上 下
9 / 42

オフ会のあと

しおりを挟む
ーーギルドメンバー ミミミがログインしましたーー
 ゲームのギルドチャット画面が、メンバーのログインを知らせる。
 今日は棗は来ないだろうしと、ソロで狩場に来ていた。
「お、ねこまんまちゃん昨日はお疲れ様ー」
 ギルドチャットでミミミーーこと、あゆみさんから話しかけられ、狩をしながらチャットを打つのは中々シンドイ。他のメンバーのチャットが踊る。
「昨日って何々!?」
「ねこまんま、ついにギルドオフ会デビュー!?」
「ミミミさん、昨日お疲れ様でした。すみません、今狩場で」
 マウスをクリックしつつ、スキルのタイムラグの間に左手だけでタイピングする。両手じゃないと遅いって。

「いやぁ、ねこまんまちゃんがあんなに可愛いなんてー!」
「何々、ミミミさん!ねこまんまって結局男なの!?おっさんなの!?」
「ちょっと待って、それどっちも男じゃん! 女だって言ってるのに」
ーーギルドメンバー 檸檬がログインしましたーー
「ばんわっす」
「檸檬くん、昨日はお疲れ様ー」
「檸檬も昨日オフ会行ったのー?」
「あ、ハイ。行きました」
「うわー、俺も行けばよかった! ねこまんまって、結局どうなの?」
「あーー、それは秘密なんじゃないっすかね」

 女だって突っ込みたいけど、チャット打つ余裕がない!悔しい!
 ああー、今日はダメだな。狩りやめようかなーー。
 ギルドチャットが気になって仕方ない。
「ねこまんま、今狩場?」
「そ。」
ーー檸檬がペアリング機能 転送 を使用しましたーー
 会話ログにそんなシステム表示が出ると、狩場に檸檬くんが現れた。
「来ちゃった」
「わーい、じゃ援護お願い」
 ペアリングしていると、ゲーム時間1日につき一度だけ相方の元へ飛べるという便利な機能がある。
 この機能があるから、よく一緒に狩りをする檸檬くんと私のキャラ“ねこまんま”はゲームのペアリングーー結婚システムを利用している。

 白系ピンクのショートヘアに赤い目、長めの睫毛、装備に“筋肉ムキムキローブ”を着ている。
 大事なところは隠れているが、腕やお腹がムキムキに見えるアイテムで、攻撃力も上がる優れものだ。
 レア装備だし美人キャラがムキムキってかっこいいと思うんだけどなー。
 
 パーティを組んで経験値がお互い入るようにしたまま、1時間黙々と狩りをしていく。
「レベル上がりそ?」
「まだ全然ー!檸檬くんは?」
「こっちもまだまだ。そろそろ戻ろうよ。アイテム持ちきれない」
「了解」


 唄う者ギルドのある街に戻ると、ドロップしたアイテムを分けてギルド部屋に向かった。
「ねこまんまお疲れー」
 会話ログを見るといつの間にかあゆみさんが落ちていて、棗がインしている。
「あれ?棗まだ東京にいるんじゃなかったの?」
 確かオフ会で2泊3日くらいするって聞いたような。

「まだこっちいるよー。これ今、ギルマスのPC借りてるんだ。ミミミも後ろで見てるよー」

 するとギルドチャットが荒れだした。
「え、棗とミミミさんそういう関係!?」
「うわーー聞きたくなかったーー」
「爆乳美女の部屋……やばい鼻血が」
「雑誌に載るようなイケメン美容師と美女!リア充め!爆ぜろ!」
 ギルドメンバーの阿鼻叫喚が流れ続ける。

「そんな関係じゃないけどね! おっかない番犬もいるし。部屋の隅っこでオトナシクシテマスヨ」

 ゲームの中の棗がジロリとした表情で、ギルドチャットではなく近場にいる人だけ見れるチャットを流す。
「ねこまんまさぁ、なんで連絡先教えてくんないのー」
「あ、断ったんだ」
「うん、檸檬くんも交換してないって言ってたし。リアルで棗と取る連絡なんて、ナイ」
「うわっひでー。どうせ檸檬とは交換したんでしょ」
「まぁ一応?ゲームのヨメだし?」
「差別だーー! 俺もねこまんまの後ろでモンクの甘い汁吸いたかったーー」
「そんなんだからペアリング相手いないんだよ! しっかり働け紐男!」

◇◇◇

 カタカタとタイピングしていると、パソコンの横でスマホが光った。電話だ。
「もしもーし」
「ねこまんま?今電話いい?」
「うん。なんか画面の中で棗が騒いでるけど、イイデショ」
 画面の中では棗が一人で暴れていた。ギルド部屋の中は攻撃されてもダメージを受けない。
 "二人してROMかよ?怪しすぎる"とかなんとかログが流れる。

「あのさ……俺朝、眼鏡、持って出たよね?」
「え?うん。カフェでポケットにかかってたよ」
「うわー。今気づいたけど、多分どっか落とした。明日学校なのに最悪」
「えっ、無いの!?……ちょ、ちょっと一応バッグ見てみる」

 トートバックをガサガサ漁ると…………え、いつの間に入ったのさ……
「檸檬くんごめん、ありました……」
「あ゛ーーーー」
「え、全然気づかなかった。電車とかで入ったのかなぁ?」
 帰りの電車も途中まで一緒で、同じ県内とは聞いていたけど一駅違いだった。最初すいていたものの途中で混みぎゅうぎゅうだったから、入るならあの時かーー

「まぁ電車ん中落として踏まれた、とかじゃなくて良かった。着払いでいいから送ってくんない?」
 電話越しに低めの声が流れ、さっきの“最悪”ってつぶやきも脳裏を過ぎり困ってるんだろうなと想像する。
「んーー、檸檬くん家さ、きっとそんな遠くないよね?届けようか?」
「え、流石に悪いっすよ」
「まぁ車あるしさぁ」

 ゲームの中でギャンギャン騒ぐ棗を放置して二人ログアウトした。
 部屋着からギリギリ外出出来る服に着替え、聞いたコンビニに向かう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

処理中です...