同人女の異世界召喚

裏山かぼす

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第二章 気づきの冬

65 食にうるさい国民性

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 竜玉の摘出作業をしていると、後ろから誰かが来る足音が聞こえてきた。
 振り返ってみると、そこには馬車の中に居たはずのラガルティハが居た。寒そうに手を擦り合わせながらやって来て、腹を開かれたラプトレックスを間近に見てしまい、顔を青くして小さな悲鳴を上げる。

「ひえぇ……」
「おっ、ラガル出てきたの?」
「あいつが、忙しそうだったから……」
「ははーん? でも騎士さん達は全員軽傷で、ラガルに手伝ってもらうような治療も作業も無かったから、私の方を手伝って来て欲しいと言われたと」

 私の推理は大方正しかったようだ。ラガルティハはキュッと下唇を噛んで視線を逸らし、何とも味のある顔で頷く。

 ちなみにラガルティハの言う「あいつ」とは、当然ルイちゃんのことである。
 恥ずかしくて名前呼べないんだねぇ、可愛いねぇ。真冬なのに青い春の匂いがすんねぇ。
 おう男ならもっと男気見せて名前くらい呼べや。勇気も意気地も無いんか?
 だがそれが良い。永遠にルイちゃんに甘やかされる情けねえ名誉ショタ(成人男性)であれ。

 視線を逸らしているのは、単に複雑な感情からのサインではない。私の行っている解体作業を視界に入れないようにしているのだろう。何せナイフで肉を裂き、内臓をかき分ける音を耳にする度に、元々血色が良いとは言えない顔を更に青くして、怖い物見たさ故か時々チラ見をしては後悔したと言わんばかりに小さい悲鳴を漏らしている。

「というか……うっ……さ、さっきから何してるんだよ……」
「竜玉取ってんの。これ取っとかないと、魔物に持って行かれかねんからね」
「そ、そうか……うわっ……ひっ……うえぇ……!」
「グロいの苦手なら大人しく馬車ん中戻っとけー。やる気があるなら……あー……そこに袋あるでしょ? そん中に竜玉入れて持ってて」

 グロ耐性ティッシュかよ。体ヒョロガリメンタル豆腐グロ耐性は濡れたポイ、と「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」と同じリズムで言えちゃうぞお前。

 戦力外だが、何もさせなかったらそれはそれで落ち込むか面倒臭い方向に落ち込むかの二択になるので、とりあえずモズが肉を剥いで綺麗にした竜玉を受け取って袋にまとめて入れる役に任命しておいた。

「しっかしこいつら、痩せてて食うところあんまり無いなぁ。食えそうなのは足くらいか? 肉が固そうだし、煮込み料理が良いかなぁ」
「は? お前、そんな目でこいつらを見ていたのか……?」
「お前日ほ……飛花人の食欲舐めんなよ。一歩間違えば死ぬのに、専用の技術を磨いてでもフグを食おうとするし、桜は見て楽しい食べて美味しいするし、見るからに食えそうもないナマコとかサッパリ美味しい酢の物にしたりするからな」
「ええ……で、でもこいつ、何か変なモヤモヤ出てたんだろ?」
「竜玉が原因みたいだったし、腹回りを避ければいけるっしょ。魔眼の刻印で確認してみたけど、肉自体は問題無さそうだし、セーフセーフ」

 手持ち無沙汰なのか、袋に入った竜玉を袋越しに動かしてカチャカチャ音を鳴らしながら、ラプトレックスを食料として見ている私にドン引きするラガルティハ。

 だって、魔物を倒してそいつを美味い料理にするのは異世界ファンタジーならではじゃん?
 やりたいじゃん。そのために冒険者ギルドに納品しに行く度に解体所を覗きに行って解体方法を教えてもらったくらいだぞ。
 しかも、ドラゴンなんて草食のサウルス系らいしか基本的には入ってこないし、流通している竜肉も家畜種のサウルス系。レックス系のドラゴンは見るのも初めてだ。
 是非その味を確かめてみたい。私はフォロワーとのオフ会で行ったジビエ専門店でウーパールーパーの素揚げとカエルの唐揚げを食った女だぞ。昆虫食以外なら何でもいける。

 とはいえ、痩せていることもあって、正直美味しそうには見えないけど。
 だがその機動力の元となっている足は強靭そのもので、チキンレッグならぬドラゴンレッグは大変食いでがありそうだ。赤身の筋肉がみっちり詰まっている。肉は固めでアッサリした味わいなのだろうか。

 焼きより煮込みの方が合うなら、一口大に切ってシチューが王道だろう。こちらではシチューと言えば塩ベースのポトフに近いアイリッシュシチューか、赤ワインとミルクとポマトを使ったブラウンシチュー系に分かれるが、爬虫類よろしく鶏肉に近い味わいで臭みが無いならホワイトシチューも良さそうだ。というかこっちの世界に来てからホワイトシチュー食べてないな。寒いし丁度良い。

「あー、バラットまでとっといて、醤油か味噌が手に入ったらスジ肉煮込みにしてもいいなぁ……臭みが強かったらニンニクショウガマシマシにして、キンッキンに冷やしたビールでいったろ! ポン酒があれば一番良いんだけどなぁ~」
「本当に食べるつもりなのか……」
「何なら今日泊まる宿のキッチン借りてお夜食にするつもりだけど?」
「ええ……」

 検体には使わない、竜玉を取るために腹を開いた個体の内の一つからドラゴンレッグを外しにかかっている最中、モズがはみ出した内臓をじっと見つめてぽつりと呟く。

「はらわたん中、なんか入っちょる」
「あー、多分石とかでしょ。生き物の中には、食べ物をすり潰して消化を助けるために、砂とか石を食べるやつも居るんだよ。ワニとか鶏とか」

 一部のドラゴンも同じような生態を持っている種類が居たはずだし、胃の中に石等の無機物が入っていても何らおかしくはない。
 モズが指差していた個体の胃を触ってみると、確かにゴツゴツした硬いものが入っているのを感じる。
 角や平面がある、ちょっと人工物っぽい感じ印象を受ける物体だったが、流石に胃を開けてまで調べようとは思わなかった。多分、鎧とか装飾品のような人工物が入っているんだろうし、だとしたら結構な確率で人を襲って食っていたという可能性が浮上するので……胃を開いた瞬間、人間だったものが出てきたら、流石にSAN値チェックを失敗する自信しかない。
 どうせ専門家の人に調べてもらうことになっているんだし、私がそこまで調べる必要は無い。真実にはシュレディンガーの猫と同じ結末を辿らせよう。

 丁度作業が終わった所で、ジュリアがやってきて声をかけてきた。

「終わったか?」
「とりあえず五体分の竜玉があれば充分ですかね」
「ああ、問題無い。モズ、君の旧世界呪文スペル……アイテムボックスに入りそうか?」
「むり」
「そうか。トワの方は?」
「いけますよ~。んじゃあまあ適当に、こいつと、それとこいつと……」

 無作為に選んだ検体を数匹【分離】で切り取って、【記憶】領域に保存しておく。

 モズの旧世界スペル式アイテムボックスは容量が小さいらしく、ラプトレックスは入らないようだ。実際どの程度の容量なのかは私も知らないが、普段から自身の刀くらいしか入れている所を見ない。以前、買い物中に荷物が多くて持つのが大変だった時に使っていたから、形無しか入れられないという訳ではないようだが、詳細は不明である。

 そうして事後処理も終えた私達は、各々がやや疲れた表情を浮かべつつも、宿泊予定の都市へと向かった。

 小さいが活気に溢れた都市で、宿場町と言った方が正しい規模だ。冬だというのに沢山の冒険者や商人が行き交い、着いたのが既に日が落ちきった時間帯だという事もあり、飲んだくれ達も含めお祭りのような賑わいを見せているような都市だった。
 宿は貴族が泊まるにはやや貧相と言わざるを得ない庶民の味方のような宿だったが、意外にもダニエル女公爵は不満そうな顔を見せず「騒がしくしなければ好きにしろ」と言って、さっさと自分の宿泊部屋に入って行った。
 後からジュリアに話を聞いたところ、昔からそうなのだという。案外、中流階級のお嬢さんのフリをして下町に遊びに行ったりしていて、庶民暮らしにも多少慣れているのだろうか。まさかこんな見た目だけは可愛らしい十代前半の少女が女公爵だなんて思う人もいないだろうし、あり得そうな話だ。

 ダニエル女公爵からはそう言われたものの、私はラプトレックスの件があったので、都市の規模の割には――冒険者の出入りが多い都市なので当然と言えば当然かも知れない――かなり大きい冒険者ギルドにジュリアや騎士さんと共に行き、諸々の報告と調査を依頼してからの休息となった。
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