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第一章 辺境の町
第205話 霧の魔樹
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翌朝からまた、朝一で北門前に集合して、北の森で迷いの魔樹の捜索を開始した。
昨日と同じように親株になりそうな魔樹や、魔素が濃い場所にあるのだけは急成長を警戒して間引きながら、『マップ作成』に迷いの魔樹の位置をマーキングしていく。
その途中で初めて、一体の霧の魔樹に出くわした。
パーティーを結成するときにラグナードから聞いていたけど、魔樹のなかでもその名の通り霧を発生させ惑わせる特性のある個体らしい。
その霧には、広範囲に広がって視界を奪うだけでなく、幻術で思考力をも奪い取ってしまう効果もあるのだとか。
ただの霧かと思って油断していたら、いつの間にか捕らわれてしまっていたということもあるみたい。
ゆっくり惑わされるので気付きにくく危険性が高い。そのため、優先的に討伐しないといけない魔樹のひとつらしかった。
私の『索敵』スキルはまだ1Kmぐらいしか見透せないので、ラグナードに教えて貰わなければちょっと危なかったかもしれないけど。
彼の『索敵』はレベル5もあるから、障害物の多い森の中でも常に広範囲をカバーできる。
それは余裕で、一番耐性のないリノが幻術に引っ掛からずに済む距離でもあった。
上級冒険者がこうして一緒にいてくれると、森の中奥に来るに当たって安心感が違うし、本当に彼とパーティーを組めてよかったよ。
今回もリノには念のため、幻術の及ぶ範囲外にある樹の上で荷物と一緒に待機してもらっているけど、迷いの魔樹討伐の時より距離が倍近くあるのでちょっと心配。
急いで討伐して帰って来なきゃね。
近づくにつれて、微かに水音がするのは何でだろうと思っていたけど、着いてみて驚いた。
魔樹の下に小さな水溜まりが出来ていたんだよね。
霧のせいで視界が悪いけどよくよく見てみると、樹皮から絶え間無く水が染みだし根元へと滴り落ちている。樹液なのかな……甘くて美味しそうな匂いが辺りに充満していた。
どうやらその甘い水の匂いで獲物を誘き寄せては溶かし、見る見るうちに消化・吸収してしまうらしい。そこから栄養を補給しては、成長と繁殖に役立てているんだとか。周りに骨とかの残骸も何も残っていないのは、丸々全部、溶かしきってしまうからだという……何それ、ちょっと怖い。
「甘水が樹全体を覆っていて、火魔法にも耐性があるから効かないんだ。もちろん、他の魔樹と同じように水魔法も元気になるだけだから使えない。霧の魔樹を魔法で倒すには、土魔法か風魔法を使うしかないんだよ」
物理攻撃だとやっぱり危険度が増すし、大剣では歯が立たないらしいから、魔法攻撃が一番効果があるらしい。
「なるほど。私も風魔法で援護した方がいい?」
「いや、大丈夫だ。この大きさならまだ俺の土魔法で倒せるからな」
「わかった。 じゃあ、ここはお言葉に甘えてお願いします。ちなみにこの魔樹って、魔石以外にも取れる素材はあるの?」
「あるよ。あの樹液がそうだ」
「あれが? 甘い匂いがしてるし、もしかして食材とか?」
「まさか。あれは錬金素材になるんだよ」
何でもあの霧の魔樹の本体は、ほぼ甘い匂い放つ水分で出来ているらしくて、倒して魔石を抜き取ると形を保てずにドロドロに溶けてしまうんだとか。
そこから固形物になるまで水分だけを抜き取り、濃縮させたものが幻術耐性の素材として使われるそうだ。
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