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やけ酒って何か起きる?その2
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「さっ、最近、連絡しても返ってこないことが多かったんだけどぉ」
ヒック、ヒックと涙を流しながら、あゆみが語り始めた。
元々、二人は忙しく現実で会うのは月に1、2回。ゲームの狩りも暁は効率派で、無駄話はあまりしなかったらしい。
それでも、連絡だけは毎日とっていたのに4月以降それがだんだん減って行き……。
暁が泊まりに来たタイミングでスマホを見たら、ギルドの、別の女の子と頻繁に連絡をとっていることがわかったとか。
それでも、あゆみが所属している趣味の劇団の公演を見に来てくれたり、女の子とは単に連絡をとっているだけだと思おうとしていたと。
しかし今月、暁に呼び出され別れ話をされ、まだ納得できないと冷却期間を置いていたところに、りなから“連絡をとっていた女の子”と暁が腕を組んでいる写真が送られてきたんだと、泣き散らした。
あの時のーー
先日、りなと食事に行った帰り際を思い出す。暁と一緒にいた、黒髪ストレートの女の子。ギルドメンバーだったんだ。
わんわんと泣くあゆみさんの背中をさすり、お店の迷惑になるからと4人でカラオケに移動した。
あゆみさんが連絡したという、残りの来ていないメンバーへは、大地さんから連絡を入れてもらった。
カラオケでも、おつまみとビールをこれでもかと注文し、選曲は失恋ソング縛り。
「決めた! 私ぃ、相手の女に直接言ってやるら!」
いきなり、マイクを持った曲の途中でそう言うと、あゆみさんはパタリとテーブルに突っ伏し……
ーーそのまま寝てしまった。
「え、寝ちゃった!?? ど、どうしよう二人とも!?」
「いやー……俺も相当眠い」
時刻は深夜3時。4人で5時間以上失恋ソング縛りカラオケをしていた。
「どっちにしろ終電ないしねぇ。も、ここで朝まで寝とこう」
ぽちぽちと、恐らくミラクルさんに連絡を打ちながら、既に向かい側のソファに横になってそう言う大地さん。
テーブルに伏せた姿勢のあゆみさんを、足は下に下ろしたままそっとソファーに横たえ、持ってきていたストールをかけると、照明を薄暗くし、私と檸檬くんはソファーの角へ移動した。
「この辺で寄りかかって寝るしかない、か」
「だね。ねっむ」
隣に座る檸檬くんに方はぶつかるが、お互い顎を逸らすように壁に頭をつくと、そのまま意識を手放したーー。
ーーーーーー
「カシャッカシャッ」
機械音と瞼越しの眩しい光に、意識が浮上していく。
エアコンの効いた部屋、だけど右側が妙に温い。
左手で目頭を擦る。
あ、化粧落ちる。
「おはよぉ、起きたぁ?」
あゆみさんが、とってもニコニコしながらこちらを見ている。
「あ、ゆみさん。おはようございます……二日酔い、とか大丈夫ですか?」
あゆみさんは綺麗にネイルの施された指を、ピンと4本揃えにんまりした口元を押さえながら、反対の手で私の右側を指差す。
右ーーそういえば何を枕にしてたんだろう。
くるりと頭を回すと、自分の右腕が隣の腕と組まれて膝に落ちている。さらりとしたTシャツが頬に触れ見上げれば、檸檬くんが頭をこちらに傾けて眠っていた。
「!!!!!!」
「気付いた? あまりに可愛らしくって、写真撮っちゃったから送るね」
語尾に完璧にハートが付いている。そっと自分の頭を離す、体は離せない。角に座った私たちは、お互い絶妙なバランスでもたれかかっているようで、今身体を起こすと檸檬くんが倒れてきそうだ。
「れ、冷房つけっぱなしで寝ちゃったから……」
ちらりと見やれば、まだ大地さんも眠っている。
「うんうん。ちょっと涼しかったよねぇ。ストールかけてくれてありがとう、ねこまんまちゃん」
昨日の荒れっぷりが嘘のように、あゆみさんは朝から上機嫌だ。
「それでぇ? 二人はどこまで進んだのかな」
否、揶揄いモードなだけだった。タレ目がちの大きな瞳を、にんまりと歪ませる。
「え!? どこまでも何も、名前とお互いの家知ってるだけですよ!?」
「えーー……、付き合ってないのぉ?」
「ハイ」
「檸檬くんってぇ、いつも前髪と眼鏡で顔隠してるけど、とっても整ってて美しいよねぇ。早くしないと、他の子に取られちゃうよぉ?」
「うーん、あんまりそう言う風に考えたこと無くって」
「あゆみ、二人はとってもお似合いだと思うけどな」
語尾に大きいハートが三つくらい付いてる。そんな気がした。
しばらくすると檸檬くんが起きて、最後に大地さんをみんなで起こしカラオケを後にした。
6時半から営業していると言うカフェへ行き、ホットサンドと温かい珈琲を身体に流し込む。
「3人とも、こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。いっぱい泣いて、飲んで、だいぶスッキリしたよぉ」
そう話すあゆみさんの目元は赤い。
「ギルドの女の子ともね、誰とは言わないけど本当は仲良くしたい子だったんだぁ。中々現実で会える距離じゃないから、今度ゲームの中で……ちゃんと話してみるね」
「あゆみさん……」
「それでいいんじゃないかな。あゆみも、その子も、誰も悪くないよ。暁も、ちゃんとはっきり言って偉い。ただ、今まで好きだった人をいきなり諦めろって、その人がもうこっちを向いてないって、何度経験したって辛いものは辛いよねぇ」
コッペパン……大地さんは、何度もそういった経験があるかのように、遠い目をして両手をコーヒーカップへ添えた。
「大地が言うと、説得力あるね。……暁と、ずっと向き合っていたかった。まだあたしは暁のこと見てるのに」
大きな瞳に涙の幕ができる。それを溢すまいと、あゆみさんはぐいっと顔を上げ珈琲を煽った。
「もしかすると、みんなの好きなギルドメンバーを一人か二人追い出しちゃうかもしれないけど、許してね。しっかり話して、けじめつけたら、次はもっといい男探してやるんだぁ」
「うん……がんばれあゆみさん!」
今は、“がんばれ”がちょうどいい言葉な気がした。
ヒック、ヒックと涙を流しながら、あゆみが語り始めた。
元々、二人は忙しく現実で会うのは月に1、2回。ゲームの狩りも暁は効率派で、無駄話はあまりしなかったらしい。
それでも、連絡だけは毎日とっていたのに4月以降それがだんだん減って行き……。
暁が泊まりに来たタイミングでスマホを見たら、ギルドの、別の女の子と頻繁に連絡をとっていることがわかったとか。
それでも、あゆみが所属している趣味の劇団の公演を見に来てくれたり、女の子とは単に連絡をとっているだけだと思おうとしていたと。
しかし今月、暁に呼び出され別れ話をされ、まだ納得できないと冷却期間を置いていたところに、りなから“連絡をとっていた女の子”と暁が腕を組んでいる写真が送られてきたんだと、泣き散らした。
あの時のーー
先日、りなと食事に行った帰り際を思い出す。暁と一緒にいた、黒髪ストレートの女の子。ギルドメンバーだったんだ。
わんわんと泣くあゆみさんの背中をさすり、お店の迷惑になるからと4人でカラオケに移動した。
あゆみさんが連絡したという、残りの来ていないメンバーへは、大地さんから連絡を入れてもらった。
カラオケでも、おつまみとビールをこれでもかと注文し、選曲は失恋ソング縛り。
「決めた! 私ぃ、相手の女に直接言ってやるら!」
いきなり、マイクを持った曲の途中でそう言うと、あゆみさんはパタリとテーブルに突っ伏し……
ーーそのまま寝てしまった。
「え、寝ちゃった!?? ど、どうしよう二人とも!?」
「いやー……俺も相当眠い」
時刻は深夜3時。4人で5時間以上失恋ソング縛りカラオケをしていた。
「どっちにしろ終電ないしねぇ。も、ここで朝まで寝とこう」
ぽちぽちと、恐らくミラクルさんに連絡を打ちながら、既に向かい側のソファに横になってそう言う大地さん。
テーブルに伏せた姿勢のあゆみさんを、足は下に下ろしたままそっとソファーに横たえ、持ってきていたストールをかけると、照明を薄暗くし、私と檸檬くんはソファーの角へ移動した。
「この辺で寄りかかって寝るしかない、か」
「だね。ねっむ」
隣に座る檸檬くんに方はぶつかるが、お互い顎を逸らすように壁に頭をつくと、そのまま意識を手放したーー。
ーーーーーー
「カシャッカシャッ」
機械音と瞼越しの眩しい光に、意識が浮上していく。
エアコンの効いた部屋、だけど右側が妙に温い。
左手で目頭を擦る。
あ、化粧落ちる。
「おはよぉ、起きたぁ?」
あゆみさんが、とってもニコニコしながらこちらを見ている。
「あ、ゆみさん。おはようございます……二日酔い、とか大丈夫ですか?」
あゆみさんは綺麗にネイルの施された指を、ピンと4本揃えにんまりした口元を押さえながら、反対の手で私の右側を指差す。
右ーーそういえば何を枕にしてたんだろう。
くるりと頭を回すと、自分の右腕が隣の腕と組まれて膝に落ちている。さらりとしたTシャツが頬に触れ見上げれば、檸檬くんが頭をこちらに傾けて眠っていた。
「!!!!!!」
「気付いた? あまりに可愛らしくって、写真撮っちゃったから送るね」
語尾に完璧にハートが付いている。そっと自分の頭を離す、体は離せない。角に座った私たちは、お互い絶妙なバランスでもたれかかっているようで、今身体を起こすと檸檬くんが倒れてきそうだ。
「れ、冷房つけっぱなしで寝ちゃったから……」
ちらりと見やれば、まだ大地さんも眠っている。
「うんうん。ちょっと涼しかったよねぇ。ストールかけてくれてありがとう、ねこまんまちゃん」
昨日の荒れっぷりが嘘のように、あゆみさんは朝から上機嫌だ。
「それでぇ? 二人はどこまで進んだのかな」
否、揶揄いモードなだけだった。タレ目がちの大きな瞳を、にんまりと歪ませる。
「え!? どこまでも何も、名前とお互いの家知ってるだけですよ!?」
「えーー……、付き合ってないのぉ?」
「ハイ」
「檸檬くんってぇ、いつも前髪と眼鏡で顔隠してるけど、とっても整ってて美しいよねぇ。早くしないと、他の子に取られちゃうよぉ?」
「うーん、あんまりそう言う風に考えたこと無くって」
「あゆみ、二人はとってもお似合いだと思うけどな」
語尾に大きいハートが三つくらい付いてる。そんな気がした。
しばらくすると檸檬くんが起きて、最後に大地さんをみんなで起こしカラオケを後にした。
6時半から営業していると言うカフェへ行き、ホットサンドと温かい珈琲を身体に流し込む。
「3人とも、こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。いっぱい泣いて、飲んで、だいぶスッキリしたよぉ」
そう話すあゆみさんの目元は赤い。
「ギルドの女の子ともね、誰とは言わないけど本当は仲良くしたい子だったんだぁ。中々現実で会える距離じゃないから、今度ゲームの中で……ちゃんと話してみるね」
「あゆみさん……」
「それでいいんじゃないかな。あゆみも、その子も、誰も悪くないよ。暁も、ちゃんとはっきり言って偉い。ただ、今まで好きだった人をいきなり諦めろって、その人がもうこっちを向いてないって、何度経験したって辛いものは辛いよねぇ」
コッペパン……大地さんは、何度もそういった経験があるかのように、遠い目をして両手をコーヒーカップへ添えた。
「大地が言うと、説得力あるね。……暁と、ずっと向き合っていたかった。まだあたしは暁のこと見てるのに」
大きな瞳に涙の幕ができる。それを溢すまいと、あゆみさんはぐいっと顔を上げ珈琲を煽った。
「もしかすると、みんなの好きなギルドメンバーを一人か二人追い出しちゃうかもしれないけど、許してね。しっかり話して、けじめつけたら、次はもっといい男探してやるんだぁ」
「うん……がんばれあゆみさん!」
今は、“がんばれ”がちょうどいい言葉な気がした。
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