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黄色信号
八月一日
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夕暮れが近づくと友は、毎日毎日飽きることなく、外を眺めては、何かを探すような素振りをしている。
「D君、なにか見えるの?」
友は困ったように笑って、そして少し安心していた。周囲を見渡していると思ったが、いや、何かから目を背けているのか。よく見れば実際のところ窓の縁を凝視しているようだった。
「うん、いや、外が見たかったんだけど」
「その割には見てる時に落ち着きがないけど」
友が何を言っているのかさっぱりわからなかった。心配になった梓月は悩みを知りたかった。
「誰かいた?」
「大丈夫、不審者とかじゃないよ」
「じゃあ何……言ってくれないとわからないよ」
「言っても、わからないかも」
「それでもいいから」
なんと説明しようか悩んでから友がしどろもどろに話始める
「丸くて、空に浮かんでて……UFOじゃなくてもっと、まんまるで……」
「見えないけど……」
「いや、絶対、絶対に」
何か言いかけて友が横目で窓の外を見ると、直ぐに目を逸らして梓月と視線が合う。
「そこに」
「そこに浮かんでるの?」
「わかんない!怖くて、一瞬しか見られなかったから……」
友が見ている景色と自分の見ている景色が違うことはわかっていたけれど、それでも同じものを見ていたかった。
でもそれは叶わない。だからせめて、少しでも近づこうと努力するしかなかった。前まではもっと、いい世界の見え方の違いだったのに、こんなに残酷になってしまったのか。
掴めない友の身体を、何とか掬おうとする。今すぐ抱きしめてやりたかった。その瞬間に、友の傍から部屋の壁まで吹き飛ばされた。背中の痛みが引いて、友を見ると酷く苦しんでいた。俺を突き放したことのショックか、空に浮かぶあれから逃げられない恐怖か、ただ悲痛な表情をしていた。
一人だけ運良く生き残った俺を恨んでいるだろう。俺を蔑んでいるんだろう。俺を呪っているんだろう。友のそばにいたいだけなのに、それすら願ってはいけない気がして。
かと言って、友から離れようと嫌いになりたいけれど、それもできそうになくて。悔しくて涙が零れた。
「僕のせいでごめんね」
「なあ、俺じゃ助けられないのか」
「ごめん、ごめんねえ……」
友との日常を延長するチャンスを得てしまったばかりに、目的から目を背けている。
友は俺の事なんて忘れて、こんなところに来るべきではなかった。いっそのこと祟り殺すほどに嫌ってくれればいいのに。
「梓月くん」
友の声が静寂を打った。
「あれが何に見えてる?」
友は梓月の顔を見たまま、窓の外を指さした。特に変わらない風景にしか見えない。そう、ただ普通なのだ。
「ただの太陽にしか見えないよ」
「そっ、かあ……」
そう言うと、友はハッとしたように窓の外を見た。しかし、また顔が曇る。友は笑いながら泣いていた。涙を誤魔化そうと、泣きながら笑っていたのかもしれない。
「どうりでどこまで逃げても隠れても、見られてたんだ」
「それは、何なの?」
「わからない。黒い?暗い?もしかして何も無い?それか、全てを飲み込んでいるのか。巨大な何かがそこにある。いや、太陽なんだから、そう見えるのが正しいのかな……」
外を見ると焼け爛れた真っ赤な夕焼けが来ていた。太陽から逃げるなんて考えたことがなかった。こちらが隠れて過ごすことしか出来ないじゃないか。
「もうすぐ太陽が沈むよ」
カーテンを閉めて、部屋が暗闇に包まれる。まだ少し痛む背中と腰を起こして、友の傍に歩み寄る。やけに心配そうに自分の方を見てくるので、隣に座りにくい。
首を傾げて見せると、少し心配が和らいだようだ。浮遊する友の隣に腰を下ろして足を組む。腰骨が音を立てた。
「さっき飛ばされたから身体が痛い」
「ごめんね、でもそうするしかなくて……」
友は俯きながら言った。
「触ったらダメって前言ってたのに、悪かった」
その梓月の言葉を聞いた友は、首を横に振る。そして、もう誰かに触れることを諦めた口ぶりで続けた。
「……乱暴でごめんね。ここに来るまでに家族に触れようとしたんだけど……突然気分が悪そうになって倒れて……」
話している本人も気分が悪そうな表情をしていた。無理もない。
「D君はここにいるのが苦しそうだね」
「……やっぱり生きてないのに居ちゃダメなんだなって、過ごしてて思うよ。早く成仏しないと」
「そうだよね、しないと」
梓月は素直に成仏しないで欲しいと思えず、言葉が詰まった。友が成仏したいと思うのは当然だろう。全く思い通りにならない彼のことが憎くも、それであって欲しいとも思う。穢れなく、純粋な友の心を自分のような人間の型に嵌めてしまいたくない。
穏やかな夜が来る。今日の星も綺麗だろうか。
「D君、なにか見えるの?」
友は困ったように笑って、そして少し安心していた。周囲を見渡していると思ったが、いや、何かから目を背けているのか。よく見れば実際のところ窓の縁を凝視しているようだった。
「うん、いや、外が見たかったんだけど」
「その割には見てる時に落ち着きがないけど」
友が何を言っているのかさっぱりわからなかった。心配になった梓月は悩みを知りたかった。
「誰かいた?」
「大丈夫、不審者とかじゃないよ」
「じゃあ何……言ってくれないとわからないよ」
「言っても、わからないかも」
「それでもいいから」
なんと説明しようか悩んでから友がしどろもどろに話始める
「丸くて、空に浮かんでて……UFOじゃなくてもっと、まんまるで……」
「見えないけど……」
「いや、絶対、絶対に」
何か言いかけて友が横目で窓の外を見ると、直ぐに目を逸らして梓月と視線が合う。
「そこに」
「そこに浮かんでるの?」
「わかんない!怖くて、一瞬しか見られなかったから……」
友が見ている景色と自分の見ている景色が違うことはわかっていたけれど、それでも同じものを見ていたかった。
でもそれは叶わない。だからせめて、少しでも近づこうと努力するしかなかった。前まではもっと、いい世界の見え方の違いだったのに、こんなに残酷になってしまったのか。
掴めない友の身体を、何とか掬おうとする。今すぐ抱きしめてやりたかった。その瞬間に、友の傍から部屋の壁まで吹き飛ばされた。背中の痛みが引いて、友を見ると酷く苦しんでいた。俺を突き放したことのショックか、空に浮かぶあれから逃げられない恐怖か、ただ悲痛な表情をしていた。
一人だけ運良く生き残った俺を恨んでいるだろう。俺を蔑んでいるんだろう。俺を呪っているんだろう。友のそばにいたいだけなのに、それすら願ってはいけない気がして。
かと言って、友から離れようと嫌いになりたいけれど、それもできそうになくて。悔しくて涙が零れた。
「僕のせいでごめんね」
「なあ、俺じゃ助けられないのか」
「ごめん、ごめんねえ……」
友との日常を延長するチャンスを得てしまったばかりに、目的から目を背けている。
友は俺の事なんて忘れて、こんなところに来るべきではなかった。いっそのこと祟り殺すほどに嫌ってくれればいいのに。
「梓月くん」
友の声が静寂を打った。
「あれが何に見えてる?」
友は梓月の顔を見たまま、窓の外を指さした。特に変わらない風景にしか見えない。そう、ただ普通なのだ。
「ただの太陽にしか見えないよ」
「そっ、かあ……」
そう言うと、友はハッとしたように窓の外を見た。しかし、また顔が曇る。友は笑いながら泣いていた。涙を誤魔化そうと、泣きながら笑っていたのかもしれない。
「どうりでどこまで逃げても隠れても、見られてたんだ」
「それは、何なの?」
「わからない。黒い?暗い?もしかして何も無い?それか、全てを飲み込んでいるのか。巨大な何かがそこにある。いや、太陽なんだから、そう見えるのが正しいのかな……」
外を見ると焼け爛れた真っ赤な夕焼けが来ていた。太陽から逃げるなんて考えたことがなかった。こちらが隠れて過ごすことしか出来ないじゃないか。
「もうすぐ太陽が沈むよ」
カーテンを閉めて、部屋が暗闇に包まれる。まだ少し痛む背中と腰を起こして、友の傍に歩み寄る。やけに心配そうに自分の方を見てくるので、隣に座りにくい。
首を傾げて見せると、少し心配が和らいだようだ。浮遊する友の隣に腰を下ろして足を組む。腰骨が音を立てた。
「さっき飛ばされたから身体が痛い」
「ごめんね、でもそうするしかなくて……」
友は俯きながら言った。
「触ったらダメって前言ってたのに、悪かった」
その梓月の言葉を聞いた友は、首を横に振る。そして、もう誰かに触れることを諦めた口ぶりで続けた。
「……乱暴でごめんね。ここに来るまでに家族に触れようとしたんだけど……突然気分が悪そうになって倒れて……」
話している本人も気分が悪そうな表情をしていた。無理もない。
「D君はここにいるのが苦しそうだね」
「……やっぱり生きてないのに居ちゃダメなんだなって、過ごしてて思うよ。早く成仏しないと」
「そうだよね、しないと」
梓月は素直に成仏しないで欲しいと思えず、言葉が詰まった。友が成仏したいと思うのは当然だろう。全く思い通りにならない彼のことが憎くも、それであって欲しいとも思う。穢れなく、純粋な友の心を自分のような人間の型に嵌めてしまいたくない。
穏やかな夜が来る。今日の星も綺麗だろうか。
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