手いと聞く。つまり、魔法なしでも厄介だということ。


(これでは、やり手の外交官を相手にするのと一緒じゃないですか……)


 レイラは部下達に悟られないよう、密かにため息をつく。

 猪突猛進系の分隊長や、融通の効かない性格である自分では簡単に言いくるめられそうだと思って。



 闇の神官対策に頭を悩ませ、考え込んでしまった分隊員達のところへ、伝令兵がやって来てカトリアナに何かを耳打ちしていった。


「ん? どうした?」

「分隊長。それが例の神官がもう、塔の受付まで来ているそうです」

「……悩む時間さえ、与えてくれないみたいですね」

「チッ、仕方がない。皆、面会人から目を離すなよ」

「「「「はっ」」」」



 一応、正規の手続きをして来た人だから、丁重に扱わないといけない。

 囚人への面会に先立ち、幾つか注意点があると言って一度、面会室の一室に来てもらう。

 指示通り大人しく入って来た神官に自己紹介をしてから椅子を薦める。

 彼は、ヒューイット・シモンズと名乗った。

 優秀な者が集まる大神殿に仕えているとのことなので、高い能力を持った術者だと認識しておいた方がいいだろう。

 着席したのを確認してからマリエッタは口を開いた。

「心して聞いてほしい。もし従えないようであれば、許可があっても貴方をこれより奥へは通せないのだ」

「ええ、勿論」

 厳しい表情で告げられた言葉にもにこやかに頷く闇の神官を見て、すぐに説明を始める。

「先ず、囚人は牢から出せないので、神官殿自ら牢屋の前まで足を運んでもらうことになる」

「はい」

「牢の中は勿論だが、この塔全域で魔法は使えない。面会の申請理由が学術研究となっているが、下手な真似はしないように」

「ええ、ここは黒の塔ですからね。分かっております」

 魔法を使う気などないと、返事を返してきた。




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