猫がいない世界に転生しました〜ただ猫が好きなだけ〜

白猫ケイ

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22 学園生活5

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「テレシア様!! 昨日は当家のサミュエルが助けていただき、ありがとうございましたわ!」

 ソフィアやエリアスと共に朝食をとっていると、キャロリーヌが唐突に声をかけてきた。

「あ、失礼しますの」

 ずずいっと、ソフィアの向かい側に座るエリアス……の、隣に食事を置いて着席する。
 ちなみにテオは寝坊しているのか部屋で食べるのか、まだ食堂に姿を見せていない。

「サミュエルがあんっっな目にあうだなんて! テレシア様がいらっしゃいませんでしたらどうなっていたことか、考えるだけで恐ろしいですわ。ありがとうございましたわ! 獣人様の尊さをご存知でない狼藉者には、このキャロリーヌがフリアンディーズ家の名にかけて、お仕置きしておきましたわ!」

 見事な水色の縦ロールを弾ませて、一気に捲し立てた。
 ちょっと声が大きすぎて、周囲からの視線が痛い。

「大事に至らずよかったです。サミュエルさんのお加減は、いかがですか?」

「ええ……大きな怪我はありませんが足を痛そうにしていて、今日は大人しく寝ているように言ってありますの。ダニエルも、部屋に置いてきたので大丈夫ですの!」

「そうなのですね。昨日、ダニエルさんには失礼なことを言ってしまったみたいで……気にしていたのですがーー」

「まぁ、そうなんですの? その様なことは何も申しておりませんでしたわ。お気に病まれることはありませんわ! 」

 やや早口気味の、吊り目と相まって強く感じる口調に気押されたのか、ポカーンとした様子のエリアスと目があい……

「エリアス様、ソフィア様、紹介しますね。何度か面識はあるかと思いますが、こちらはキャロリーヌ・フリアンディーズ様です。私と同じく獣人の従者をお連れなんです」

 二人にキャロリーヌを紹介した。

「キャロリーヌ・フリアンディーズと申しますの。よろしくお願いいたしますわ」

「僕はエリアス・ランベールと申します」
「私はソフィア・ミュレーです。フリアンディーズ様、どうぞ仲良くしてくださいね」

「……フリアンディーズ家と言うと、もしかして辺境伯の……?」

「え、ええ……そうなんですの。田舎から出てきて、私このあたりのことには疎いんですの。何か失礼があったらごめんなさいですわ」

 辺境伯! エリアスの口から、初めて聞くワードが出てきた。

「そうですか……あの地は、大変なことがありましたからね。ご苦労も多いことでしょう……」
「お気遣い痛み入りますわ」

『ソフィア様、辺境伯とは?』

 隣で食事をとるソフィアにこそっと聞いた。

『……私たちが産れる前、魔物が溢れて……前国王陛下が神の元へと旅立たれた地だと聞いています』

 現国王陛下は随分お若いと思っていたら、そういうことだったのか……

『以前は、専属の騎士団の保有が認められていて、この学園卒業生の有力な就職先の一つでもありました。前陛下のことがありましてから大変厳しい扱いを受けていると……』

 そっと斜め向かいを見ると、当の彼女はエリアスと談笑している。
 気丈に振る舞うキャロリーヌが急にとても強い子に見えた。





 数日後、“お披露目”の日がやってきた。
 服は制服、従者を一人まで同伴して良いらしく、私はレオンと参加することにした。
「はー、緊張するー」

「いつも通りやれば大丈夫だよ、テレシアなら出来る」

 鏡越しに、優しそうに目を細めながら髪を梳かすレオンが見える。この時間が好きだーー。
 むふふ、美少年。尊い。

「交代しよ! わたしがやってあげる!」

 立ち上がってくるりとレオンの肩に手を置き座らせると、パチパチと瞬きをした。
 ムフフ。

「……笑い方が怖いですよ、テレシアサマ」

 サラサラの黒髪をブラシで梳かすと、耳についているアクセサリーがシャララと揺れる。
 アクセサリーはもちろん似合うけど、いつか、こんなものを着けなくても自由に生活できたらいいのにーー。



 コロシアム状の訓練場が会場となっていて、新入生は訓練場、上級生は観覧席へ集まっていた。
 会場内で一際高い背に猫耳、ダニエルがいた。長身の彼は、他の従者がいても流石に目立つ。ダニエルとは、サミュエルを助けた後微妙な別れ方をしたきりで、少し気不味い。

「テレシア様、先日はご質問へお返事もせずに失礼しました」
「……ダニエルさん、いいんですよ。サミュエルくんが大変な時に、いきなりあんなことを聞かれても困りますよね。配慮不足でした」

「まだ、私たちにはそこまでの信頼関係はないと思うんです。ーーいつか、お話しできる時がくるでしょう」

「それはどう言うーー」

 そう言いかけたとき、キャロリーヌ、エリアス、テオ、ソフィアも寄ってきて話はそこまでとなった。




「「「我に宿し力よ、その末端を顕現せよ!! オーブ!!」」」

 号令と共に新入生が一斉に呪文を唱え、オーブを手元に用意する。

わぁぁぁぁーー

 観覧席から歓声と拍手が起きた。

「新入生諸君、さぁ、上空へ放て!」

 シェイバー先生がオーブフラワーと唱えると、また一斉に詠唱が始まる。

「「「上空へ舞い上がり咲き誇れ! オーブフラワー!」」」

 私も周りのタイミングに合わせて上空へ4属性のオーブを放つと、みんなの魔法も相まって色とりどりの花火のような輝きに視界が覆わる。

「壮観ですね……」

 歓声あふれる場内から、ポツリと呟くレオンの声がした。
 彼の腕を軽く掴んでいた手に、ぎゅっと力を入れる。

「うん、きれいだね」

 金色の瞳に、花火のような光がたくさん映る。もっとレオンと一緒に、いろんなものを見ていきたいな……隣でそっと思った。

 大きな拍手に包まれた後、上級生からオーブフラワーのお返しがあり、上級生全員となるとさらに圧巻だった。
 ザ・魔法使い、といった風貌の帽子を被った学園長の有難いお話があり……先日の獣人への暴行について名を濁して語り、学園内では身分を振りかざしてはならない、と二度三度お話があった。そうだよね。平民と貴族と従者もいるもの。
 そのあとは、上級生の激しいチーム紹介があった。
 学園には複数のチームが存在し、魔獣の討伐や剣や魔法の訓練、属性に特化したチーム等……上級生と行動を共にしたりもするらしい。




 白熱のPR合戦の後、園庭に移動して立食でのパーティーが開催された。
 先日の獣人暴行のことを思うと、レオンは紋章をつけてはいるが心配で、私から離れないように言った。

「はぁ~、色々なチームがありましたね。土属性活用も気になりますが、神学探求チームや読書も捨てがたいです」
「ソフィア様は好きなことがはっきりしていますね」

 隣でスイーツを頬張りながら、どのチームがいいかと話すソフィアが微笑ましい。

「僕と一緒に神学探求チームへ入りませんか? ソフィア様」
「エリアス様! 神学も良いですよね。 光属性でなければ神殿で学ぶことができませんが、神殿へ出向いて特別に講義を受けることもあるというお話でしたね」

 うっとりと話すソフィアに、うんうんと頷くエリアス。……講義の他に上級生との活動でも講義……本当に彼らは6歳なの?

「俺は魔法剣術応用チームが気になります!」

 普段の言動からは信じられないほど、上品に立食をしながらテオが元気よく答えた。幼くとも貴族なんだなぁと実感する。

「「「テレシア様は、やはりあれですか」」」

 3人が声を揃えてそういうと、隣に立つレオンが大きくため息をついた。

「はい、わたしはーー」

「ーーそこの獣人を連れたあなたーー」

 背後から声をかけてきたのは、ベージュ色の髪を結い上げた上級生でーー

「一人の獣人にアクセサリーを2つも! とても凝ったデザイン。オーブの時から見ていたけれど、この人の多い会場でピッタリと隣に立つその様子……彼を大切にしているのが一目で分かったわ! 私たちのチームに入らない?」

「はい! 喜んで!」

 先程チームアピールで見た上級生に声をかけられ、私は迷わず返事をした。

「獣人を愛でるチーム! 入らせてください!!」

 ソフィアたちから生暖かい目で見られたのは、言うまでもない。




 どうやらお披露目もこの立食も、チームの紹介と加入がメインのようで、オーブやオーブフラワーを見て属性を特定した生徒を勧誘したりと、よく見れば周りで新入生が複数の上級生に囲まれる、なんて現象も起きていた。
 先程まで隣にいたはずのソフィア、エリアス、テオも、気付けば上級生たちと談笑している。

「テレシア様、私もそちらのチームへご一緒したいですわ」

 ダニエルを連れたキャロリーヌが声をかけてきた。

「まぁ! 背の高い獣人さんですね! 私達のチームは獣人へ暴力を振るわないことが絶対条件です! そこは大丈夫ですか?」

 キャロリーヌが不愉快そうに顔を歪めつつ頷くと、上級生の女の子が説明を続ける。

「私達のチームは、獣人の従者をお連れでない方も、貴族でも平民でも受け入れます。獣人を愛し、獣人を好きな気持ちがあればどなたでも参加可能です! 獣人へ暴力を振るう愛し方は、ごめんなさいお断りさせていただいています。獣人の所在調査、獣人商人の独自調査、獣人の歴史、獣人の由来などについて研究しています。獣人衣服の受注可能店も網羅していますので、ご紹介のみの利用をする生徒もいます。内容にご賛同頂けましたら是非参加をお待ちしています!」

 なんと、学園にそんなチームが存在しているなんて。これは、王城で行われている獣人関係の法整備にかなり役立つのでは?

 チラリと横目でレオンを見るも無表情、その奥にいるダニエルが、何やら考え込んでいるのが視界に入った。
「?」

 私の視線に気付くと、ニヤリとこちらに向かって笑い、先輩の方を見た。

「失礼ながら従者の発言をお許しください」
「許しますの、ダニエル」

「キャロリーヌ様は、辺境の地で獣人を保護されている。きっとチームのお役に立てることと思います」

「まぁ! 辺境の地と言うと、もしやフリアンディーズ地方ではありませんか?」
「そうでございます。こちらは、フリアンディーズ辺境伯のご息女、キャロリーヌ様です。」

「キャロリーヌ・フリアンディーズと申しますの。よろしくお願いしますわ」

 ばさりと扇子で口元を覆いながら話す様は、ちょっと高圧的だが先輩は気を悪くした様子もなく……

「私はモンド男爵家のライラよ! チーム長の補佐をしているわ! あなたたちの先輩には平民もいるけど、学園内、及び学園に起因する活動では立場を問わないの。その辺りも大丈夫なら、是非お二人ともチームに入っていただきたいわ!」

 ニコッと笑ってモンド先輩はそう話した。

 キャロリーヌがそんな活動をしていたなんて。ますます親近感が湧いた。
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