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27 魔物
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翌日、昨夜どんなお説教があったのか、顔色の悪いウッドリィに傍目も憚らず何故か睨まれならが森へと向かった。ウッドリィは、弟子の正体を知らない。知らないはずだが、周囲も認めるカミーユのストーカー……
把握しているんじゃないかな?
ヴェールの下でそっとため息をつく。
カミーユ神殿長とウッドリィ、その向かい側に私、レオンと座って馬車での移動。ちなみに残りの神官や見習い計3名はもう一台の馬車で、ウッドリィも最初そちらに乗るよう神殿長に促されたものの、何だかんだと言い訳をして神殿長の隣に陣取った。目の下にクマを量産しながらも、嬉しそうにカミーユを見ている。
学園に通って6年、色々な魔法が使えるようになった私は、今日はどの様に立ち回ったら良いか本当は相談したかった。べールを被り、第二騎士団の団長以外や神殿関係者には中身が私だということは伏せてあるため、弟子として光魔法と、昨日披露してしまった土壁以外は使わない方がいいのだろうか。
カミーユ様、どこを見て何を考えてるのかわからないしなぁ……
ヴェール被ってると寝ててもわからないかも。
そんなことを考えている内に、会話のない馬車がとまり、先導していた騎士団と森の入り口よりかなり離れた場所で馬や馬車を置いて歩いて向かうことになった。
歩き出すと私とレオンの周りには、自然と獣人騎士団の面々が集まってきた。とは言っても、獣人は魔法が使えないため神殿メンバーのカミーユ、ウッドリィ、見習い、第二騎士団半分、獣人騎士団半分という布陣で、こちらには神殿長の弟子ということになっている私、見習いを装うレオン、神官、第二騎士団と獣人騎士団の残りのメンバーという組み合わせになった。
私たちの知らないところで話し合いがあったのだろう、いつもはレオンに気さくな獣人騎士団の面々も今は他人のふりをしている。
「おじょ……んん“っ! お弟子様、先日は改めて、ありがとうございました」
紫色の髪と尻尾をピコピコさせながら、グレープが話しかけてくる。
「いえいえ、お役に立ててよかったです。これがお仕事とはいえ、獣人騎士団の皆様が傷ついている姿は見たくありませんから」
怪我しないでね、っと遠回しに言ってみる。当のグレープたちは表情が見えないことから“怪我をしたら許さない”と受け取ったと後から知った。
「昨日のような魔物は、よく出るんですか?」
白い帽子を目深に被ったレオンが口を開いた。
「昨日の……キリンググリズリーですね。第二騎士団でも実物を見たのは初めてで、咄嗟にわかりませんでした。それくらい、珍しい魔物です」
「私も、本で読んだことがあります。森の奥深くに巣を構え、滅多に目撃例がないと記述されていたような……」
以前“ねこしゃん”を探して本を読み漁っていた時見た記憶がある。それがどうして、あんな森の浅い場所にいたのだろう。レオンも同じように考えたのか、騎士に続きを促すように視線を送った。
「元々、キリンググリズリー程ではありませんが、森の奥に行かなければ遭遇することのなかったレッドサーペントやビッグボンボアなど、大型の魔物が目撃されることが増え、我々に調査要請がありました。ある程度は覚悟していましたが、まさかあの様な強大な魔物が突如出現するとは……我々にも何が起こっているのか……」
「そうだったんですね……」
「王都の近くではこんなことがないのに、最近地方のあちらこちらで以前より魔物が増え、狩りきれないこと、今回の様に大型の魔物が出て来ること、が増えてきています。数が希少な上、民の治癒も担ってくださっている神官様方には大変申し訳ないことですが、今日はもしものことがありましたら是非そのお力をお貸しくださいーー!」
「微力ではございますが、治癒はお任せください」
騎士の誠実な声に対し、近くを歩いていたモリス神官がそう返事をした。
しかしここで、疑問が浮かび上がる。
「そういえば、街中ではこれまで魔物を見かけたことがありませんでしたね。私は12歳の若輩者故偶然そういった場面に出会していないだけかもしれませんが、何故魔物は街を襲ったりしないのでしょう」
先程までやや前方を歩きながら受け答えをしていた騎士の歩みが、ぴたりと止んだ。
「先日もそうですがあの様に好戦的な魔物が、もし人間を捕食するのなら真っ先に街を襲っても不思議はありません。しかしこれまで、栗鼠や一角兎など小物が付近に出ることはあっても……その様な大型の魔物は聞いたことがありません。言葉はよくありませんが、警備も手薄な“手軽な人間”がそこにあるのに、手を出さなかったのはーーあるいは、出せなかった?」
考え込みながら話していると、更に前方を歩いていたカミーユや第二騎士団長の班も歩みを止め、こちらを見ている。レオンに肘打ちされ顔を上げると、ハッとした表情の面々が……。
「えっ! 私、何かおかしなことを言いましたか!?」
「い、いえ、お弟子様の仰る通りです……。大きな魔物は森の奥深くに住む。街には干渉してこない。これは私にとって当たり前のことのように思っていましたーー。何故これまで疑問に思わなかったのか。いくら森の入り口では小物の魔物が狩られているとはいえ、大型の強力な魔物がそれを恐れて近寄らないなど、改めて聞くと不思議な話です」
「私も神官になって長いですが、大型の魔物の街への襲撃ーー辺境地の悲劇を除きその様な事例は聞いたことがありません」
「皆様、お喋りはそこまでです、来ます」
騎士団長やモリスの話を遮りウッドリィがそう言うと、微かな地響きと共にピンク色の生き物が木々の合間から垣間見える。ビッグボンボアだ。
「カミーユ様はこちらへ! 騎士の皆様、後方は我らにお任せください!」
流石カミーユを心配して来ただけのことはあり、ウッドリィは神殿長や見習いを庇うように森との間に立った。やや吊り目気味の瞳は敵を見据え若草色のおかっぱヘアが揺れると、やや小さめのイエローサーペントに攻撃魔法を無詠唱で放つ。別方向から来たビッグボンボアは、豚に牙が生えた猪と豚の中間のような見た目で、大きい。素早く獣人騎士団が跳躍し切り付け、魔物の気をひくと第二騎士団が魔法や魔法を帯びた剣で攻撃をする。傷を負った者をすかさずカミーユが治癒する。まだ森の浅瀬だというのに、話にあったレッドサーペントも飛び出してきた。
結局この日、キリンググリズリーが出ることはなかったが大きめの魔物を多数討伐し、治癒魔法をかけながら騎士団に大きな怪我もなく無くゼリムの街へと帰還した。魔物は、なんと持ち帰って食べるらしい……。
知りたくなかった事実。
このまま第二騎士団、獣人騎士団は騎馬にて王都へ戻り、急ぎ今回のことを報告するんだとか。私達神殿メンバーは馬車で帰るため、街で解散となった。
「全く、カミーユ様がご助力されるまでもありませんでしたね! この様な場におられるそのお姿も光り輝き、立ち会うことが出来至上の喜びを感じはしますがーー! この事は本殿へ戻りましたらルトルヴェール王へ正式に抗議をーー」
「ウッドリィーー。我々は神に使える身であり、神のご威光を笠に着る様なことがあってはなりません」
笑顔ながら少し冷気を帯びた神殿長とウッドリィのそんなやり取りがありながら、その日の内に王都の神殿へつき解散となった。
ウッドリィとカミーユのやり取りをやや呆れ顔で見ているレオンをべール越しに見ながら、一人この3日間を振り返った。想定外の事態に、ウッドリィもいる手前カミーユ神殿長とろくに会話ができなかった気がする。
3日ぶりの学園へ帰る頃にはすっかり日が沈んでいて、朝から寮のお世話に来てくれていたメイドのネラに何があったのかと大層心配された。
週末だけのはずだった神殿での光魔法講義、想定外の3日目で正体露見を防ぐために学園関係へは知らせも出せていなかった。
悪いことしちゃったなーー。
翌日、今日こそ講義に出席ーー! と思ったら“王城へあがるように“という旨の知らせが届いた。
把握しているんじゃないかな?
ヴェールの下でそっとため息をつく。
カミーユ神殿長とウッドリィ、その向かい側に私、レオンと座って馬車での移動。ちなみに残りの神官や見習い計3名はもう一台の馬車で、ウッドリィも最初そちらに乗るよう神殿長に促されたものの、何だかんだと言い訳をして神殿長の隣に陣取った。目の下にクマを量産しながらも、嬉しそうにカミーユを見ている。
学園に通って6年、色々な魔法が使えるようになった私は、今日はどの様に立ち回ったら良いか本当は相談したかった。べールを被り、第二騎士団の団長以外や神殿関係者には中身が私だということは伏せてあるため、弟子として光魔法と、昨日披露してしまった土壁以外は使わない方がいいのだろうか。
カミーユ様、どこを見て何を考えてるのかわからないしなぁ……
ヴェール被ってると寝ててもわからないかも。
そんなことを考えている内に、会話のない馬車がとまり、先導していた騎士団と森の入り口よりかなり離れた場所で馬や馬車を置いて歩いて向かうことになった。
歩き出すと私とレオンの周りには、自然と獣人騎士団の面々が集まってきた。とは言っても、獣人は魔法が使えないため神殿メンバーのカミーユ、ウッドリィ、見習い、第二騎士団半分、獣人騎士団半分という布陣で、こちらには神殿長の弟子ということになっている私、見習いを装うレオン、神官、第二騎士団と獣人騎士団の残りのメンバーという組み合わせになった。
私たちの知らないところで話し合いがあったのだろう、いつもはレオンに気さくな獣人騎士団の面々も今は他人のふりをしている。
「おじょ……んん“っ! お弟子様、先日は改めて、ありがとうございました」
紫色の髪と尻尾をピコピコさせながら、グレープが話しかけてくる。
「いえいえ、お役に立ててよかったです。これがお仕事とはいえ、獣人騎士団の皆様が傷ついている姿は見たくありませんから」
怪我しないでね、っと遠回しに言ってみる。当のグレープたちは表情が見えないことから“怪我をしたら許さない”と受け取ったと後から知った。
「昨日のような魔物は、よく出るんですか?」
白い帽子を目深に被ったレオンが口を開いた。
「昨日の……キリンググリズリーですね。第二騎士団でも実物を見たのは初めてで、咄嗟にわかりませんでした。それくらい、珍しい魔物です」
「私も、本で読んだことがあります。森の奥深くに巣を構え、滅多に目撃例がないと記述されていたような……」
以前“ねこしゃん”を探して本を読み漁っていた時見た記憶がある。それがどうして、あんな森の浅い場所にいたのだろう。レオンも同じように考えたのか、騎士に続きを促すように視線を送った。
「元々、キリンググリズリー程ではありませんが、森の奥に行かなければ遭遇することのなかったレッドサーペントやビッグボンボアなど、大型の魔物が目撃されることが増え、我々に調査要請がありました。ある程度は覚悟していましたが、まさかあの様な強大な魔物が突如出現するとは……我々にも何が起こっているのか……」
「そうだったんですね……」
「王都の近くではこんなことがないのに、最近地方のあちらこちらで以前より魔物が増え、狩りきれないこと、今回の様に大型の魔物が出て来ること、が増えてきています。数が希少な上、民の治癒も担ってくださっている神官様方には大変申し訳ないことですが、今日はもしものことがありましたら是非そのお力をお貸しくださいーー!」
「微力ではございますが、治癒はお任せください」
騎士の誠実な声に対し、近くを歩いていたモリス神官がそう返事をした。
しかしここで、疑問が浮かび上がる。
「そういえば、街中ではこれまで魔物を見かけたことがありませんでしたね。私は12歳の若輩者故偶然そういった場面に出会していないだけかもしれませんが、何故魔物は街を襲ったりしないのでしょう」
先程までやや前方を歩きながら受け答えをしていた騎士の歩みが、ぴたりと止んだ。
「先日もそうですがあの様に好戦的な魔物が、もし人間を捕食するのなら真っ先に街を襲っても不思議はありません。しかしこれまで、栗鼠や一角兎など小物が付近に出ることはあっても……その様な大型の魔物は聞いたことがありません。言葉はよくありませんが、警備も手薄な“手軽な人間”がそこにあるのに、手を出さなかったのはーーあるいは、出せなかった?」
考え込みながら話していると、更に前方を歩いていたカミーユや第二騎士団長の班も歩みを止め、こちらを見ている。レオンに肘打ちされ顔を上げると、ハッとした表情の面々が……。
「えっ! 私、何かおかしなことを言いましたか!?」
「い、いえ、お弟子様の仰る通りです……。大きな魔物は森の奥深くに住む。街には干渉してこない。これは私にとって当たり前のことのように思っていましたーー。何故これまで疑問に思わなかったのか。いくら森の入り口では小物の魔物が狩られているとはいえ、大型の強力な魔物がそれを恐れて近寄らないなど、改めて聞くと不思議な話です」
「私も神官になって長いですが、大型の魔物の街への襲撃ーー辺境地の悲劇を除きその様な事例は聞いたことがありません」
「皆様、お喋りはそこまでです、来ます」
騎士団長やモリスの話を遮りウッドリィがそう言うと、微かな地響きと共にピンク色の生き物が木々の合間から垣間見える。ビッグボンボアだ。
「カミーユ様はこちらへ! 騎士の皆様、後方は我らにお任せください!」
流石カミーユを心配して来ただけのことはあり、ウッドリィは神殿長や見習いを庇うように森との間に立った。やや吊り目気味の瞳は敵を見据え若草色のおかっぱヘアが揺れると、やや小さめのイエローサーペントに攻撃魔法を無詠唱で放つ。別方向から来たビッグボンボアは、豚に牙が生えた猪と豚の中間のような見た目で、大きい。素早く獣人騎士団が跳躍し切り付け、魔物の気をひくと第二騎士団が魔法や魔法を帯びた剣で攻撃をする。傷を負った者をすかさずカミーユが治癒する。まだ森の浅瀬だというのに、話にあったレッドサーペントも飛び出してきた。
結局この日、キリンググリズリーが出ることはなかったが大きめの魔物を多数討伐し、治癒魔法をかけながら騎士団に大きな怪我もなく無くゼリムの街へと帰還した。魔物は、なんと持ち帰って食べるらしい……。
知りたくなかった事実。
このまま第二騎士団、獣人騎士団は騎馬にて王都へ戻り、急ぎ今回のことを報告するんだとか。私達神殿メンバーは馬車で帰るため、街で解散となった。
「全く、カミーユ様がご助力されるまでもありませんでしたね! この様な場におられるそのお姿も光り輝き、立ち会うことが出来至上の喜びを感じはしますがーー! この事は本殿へ戻りましたらルトルヴェール王へ正式に抗議をーー」
「ウッドリィーー。我々は神に使える身であり、神のご威光を笠に着る様なことがあってはなりません」
笑顔ながら少し冷気を帯びた神殿長とウッドリィのそんなやり取りがありながら、その日の内に王都の神殿へつき解散となった。
ウッドリィとカミーユのやり取りをやや呆れ顔で見ているレオンをべール越しに見ながら、一人この3日間を振り返った。想定外の事態に、ウッドリィもいる手前カミーユ神殿長とろくに会話ができなかった気がする。
3日ぶりの学園へ帰る頃にはすっかり日が沈んでいて、朝から寮のお世話に来てくれていたメイドのネラに何があったのかと大層心配された。
週末だけのはずだった神殿での光魔法講義、想定外の3日目で正体露見を防ぐために学園関係へは知らせも出せていなかった。
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