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やけ酒って何か起きる?

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「お、有名人じゃん。ついに筋肉装備やめたのか」
「ーーっ、それ言わないで」

 ゲームの中で有名になってしまった私は、見た目ムキムキになるが能力値の上がるレア装備をついに外した。そのため“ねこまんま”は見た目普通のモンクになり、キャラクターネームをしっかり見ないとバズった投稿の人だとバレない。
「私があの装備を脱ぐ日が来るなんて……屈辱!」
「アハハ、ねこまんま筋肉装備めちゃくちゃ気に入ってたもんねー」

 文字のみのやり取りで音声は出ないのに、どうもこのキャラが喋るとチャラチャラして聞こえてしまう。
「棗にレンタルしてあげようか? 筋肉装備」
「……そのまま売っていい?」
「レンタルだって!」

 他愛もないチャットをしながら狩りをしてく。あのオフ会以来、棗のゲストークは一切炸裂しなくなった。本当に私のこと中身男だと思っていたのだろう。

「最近さ、幼馴染の女の子とはどうなのーー?」
「何々? 久々に赤裸々チャット見たくなっちゃった?」

 ゲームの中の“ねこまんま”が棗に向けてパンチを入れる。

「っぶねー! 紙装甲なんだからモンクのパンチなんて受け止められねぇって! 回復よろ」

 デスペナ食らったらどうしてくれるんだとぶつぶつチャットを打っている。

「いやさ、棗の幼馴染、絶対棗に本気だと思うんだよね。詳しい行為のところは毎回呼び飛ばしていたけど! 毎朝実家忍び込むところとか、勝手に襲ってくるとかさ」

「……いや。あいつ、恋に恋してるだけなんだよ。隣に住んでたのが、俺じゃなくたってぜってー同じことしてた」
「そうかなぁ。まぁ、私は棗の願望と主観にまみれたチャット読んでただけだから、棗の方がよくわかってるんだろうけどさ」

 するとモンスターを狩っていた棗が「ニヤリ」と言う表情を作って。
「えっち! やっぱり読んでたんじゃねーか」
「いや、そう言う部分は読んでないって! しつこいともう狩り一緒に来てやんないからね! この紐男め!」

 前衛のキャラの後ろから弓矢で狙いを固定して撃ち続け、ろくにスキルを使わない棗を盛大に罵った。
 もう今日の狩り切り上げよう。
 そう思って敵のドロップアイテムを拾い出す。
「それに俺、今他に気になる子いるしーー」

 ドロップアイテム獲得のログに埋もれて、そのチャットは見えなかった。


◇◇◇


 世の中夏休み、しかし社会人の私たちには関係ないある日、あゆみさんに現実で呼び出された。
 飲み屋に。

「暁と別れた」

 到着するや否や、既にほのかに酔った様子のあゆみさんは目尻に今にもこぼれ落ちそうな涙をためて、そう言い放つ。
 駅で合流して一緒に歩いてきたコッペパンさん、檸檬くん、私は席につかないうちから絶句する。
 “檸檬くんあゆみさんの隣座りなよ”
 “ええ!俺やだよ。絶対絡まれる”
 “コッペパンさん!”
 “ごめんねぇねこまんま、ミラクルが大切だからここは譲るねぇ”

 コソコソとそんなやりとりをして、結局あゆみさんの隣に私、私の向かい側に檸檬くん、その隣にコッペパンさんが着席した。
「ダークトリガー……桐谷が来てなぁい」

 グビグビと酒を煽り、中身が溢れそうな勢いでテーブルに置く。
「他にも誘ってるんですか?」
「そぉだよぉ。えっとぉ、りなとハヤトは仕事で、愚鈍なパンダとズコット、ダークトリガーはみんな近いから読んだんらぁ」

 3人で顔を見合わせる。なんとなく、パークでの印象的にダークトリガーは予定が空いていてもこなさそうだ。
「愚鈍なパンダさんやズコットさんは、檸檬くんやコッペパンさんはあった事あるんですか?」
「まって、ねこまんまちゃん。頭が疲れるから名前で読んでもらおうかな。俺は大地って言うよ。檸檬くんの名前は知ってるんだよね?」
「あ、大地さんですね。わかりました! 檸檬くんはれんくんだよね!」
「覚えてたんだ。俺は桜って呼んでるのにずっと“檸檬くん”だから、忘れられたかと思った」
「いやぁ、ダークトリガーとかもそうなんだけど、なんか現実の名前で呼ぶのって気恥ずかしくって」

 以前のオフ会では相当気を使ってくれていたのだろう。今日は周りのグラスも、食べ物も気にせず、あゆみは次のグラスを注文していた。

「それで……なんで別れることに?」
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