同人女の異世界召喚

裏山かぼす

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第二章 気づきの冬

72 本能に忠実

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 私達の話に一段落がついた所で、タイミング良くアトリエのドアが開く。
 ジュリアとルイちゃん、途中でルイちゃんが迎えに行ったのだろうか、知らない人ばかりの環境に耐えられず引きこもっていたはずのラガルティハも一緒に居た。

「遅くなりました」
「あっ、ルージュリアン様! それにルイちゃん! お帰りなさぁい! 結構お時間かかっていたようですけど、何か問題でもありましたか?」
「少々、叔母上の気まぐれに巻き込まれまして……」

 瞬間的に美少女モードに切り替わったユリストさんは、人懐っこい笑みを浮かべてジュリアに抱きつかんばかりの勢いで駆け寄る。尻尾もブンブン振っていて、端から見れば人の形をした犬そのものだ。

 でも中身おっさんだし、アレ、キャラ作りしてぶりっこしてるんだよなぁ……。
 創作物だとそれはそれで大変可愛くてキュンキュン来るけど、リアルで見ちゃうとちょっと引いちゃうな。
 人懐っこいのは元々の性格だと思う。

 ふと、ラガルティハが少し落ち着きが無いように見えて、どうしたのかと注目する。
 てっきり環境に慣れず緊張しているのかと思ったが違うらしく、どうやらルイちゃんが疲れているような様子で、それが気になるものの、何をどうすれば良いのか分からず右往左往しているようだった。

「ラガルも来たんだ。一人で寂しくなっちゃった?」
「そっ……んなこと……!」
「ラガルさんに診察のお手伝いをお願いしようと思って、私が無理言って来てもらったの。疲れて休んでいたのに、ごめんね?」
「さっきも言った、けど……気にしなくて、良い……」

 ラガルティハはモゴモゴと小さく口の中で「アンタのためなら……」と呟いていたが、ルイちゃんには聞き取れなかったようで「なあに?」と聞き返されてしまい、赤面し「なんっ、何でもない!」とそっぽ向いた。

 青春かよ。冬だというのに青い春の甘酸っぺえ匂いがするよ。たまんねえなぁ!
 尚、ラガルティハの背後でユリストさんが凄い顔をしてラガルイ二人を凝視していたが、見なかったことにする。
 そしてジュリアも何だか不服そうな表情をしている。嫉妬? 嫉妬なの? ルイちゃん取られちゃった気分になって悔しいって思っちゃったの? 良いぞもっと狂え。

「ところでルイちゃん、疲れたようだけど、何かあった?」
「『例の件にネッカーマ伯も巻き込もう』って言って、急に商談が始まっちゃって。トワさんが居なかったから、ちゃんと説明出来たかとか、不利な契約にされていないかって不安だよぉ……」
「例の件? ……あ、あー、アレか。ゼリオン剤の販売についてか」
「出資者は多い方が良いって言ってたけど、急に言われたからびっくりしちゃった」
「お疲れお疲れ。その場にジュリア様も居たんでしょ? 契約云々は大丈夫でしょ、多分」
「それがね、途中で結構怖い顔してたから……」
「げ、マジ? 私も内容後で確認させてもらお」
「ゼリオン剤? なになに、もしかして、何か新薬でも作ったんですか? ルイちゃんって本当に有能なんですね! すごい!」
「いえ、私じゃなくて、レシピを残してくれたお父さんのおかげで……」

 ラガルティハとルイちゃんの間に物理的に割って入ったユリストさんは、そのままルイちゃんにハグをして、構って欲しいわんこのような表情で聞いてくる。

 一応肉体的には女の子同士だし合法だしセクハラにはならないけど、ユリストさんの中身がおっさんだから、何かちょっと犯罪臭を感じてしまって少し顔が引きつってしまった。
 見た目だけなら犬耳デカパイ美少女とスレンダー系羽っ子美少女の大変良き百合なのに……。

 ちなみにルイちゃんを取られてしまったラガルティハは、ぺったりと伏せられた犬耳が幻視出来そうなくらい明らかに落ち込んでいた。お前生まれる種族間違ったんじゃね?

 そしてそれらを静観していたモズが、何を思ったのか、ユリストさんの真似をするようにギュッと腰に抱きついてきた。ハグ予防でもしているのだろうか。
 安心せい、彼にとって私はそういう対象じゃないから。ちょっと力加減強すぎて地味に痛いから離れて。頼むから。

「今は叔母上とネッカーマ伯で話を固めているはずですから、ユリスト嬢にはまた後で詳細をお伝えします。それまではご辛抱を」
「うう~っ。気になりますけど、ルージュリアン様がそう仰るのなら、このユリスト、湧き上がる好奇心を抑えて我慢します! ですが、その代わりに、ちょっとお願いが……」
「何でしょう?」
「私にもルイ様やトワ様にするように、もっとフランクに接して欲しいです! それと私も『ジュリア様』って愛称で呼びたいです!」
「おお……ははっ、そんなことか。ああ、構わないぞ。正直、私も堅苦しいのは苦手なんだ」
「やっちゃー! ルイちゃんも、私達だけの時は敬語ナシで良いよ! というかもっとフレンドリーな態度で接してほしい!」
「え? でも……」
「お願い! ね? もっと仲良くなりたいよ~皆で女子会したいよ~!」
「……ふふっ、じゃあそうしちゃおっかな」
「ひゃっほぅい!」

 あ、若干中身が出た。テンション上がりすぎて、猫かぶりならぬ犬かぶりを忘れているんだろうな。

 楽しげに話している最中だったが、ジュリアが何か思い出したように「ああ、そうだ」と呟き、私とラガルティハを見て言う。

「話に夢中になって忘れるところだった。ネッカーマ伯から、例のシスターについて聞いてきたぞ。鳩はもう飛ばしたから、明日にでも訪ねると良い」
「お、マジすか。ありがとうございます」
「シスターって、まさか……! ヘレン様に会いに行くんですか!?」

 シスターと聞いて、ルイちゃんとキャッキャウフフしてたユリストさんが目の色を変えて食いついてくる。

 ユリストさんの最推しカプはセレヘレ及びヘレセレであるが、当然、最推しキャラもその二人だ。私も彼と同じ立場だったら、間違い無く同じ反応をしていただろう。

「まあ、ラガルを連れて来た理由がそれなんで」
「ずるいずるい! 私の推しだと知ってて会いに行くことを隠してたなんて! 私も一緒に行くー! 行ーきーまーすー!」

 演技半分、本音半分……いや、演技四分の一、残り本音っぽく駄々をこねる。
 これが精神年齢アラフィフおっさんの姿か?
 いや、獣人種は本能に忠実な一面があるっていう設定があるし、実際ジュリアやルイちゃんからもそう聞いているから、多分そういう種としての本能的な部分が見えているだけだろう。多分。そうであってほしい。そうじゃなかったら若干困る。これからこの人とどう付き合っていけばいいのか的な意味で。

「いや隠してたわけじゃ無いんですけど……ラガルー、どうする? ユリストさん着いて来ても大丈夫?」
「えっ、あ……いや……まあ……どっちでも……」
「煮え切らん返事~。肯定と見なすぞ」
「肯定と見なしますー一緒行きますー嫌だと言われたって着いて行きますー!」
「というか地元ですぐに会いに行ける距離なんだから、私達に着いてこなくても私用で会いに行きゃあいいのに」
「だってヘレン様、慈善活動で何かとお忙しい方だから、用も無く会いに行こうとすると教会側から断られちゃうし、週一のミサでしか会えないんだもん!」
「あーなる、確かにそうか」

 彼の言う通り、ゲーム内でも仲間になる前は、体の一部を欠損したり、重い病に冒された人々を治療したり、貧民層への炊き出しを行っていて、モブシスターからも「少し休まれては」と言われているくらいに働いているワーカーホリック的一面があった。
 そりゃあ一令嬢の我が儘に付き合って茶をしばく暇があったら、慈善活動に勤しむ方を選ぶだろう。

 というか「もん」って。年を考えろ年を。
 いやでも肉体年齢的には若いし、見た目が可愛いから許されるのか……? 脳がバグる。

「何だかユリストさんとトワさん、すごく仲良くなってるね」
「芸術に精通するもの同士、何かと馬が合うんじゃないか?」
「そうかな? それだけじゃない気がするなぁ。私達が居なかった間に何があったんだろう」

 ルイちゃんとジュリアがそんなことを話していたが、押しに会えると分かって興奮するユリストさんの相手をしていた私の耳には届いていなかった。
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