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29 会議1

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「ボッボクがこんな……ことをしていただいて、いいのでしょうか……」

 ブラウスとズボンに身を包んだ獣人の子供は怯えながら口を開いた。
 白を基調とした煌びやかな客間の一室に、獣人の子供とテレシア、レオンはいた。
 事の顛末てんまつを目撃したお迎えの騎士に、判断を仰ぐため同行するよう連れられ、治癒魔法で傷を癒やし身なりを整えるべくこちらへ通された。
 王城へ向かう馬車の中で獣人の子供の傷を癒し、服はお城で貸してもらうことができた。


 ドアをノックする音が響くと、先程の騎士ともう一人が迎えに来た。

「ポムエット公爵令嬢、並びにレオン様、陛下がお呼びです」

「あーーこの子はどうすれば?」

 そう言えば名前を聞いていなかったーー
 でも聞ける雰囲気でもないよね?

「そちらの方は、このままこの部屋にて私が事情をお伺いし報告します。先刻お伝えしました通り、獣人への今後について把握しております為、無体むたいなことはいたしませんのでご安心ください」





 案内されて会議室のような部屋に通されると正方形の大きなテーブルの向こう側には陛下、カミーユ神殿長が座り、右側にお父様ポムエット公爵、ラベンダー色の髪をしたお父様と同い年程の男性、左側には見知らぬ面々と共にーー……タイラー卿、ウッドリィ神官がいた。

「かけなさい、テレシア、レオン」

 言葉を発するより早く、お父様に着席を促されるが……示された席に驚いた。

 そっそんなところ座れないよぉ!!
 国王陛下とカミーユ神殿長が並んで座っているのは、神殿の力を思えば当然だと思う。
 しかしかけなさいと言われた席は神殿長の隣、陛下と3人で並んで座る形になるーー!
 それとも“かけなさい”とは座りなさいと言う意味ではない!?
 でもその横にもう一脚ある席が多分レオンの分ーー!?

「わっ、私のような若輩者が、陛下や神殿長と並んで座ったりできませんーーっ」

「良いのですよ、テレシア様。あなた様は神より特別な“名”を授かっております。この席で間違いありませんよ」
「レオンさん、テレシア様の隣でもお好きな位置へおかけなさい」

「そっうなのですね、わかりました」

 中性的なその声で神殿長にそう言われてレオンの手を握り引くが、動かない。
 グギギギギっと音がしそうな程、笑顔でレオンの手を引っ張ると目を見開いて無理だと無言で訴えられる。

ーーいやいやいやいやほんと無理ーー
ーーおーねーがーいーっ!!!!ーー

 結局レオンが折れて着席すると、お父様が小さく「娘が申し訳ない」と独りごちる。

 だってこんな錚々そうそうたる顔ぶれの中、一人上座になんて座れない。

「さて、では全員揃ったな。私から紹介しよう」
「私と神殿長と並んで座したのが6年前神より“名”を授かった、テレシア・ポムエット嬢だ。現在学園に在籍する側、神殿長に同行し“弟子”として治癒を学んでいる。万が一の事態に備えるため“特別な従者”である獣人の同席を許してもらいたい」
「そしてテレシア嬢、見知った者もいると思うが改めて紹介しよう」



 陛下の言葉に全員が頷くと、メンバーの紹介があったーー

「まずはポムエット公爵、外交を取り仕切る。次に文官のランベール公爵」
「エリアスがお世話になっております」

「レドアラン公爵、第一騎士団団長でもある」
「やっっっと獣人の守護者に会えて嬉しいよーー」

「先日行動を共にしているだろう、タイラー第二騎士団長」
「……なっ、何故私までここに……」

「クロイツ第三騎士団長、ウィント第四騎士団長、アメスクア第五騎士団長だ」
「よろしくねぇ~」


 第五騎士団長だと紹介された女性がひらひらと手を振る。
 講義でも習って薄々わかっていたがこの国三大公爵が集結していた。

「そして神殿長の右腕でありルトルヴェール国内の小神殿を管理するウッドリィ神官」



 ーーえっ? さらりと紹介があったけどウッドリィ神官は神殿長の右腕ーー?
 じゃあやっぱり私の正体を把握してるよねぇ?
 “神殿長の弟子”としてベールを被っている時睨まれている気がしたのは気のせいじゃない!? 
 カミーユ様もあの気まずい無言の馬車で教えてくれれば良かったのにーー!
 やっぱりベールで顔見えないからって、寝てたんじゃありませんかーーーー!?

 笑顔で頷きながら心の中は大荒れだった。

「今日話し合うべきことは何点かあるが……まずゼリムの街付近の魔物についてと、そこで発現した“獣人の守護者” テレシア嬢の能力について第二騎士団長より話を聞こう」

 タイラー卿が経緯を説明し森で遭遇した魔物を読み上げると、次に神殿長が私の発動した魔法について説明していく。

「ふむーー触れたものを破壊、消滅させる見えない魔法の壁かーー凄まじい威力だな」
「それをそちらの獣人レオンの危機に発動した、と」

 ランベール、レドアラン公爵が語尾を引き取ると、カミーユ神殿長がさらに、と続ける。

「テレシア様は2歳の頃、獣人を守ろうとして獣人商人を“弾き飛ばす”の発動や、感情が乱れポムエット公爵夫妻すら弾き飛ばし獣人であるレオンさんのみ彼女テレシア様の隣にいることができたという事態もあったそうです」

「なんとっ」
「2歳で? 魔力暴走じゃなくて?」

「その件に関しては、本日テレシア嬢をお迎えに上がった騎士からも報告を受けております。先ほど学園にて、暴行を受けそうになった獣人を守ろうとしてテレシア嬢がところ、危害を加えようとした生徒を弾き飛ばすところを目撃したとのことです」

 神殿長の説明に一瞬間が空く。

「右拳を勢い良く…?」

 シュッと空を切ってレドアラン公爵が右ストレートの姿勢をとると、陛下が笑った。

「はははっ! 要は殴ってしまった、と言うことか! 中々テレシア嬢はお転婆なようだな、ジュール」
「返す言葉もございません」

 穴があったら入りたい……
 

「そういえば、先のゼリム街付近の魔物調査の折りテレシア嬢より面白い見解があったとタイラーより報告を受けました。好戦的であり人を襲うキンググリズリーの様な強力な魔物達がこれまで一度も街を襲うことがないのは不自然だ、と」

「待ってくださぁい。フリアンディーズ地方ではあったじゃぁありませんかぁ。“辺境地の悲劇”がぁ……。あの地では前陛下がぁ強大な魔法で殲滅してくださったからこそぉ、今は平和が保たれているんじゃないですかぁーー」

「アメスクア卿、もう少しシャキッと話して欲しい……」

 レドアラン公爵が急に真面目な声色で話すとアメスクア卿がふわふわと提言し、それに小声で突っ込むクロイツ卿。

 おもむろにランベール公爵が立ち上がる。

「それについて、興味深い報告が上がってきておりますーー。お手元の資料をご確認ください……獣人です」

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