猫がいない世界に転生しました〜ただ猫が好きなだけ〜

白猫ケイ

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38 フリアンディーズ領2

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「お待ちしておりましたわ」

 荷解きをしていると、水色の縦ロールを弾ませてキャロリーヌがやってきた。フリルがたっぷりとあしらわれたドレスを身に纏い、それは一昔前に流行ったデザインだった。
 先程話があったようにそれ故なのか、単純にキャロリーヌの好みなのか。
 確か寮での寝巻きか部屋着もフリルに埋もれていた気がする。

「この度はお招きいただきありがとうございます。転移門からの絶景には驚かされました」

 キャロリーヌは扇子を広げ、上機嫌なようにホホホと口元を覆う。

「そうですのよ、あの眺めはフリアンディーズ領ならではのものですの。昔から“ルトルヴェール王国の一度は見ておきたい絶景”に入っておりますのよ」

「一度は見たい絶景……それは存じませんでした……!ちなみに、他には何処があるのでしょう?」

「まぁ、ご存知なくて? 全て教えて差し上げますわ。まず欠かせないのはなんと言っても、王都のーー」

「指出がましいようですがお嬢様、まずは皆様をお部屋へと案内して差し上げてはいかがでしょう。お話は、その後ごゆっくりと」

 白髪混じりの紳士ーー執事らしき男性は、優しい笑みを湛えながらそう助言した。

「そうですわね、じいや。案内を頼みますわ」
「ようこそおいでくださいました。わたくし、執事のウォルターと申します。ご滞在中ご不便等ございましたら何なりと、お申し付けください」

 じいやと呼ばれた執事は全員を見渡すと、ふと、エル、レオン、リンジーが馬車から降りるのを見て鋭い表情かおをしすぐに元の柔らかい笑顔に戻った。
 見間違いかな?

「失礼ですが、そちらの方々は?」
「あぁ……ご紹介が遅くなり失礼しました。私の従者のレオン、エルと、エリアス・ランベール公子の従者のリンジーさんです」

「キャロリーヌ様は獣人がお好きとのことでしたので、僕も今回は獣人であるリンジーに同行してもらいました」

「まぁぁぁ! エル様も相変わらず可愛らしいですがリンジー様はとってもお美しいですわね。私、こんなにふわふわしたお耳の獣人様は中々見たことがありませんわ」

 コホン、と咳払いをして深い緑のワンピースを着たライラが口を開く。

「キャロリーヌちゃん、いえ、キャロリーヌ様ご無沙汰しております。ライラ・モンドです。学園を出た身ではありますが、この度はご招待誠にありがとうございます」

「まぁ! ライラ先輩でもその様な話し方ができますのね。遠路はるばるおこしいただき、こちらこそありがとうございますわ。どうぞ、いつもの様にお話しなさって! そうでないとこちらの調子まで崩れてしまいますわ」

「では、遠慮なくキャロリーヌちゃん」

 そうして部屋へ案内され、当人の希望でエル、獣人騎士のマスカット、リンジー、ライラが同室、レオンと獣人騎士2人、人間の騎士2人も各同室となった。獣人女子3人組とライラは一緒に寝るのだとか。

「何それ羨ましい! 3人の間に私も入りたい!」
 羨ましすぎて強請るようにレオンを見上げる。

「勘弁してくれ……あまりねだると、生贄に俺が差し出される……」
「生贄ってどういうこと?」

 意味がわからなくてマスカットやエルを見やると、耳と尻尾を押さえて目を逸らされる。

「何でライラ先輩はよくて私はダメなんですか! ずるいです先輩」

「んふふ~。私はテレシアちゃんと違って、大人ですからね」

 結局誰も教えてくれないまま許可は降りず、私、ソフィア、エリアスはそれぞれ一部屋ずつ客室を使うことになった。
 持ってきた荷物を整理し、エル、レオンと、護衛を務めるマスカットと共に軽く休憩していると、みんなが集まり今後の流れについて確認があった。

 エリアスが指揮をとる。

「良いですか? テレシア様はご自分の従者と各自行動して良いですが、騎士は最低でも1人つけるようになさってください。従者を連れてきていないソフィアは、困ったことはリンジーへ。しかしなるべく僕と共に行動してもらいます。ライラ様は単独行動が都合が良いでしょう。いざという時魔法が使える方が良いので、人間の騎士を必ず連れて動いてください。騎士陣は夜間の警護もあるため交代で休みながら、大変でもよろしくお願いします」
「かしこまりました」
「はい、エリアス様質問です」

 講義の様に手を挙げて質問する。

「テレシア様、どうぞ」
「ライラ先輩だけ何故単独なんですか? 」
「それは私が答えましょう。私は、私の性格・行動パターンをきちんと把握しています。その普段の行いから、初めてのフリアンディーズ領に浮かれて、はたまたこちらの領地の獣人を見かけてついて行っても、教えてほしいと使用人に聞き込みをしても、通りを徘徊しても、キャロリーヌちゃんから怪しまれることは全く、全然無いことでしょう!!」
「……通常いつも通りですもんね」
「僕も父上から、“ライラ・モンドはそういう人物だ”と伺っております」
「いやぁ、ランベール公爵様にまでその様に褒められていたなんて、光栄です」

ーー何処に褒めている要素があったんだろうーー

 その場にいる全員がそう思ったが、誰も口に出さなかった。

 それは学園にいる時も、獣人を愛でるチームで行動している時も、いつもそうだったライラ先輩のごく普通の、ライラ先輩なら当然ともとれる行動だった。

 なる程、先輩程今回の調査にぴったりの人物はいないと言うわけだ。
 言わば私たちはカモフラージュ?


「そういう訳です。ーーテレシア様、ここは王都ではありませんので、繰り返しになりますが、ライラ様と同じ様な行動をなってはなりませんよ」

 エリアスの言葉に同意する一同。
 ライラ先輩と同列扱いをされ何故か既視感を覚える。
 解せない。

「あ、後、ライラ様も、テレシア様もーー皆さんご存知かと思いますが、ここより北ーー壁を越えたその先の森へは行ってはなりませんよ。馬車で話しました、以前魔物の氾濫があった森です」

 東西を海に挟まれたフリアンディーズ領の北は、鬱蒼と木々の生い茂る広大な森だった。以前魔物と遭遇した、ゼリムの街付近の森とはその規模は比べ物にもならない。

「ウッドリィ神官様は2日後に領内神殿へ到着予定です。僕らは明日、キャロリーヌ様のガイドでフリアンディーズ領を観光することとなっております。今晩晩餐に招待していただけると思うので、その時に詳しく話しましょう。ウッドリィ神官様は、昼間は治癒業務がございますので恐らく、行動なされるのは夜、そして同行されるクロイツ第三騎士団長がメインとなるかと思われます」

 友人ながら、いつの間にこれ程頼もしくなったのだろう。
 あれ?
 そして王城に呼び出されたにもかかわらず、今回の作戦の詳細を私ではなくエリアスに伝えられているのは何でだろう?
 そう疑問に思ったところで、聞いてもため息しか返ってこないところがみんなの悪い癖だよね。

 あ、きっとランベール公爵の仕業ね。
私に話すより息子に話す方が呼び出す手間も省けて楽ですものね。
 そう考えを巡らせては心の中で独りごちた。

 繊細な見た目とは裏腹に、今回の作戦をエリアスがしっかり纏めたところで一度解散となった。
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