寂しい幽霊の生かしかた

六二三(ろにさ)

文字の大きさ
13 / 15
黄色信号

八月一日

しおりを挟む
 夕暮れが近づくと友は、毎日毎日飽きることなく、外を眺めては、何かを探すような素振りをしている。

「D君、なにか見えるの?」

 友は困ったように笑って、そして少し安心していた。周囲を見渡していると思ったが、いや、何かから目を背けているのか。よく見れば実際のところ窓の縁を凝視しているようだった。

「うん、いや、外が見たかったんだけど」

「その割には見てる時に落ち着きがないけど」

 友が何を言っているのかさっぱりわからなかった。心配になった梓月は悩みを知りたかった。

「誰かいた?」

「大丈夫、不審者とかじゃないよ」

「じゃあ何……言ってくれないとわからないよ」

「言っても、わからないかも」

「それでもいいから」

 なんと説明しようか悩んでから友がしどろもどろに話始める

「丸くて、空に浮かんでて……UFOじゃなくてもっと、まんまるで……」

「見えないけど……」

「いや、絶対、絶対に」

 何か言いかけて友が横目で窓の外を見ると、直ぐに目を逸らして梓月と視線が合う。

「そこに」

「そこに浮かんでるの?」

「わかんない!怖くて、一瞬しか見られなかったから……」

友が見ている景色と自分の見ている景色が違うことはわかっていたけれど、それでも同じものを見ていたかった。

でもそれは叶わない。だからせめて、少しでも近づこうと努力するしかなかった。前まではもっと、いい世界の見え方の違いだったのに、こんなに残酷になってしまったのか。

掴めない友の身体を、何とか掬おうとする。今すぐ抱きしめてやりたかった。その瞬間に、友の傍から部屋の壁まで吹き飛ばされた。背中の痛みが引いて、友を見ると酷く苦しんでいた。俺を突き放したことのショックか、空に浮かぶあれから逃げられない恐怖か、ただ悲痛な表情をしていた。

 一人だけ運良く生き残った俺を恨んでいるだろう。俺を蔑んでいるんだろう。俺を呪っているんだろう。友のそばにいたいだけなのに、それすら願ってはいけない気がして。

かと言って、友から離れようと嫌いになりたいけれど、それもできそうになくて。悔しくて涙が零れた。

「僕のせいでごめんね」

「なあ、俺じゃ助けられないのか」

「ごめん、ごめんねえ……」

友との日常を延長するチャンスを得てしまったばかりに、目的から目を背けている。

友は俺の事なんて忘れて、こんなところに来るべきではなかった。いっそのこと祟り殺すほどに嫌ってくれればいいのに。

「梓月くん」

友の声が静寂を打った。

「あれが何に見えてる?」

友は梓月の顔を見たまま、窓の外を指さした。特に変わらない風景にしか見えない。そう、ただ普通なのだ。

「ただの太陽にしか見えないよ」

「そっ、かあ……」

そう言うと、友はハッとしたように窓の外を見た。しかし、また顔が曇る。友は笑いながら泣いていた。涙を誤魔化そうと、泣きながら笑っていたのかもしれない。

「どうりでどこまで逃げても隠れても、見られてたんだ」

「それは、何なの?」

「わからない。黒い?暗い?もしかして何も無い?それか、全てを飲み込んでいるのか。巨大な何かがそこにある。いや、太陽なんだから、そう見えるのが正しいのかな……」

外を見ると焼け爛れた真っ赤な夕焼けが来ていた。太陽から逃げるなんて考えたことがなかった。こちらが隠れて過ごすことしか出来ないじゃないか。

「もうすぐ太陽が沈むよ」

カーテンを閉めて、部屋が暗闇に包まれる。まだ少し痛む背中と腰を起こして、友の傍に歩み寄る。やけに心配そうに自分の方を見てくるので、隣に座りにくい。

首を傾げて見せると、少し心配が和らいだようだ。浮遊する友の隣に腰を下ろして足を組む。腰骨が音を立てた。

「さっき飛ばされたから身体が痛い」

「ごめんね、でもそうするしかなくて……」

友は俯きながら言った。

「触ったらダメって前言ってたのに、悪かった」

その梓月の言葉を聞いた友は、首を横に振る。そして、もう誰かに触れることを諦めた口ぶりで続けた。

「……乱暴でごめんね。ここに来るまでに家族に触れようとしたんだけど……突然気分が悪そうになって倒れて……」

話している本人も気分が悪そうな表情をしていた。無理もない。

「D君はここにいるのが苦しそうだね」

「……やっぱり生きてないのに居ちゃダメなんだなって、過ごしてて思うよ。早く成仏しないと」

「そうだよね、しないと」

梓月は素直に成仏しないで欲しいと思えず、言葉が詰まった。友が成仏したいと思うのは当然だろう。全く思い通りにならない彼のことが憎くも、それであって欲しいとも思う。穢れなく、純粋な友の心を自分のような人間の型に嵌めてしまいたくない。

穏やかな夜が来る。今日の星も綺麗だろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

あの部屋でまだ待ってる

名雪
BL
アパートの一室。 どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。 始まりは、ほんの気まぐれ。 終わる理由もないまま、十年が過ぎた。 与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。 ――あの部屋で、まだ待ってる。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

処理中です...