乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ

文字の大きさ
7 / 12
露呈

1

しおりを挟む
「その後は、知っての通りやっと会えた可愛いロシュを抱きしめて、この部屋に押し込まれてーー」

 そう言って、目の前のすっかり美しく育ったウィミリオンは、小首を傾げスイーツよりも甘い笑顔を浮かべている。
「お、押し込まれてなんて人聞きの悪いーーひゃっ! 」

 癖のかかった薄金色の髪が揺れると、大きな手が背中に回り覆い被さる様に抱きしめられる。

「本当に会いたかった……」


 大人の色気を纏った今をときめくウィン卿が実はミリオンでーーウィミリオンでーー
 ノアは聖女の取り巻きになって悪役令嬢わたしのいなくなった聖女は王太子ルートでの……
 まさかの逆ハーレムエンド?
 私がルイーズってウィミリオンにバレたーーえ?
 私を見つけ出すために王国中を探したーーーええ?
 さらっと話してたけど魔族と人間の混血だけど地位を確立して私と一緒になるために魔族討伐してるーーーーえええ!?

 いきなりの話にただひたすら驚いたーー
 しかしあの泣き虫でいつも私について回ってたミリオンがマダムグレースの孤児院に来るまでそんな境遇で育ち、その後も平坦ではない人生を歩んでいたなんてーー。迷惑をかけまいと孤児院のみんなの記憶まで消してーー
 孤児院に迷惑をかけまいと思う気持ちは、メインストーリーが終わるまでいつ訪れるかわからない断罪を恐れていた自分と重なったこともあり、話を聞きながら何度も涙が溢れた。
 帰る場所もない、心の拠り所もないーーその不安がよくわかる。

 抱きしめて私の肩に頭を埋めるーーむしろ擦り付けてくる彼の背中に、そっと手を添えるとビクリと跳ねる。
「頑張ったんだねーー私には想像もつかないけどーー大変だったね。またミリオンに……ウィミリオンに会えてとっても嬉しいーー」

 広くなった背中をぽんぽんと、あやすように撫でた。

「ロシュ……」

 ウィミリオンが埋めていた頭を上げると黒い瞳に私がうつる。
 美しい顔立ちと吸い込まれそうなその瞳はきっと素顔を晒しても世の女性たちは頬を赤らめ迫ってくると思う。壊れそうなものに触るように大きく骨ばった手が私の頬に添えられると、ちゅっとキスを落とされた。

「ーーへ?」

 突然の出来事に呆けているとゴツゴツした両手で顔を押さえられ2度3度啄むついばむように柔らかなキスが降ってきた。

「っん!んぅ!」

 なんだかんだでお年頃の彼は理性がプッツンしてしまったんだろうか!? なんか手慣れてる??! そういえばさっき私と一緒になるためにとかなんとか聞いた気がするが頭がうまく働かない。やめさせようと両手で自分の口を覆うと今度は左手の甲にキスを落としたところでピタリと止まった。

「……順番、間違えちゃった」

 そう言ってこの半魔こあくまはイタズラっぽく笑った。



 翌日“ウィン卿”と近くの小洒落た店で食事をとっていた。
 新聞で顔が割れているため黒い魔力目隠しを外すわけにもいかず、目元を隠してもなお整った容姿をしている彼は今日はなんだか貴族のような服装をしていて注目を集めている。
 ーー実際貴族になったんだったっけーー

「考えてみたら、ロシュと二人きりで出かけるのはこれが初めてだね」
「本当だね! あんなに一緒にいたのにーー不思議ーー」
「折角のデートなのに、この目隠しは人前で外せなくてーーごめんね? ねぇ、ロシュは、この数年間……こ、恋人とかいたのかな?」

 昨日あんなことをしておいて今更顔を赤くしたウィミリオンが尋ねてきた。いないよと答える。ここまで必死に生きてきてーー

「……よかった……元恋人は全員抹消しようと思ってたから」

 不穏な呟きはこれまでを振り返る耳には届かない。
 おもむろに席を立ち私の横まで来ると恭しく跪き、

「ずっとあなたを探していた。あなたがぼくの帰るべき人でありたった一つの心の拠り所だったーー」
「ロシュ、ぼくと結婚してください」

 そう言って、私の瞳とよく似た紫色の宝石が付いた指輪をそっと差し出した。



 

 公衆の面前で行われたプロポーズは瞬く間に噂になり、翌日には新聞のトップを飾ったーー

ーー魔族討伐貢献の騎士、話題の湯屋店主に告白ーー
ーー紫眼の美女、ロシュ嬢の返事やいかにーー

 新聞には“髪がサラサラいい香りになる湯屋”など店の評判もかかれていて、宣伝になったのか翌朝から洗髪剤だけでもっと客が押しかけ大忙し。ウィミリオンへの返事を保留にしたきり会う暇もないままーー
 その日も店の外で通りの邪魔にならないよう行列の整理をしてそろそろ日も暮れようかという頃、海辺の通りを豪華な馬車が走ってきたと思うとこの店の前に止まった。
 ドアが開くと赤い髪の男性にエスコートされながら、金髪にドレス姿の女性が降りてきてーー

 心臓がドッドッと鳴り嫌な汗をかくーー。
 あの髪、あのピンクの瞳、間違いないーードキストで散々みたものーー



 攻略対象であり弟であるノアが、そこにいた。

 二人が店に入ると、何やら騒がしくなった。


 何しにきたんだろうーー

 いくら評判の湯屋といっても、冒険者やちょっと裕福な商人平民が来るところで、けして貴族が利用する場所ではない。

 「オーナー! お客様がお見えです」


 応接室へ行くとノアと金髪の女性が上座に着席していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...