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第8話 仮面舞踏会での婚約破棄はお断り

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「ではリリアナ。本当に……お相手にポアロ男爵令嬢だとバレなかった、と思っていいんだね?」

「うんっ」

 うん、じゃなくてハイかエエで答えるんだと、最終確認をする父の横から兄の突っ込みが入る。

 礼法の先生みたいだなぁと呑気に思っていたら睨まれた。怖い。

 ついに心の声でも聞こえるスキルを身につけたの?


 ――兄なら出来そうなところがまた、怖いんですけど。


「ええ、もちろんですわ。お兄様! オホホホッ」


 内心、恐れおののきながら、慌てて上品に見えるように控えめな微笑み付きで返事をした。

 うん、完璧ではないだろうか。

 これでどうよと自慢気に兄を流し見るとまた、はぁっとため息をつかれた。


「まあまあ、サヴィルよ。そのくらいにしてやりなさい」

「ですが父さん……」

「暫くは様子を見るしかないだろうからね」

「……分かりました。では僕が、得意先の貴族家から情報収集しておきます」

「うんうん、それがいい。全く、優秀な息子がいてくれて儂は心強いよ」

「はい、お任せを」

 面倒かけやがって、とブツブツ文句を言われもしたが、父親に褒められたことで機嫌が直ったのか見るからにうれしそうだ。

 こう言うところは兄も単純で可愛いげがあると思う。
 
 ともかくことなかれ主義の父親のおかげで、お説教は有耶無耶になった。

 無礼講がまかり通るパーティーだったし、たとえうっかりバカ呼ばわりしちゃったお相手の身分がこの国の王子だとしても、そう面倒なことにはならないだろうという冷静な判断もあったようだが。

 概ね許してもらえたらしい、とホッとするリリアナ。


「いいか、今度こそ一枚剥がれてもいいように、何重にも猫を被っておくんだぞ!」

 嫁の貰い手が無くなるからなっ、と大変に失礼なことを宣う兄。

「も、もちろんですわ、お兄様!」

 やらかした自覚はあるのでここで反論はしない。

 リリアナは愛想笑いを浮かべ、コクコクと全力で頷いておいたのだった。





 その後の数日間はドキドキしながら過ごしたのだが、父達の読み通り、あの寸劇そのものがなかった扱いにされたらしい。

 ほっと胸を撫で下ろしたリリアナだが、安心したらしたでやっぱり一言くらいは文句を言いたくなるもので……。


「もう二度と、仮面舞踏会で婚約破棄なんてしようとしないでよね!!」


 アホ王子のいるであろうお城に向かって、思いの丈を叫んだのだった。




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