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第一章 目覚めた記憶

第59話 貴族って面倒くさい

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 ここは身分制度のある世界だし、当然ながら職業にも貴賤がある。

 貴族というのは、家柄や先祖がなした過去の栄光に無駄に誇りを持っているものだし、体面や評判などを非常に気にする生き物だ。その子息、息女が冒険者だというのは外聞が悪く、忌避される。

 何故なら、誰もがやりたがらないような汚れた仕事や命懸けの魔物討伐などを、金を貰って引き受けるのが冒険者だからだ。
 一定の生活水準を維持できるのは、実力のある限られた者だけだし、食い詰めた市民がなるものというイメージがつきまとう。

 冒険者を雇い、レベル上げを手伝わせるならともかく、自らが冒険者となって鍛えるなど上位貴族としては褒められたことではない。
 貴族は貴族らしく、優雅に己を鍛えることが求められるわけで、ヴィヴィアン達のようなやり方は歓迎されないのである。



 現に四人の実家もあまりいい顔をしていないし、社交界で噂にのぼっても困るからと、密かにやるようにと言われて何とか認めてもらった経緯がある。

「貴族ってめんどくさいですわねぇ」

「ははっ、そうですねっ」

 前世の記憶が戻るまでは、疑問に思ったこともなかったのだが、今はその感想に尽きるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇ 



 冒険者ギルドに着くと、二階にある小会議室の一つに向かった。

 ギルド会員ならお金を払えばいつでも借りられるその部屋は、事前に使用者登録がされていた。本人達しか入れない仕様なので安心だ。

 それでも一応、入る前に周囲の人影を確認してから、順番にギルドタグをかざしす。このタグが鍵代わりになっているので、それを使って扉を開けるのだ。

 素早く中に入ると、室内には先客がいた。先にシリルが来ていたようだ。



「あら、シリル様。お早いですわね」

「すみません、シリル様。お待たせしてしまいましたか?」

「やあ、二人共。気にしなくていい、私が時間より早く来すぎただけです。それより、今日もご一緒に登場とは……君達はいつも仲がいいね?」

 何でしょう? 全く表情は動きませんが、ご機嫌が悪そうですわね? 言葉にトゲがありましてよ。

「その方が都合が良かっただけですわ……リリアンヌ様は?」

「後から来ますよ。ヒューシャ男爵令嬢とその取り巻きに、私達が一緒に行動しているのがバレると面倒なのでね。別々に行動するようにしているんです」

 ……何だか今、という、副音声が聞こえてまいりましたけど……。

 やはり、婚約者が別の男性と行動しているというのは、目的のためとはいえ気分が良くないと言うことでしょうか……他意はありませんのに。

「……そう、なんですの」

「ええ、そうなんですよ?」

 そう言うと、ジ、ジィ――ッと眼力を込めて見つめてこられた。

 ち、ちょっと、シリル様。貴方まだ十四才のお子様ですわよね!? そのお年ですでに、威圧感ありありでしてよ。
 お人形さんのように美しく整ったお顔でそんな表情をされますと、怖さ倍増ですっ。

 一緒に行動している説明をしろと無言のうちに詰め寄られているような気分になりますが、でもここはあえて知らんぷりして貝になります!

 お口チャックですわ。 ない腹を探られては敵いませんし、口では絶対彼に勝てませんからっ。




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