猫がいない世界に転生しました〜ただ猫が好きなだけ〜

白猫ケイ

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43 獣人3

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「預かってまいりました、テレシア様!」
 翌日、レオンとエルの隷属契約書を持ったエリアスにソフィア、そして別行動をとるはずだったウッドリィ神官にクロイツ第三期師団長、レドアラン公爵ーー第一騎士団長の姿がそこにあった。

 結局衝撃の昔話を聞いた後、すぐにそこへは迎えない……とレオンの隷属契約を解除したいからと待ってもらい村長の家へ泊めてもらった。

 村長の話を聞いた後、メイソン卿にエリアスへの伝言を頼み一度フリアンディーズ領へ戻ってもらった。

 卿に簡単な全容とテレシアのお願いを聞いたエリアスは大至急転移門で王都へ戻ると、父親であるランベール公爵に報告、そしてポムエット公爵家へと行きテレシアに頼まれた契約書を預かってきた。
 ランベール公爵はメイソン卿を連れて登城し謁見、ポムエット公爵は外交で不在のため、事が事だけに第一騎士団長でもあるレドアラン公爵指揮の下“獣人の村”へやってきたのだという。

「メイソン卿、それにエリアス様、ソフィア様も……ありがとうございます」
「いいんですよテレシア様。それより……話は伺いました。リンジーと獣人騎士は念の為帰しました」
「何から何まで、ありがとうございます。エリアス様、ソフィア様、ここから何があるかわかりません。お二人はこれ以上は……」

「僕は公爵家の一員として、父に代わり行かねばなりません。レドアラン第一騎士団長、騎士を一人お貸しいただければミュレー侯爵令嬢と共にここに残ってもらおうと思いますがいかがでしょう? もしも僕らに何かあったときは、連絡してもらうようにーー」

「だ、そうだミュレー侯爵令嬢。頼めるかな?」

 私のことは茶化すように“テレシアちゃん”などと呼んでおきながら、ソフィアのことは侯爵令嬢、と呼び真面目だ。
 なんだか解せない。

「……わかりました。テレシア様、エリアス、きっと私がついて行っても足手まといでしょう。お戻りをお待ちしております」

「……村長、とやらに……ミュレー侯爵令嬢の宿、頼んでくる……」
 クロイツは相変わらずボソボソと喋るとふっと気配を溶かして霧の村へ消えていった。


「まずは、レオン、そしてエルの隷属契約を解きましょう」
「……テレシアちゃんは純粋だねぇ。その村長の言うこと、そのまま信用していいの?」
「え?」

 でも……ちらりと見ると痛みを我慢しているのか、昨日から無口なレオンがそこにいる……。

「レオンくんが心配?」
「もちろん……! 治癒をかけてみましたが効果はありませんし……」

「でもまずは、村長の話が本当かどうか……何か証拠がないと迂闊に契約を解除してはいけないよ、テレシアちゃん。彼が大切なら尚更ね。慎重に情報を検討し、真実を見極めないと……現に君は、キャロリーヌちゃんに言われるがままこんなところまで、ノコノコついてきてしまった。事が重大なだけに、話を聞いた俺たちが駆けつけたってわけさ」

「レドアラン公爵の仰る通りですよ。契約の解除はいつでも行えます。先に、村長が連れて行きたいと言う封印の洞窟とやらをみてみましょう。話はそれからです」

 レドアラン公爵に続きウッドリィ神官もそう言った。
 ーー二人のいうことは確かだーー
 でも……レオンにこれ以上痛みを我慢させるのは……
 あまり顔には出さないが……

「テレシア、俺は大丈夫だ。それに村長もダニエルも、ちっとも信用できない……先に洞窟へ行こう」
「ボク、もーーな、何もお役に立てないのにこんなことを言うのは何ですが……」

「そんなことないよ! エル、自分のことがわからない不安な中、こんなところまでついてきてくれてありがとう。エルさえ良ければ、ソフィア様たちと待っていてもらうこともできるけど……」

 エルは思い詰めたようにその美しい瞳を揺らした。

「ボク……行かなきゃいけない気がするんです。ボクも、連れて行ってくださいーー!」

「わかった……無理はしないでね、エル、レオンも。レドアラン公爵様、ウッドリィ神官、騎士の皆さんも、今日は遠い所改めてありがとうございます。……行きましょう」





「準備が整ったようじゃな、守護者様。お連れの方々も、ようこそおいでくださいました」
 クロイツと村長と村の中腹で合流すると、周りには獣人のような村の住人と思われる人々が集まっていた。
 キャロリーヌの従者風の服ではなく、簡素な村人の装いのダニエルもいる。

「これだけ人間が集まるのは珍しくてね。村人に悪気はございませんテレシア様」

「そうですか……彼らも、獣人と人間の混血なのですか?」
「大体のものは……そうですね。それより、さあ……参りましょうか」



 村長の家を通り過ぎ村の奥を進んでいくと、木々が生い茂り一際霧が濃くなっていった。村長の後に騎士が続き、テレシア達は守られるように歩きながら、その奥の岩壁にある洞窟の入り口へと辿り着いた。
 暗かったはずの洞窟の中は進むにつれ明るくなり、光る苔のようなものが至る所についていて幻想的だ。

「これはーー光苔ですね。本で読んだことがあります。こんなに沢山ーー」
「光苔は……そんなに、珍しくない。ただ……この量は、多い」
 静寂と神秘に包まれた空気に、足音とエリアス、クロイツの声が響く。

「金緑色に輝いて……こんな幻想的な光景、初めて見ましたーー」
 素直に感想を述べている場合ではないかもしれないが、そんな言葉が口をついて出た。

「ここですじゃーー」

 大きな空間に着くと村長はそう、口を開いた。いや、それよりも目の前の光景に目を奪われる。
 洞窟の中だというのに、大きな白い木がそびえ立っている。その枝は光を撒き散らすかのように辺りを幻想的に照らしていた。
 その美しさに誰ともなく感嘆の声がこぼれる。

 一歩足を踏み出すと、コツリと硬い音が響き、それまでの土や苔の空間から違う材質へと変わったことを知らせた。
「わ、地面が……」
「レオン、見てーー地面がーー」
 横にいるレオンを見ようとすると、そこにいたはずの存在が、スローモーションのようにゆっくり傾いていく。
 ドサリ、と音を立ててレオンが倒れほぼ同時にエルも倒れた。
「レオンーー、エルーー! 」

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