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「見習い宣教師と最初の事件」4
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"RAF(Royal AirForce)"という徽章が入った制帽の下に、整った顔と金色の髪が隠れていた。元来整った顔だちではあったが、同時に軍人らしい精悍さと、顔つきには厳しさを兼ね備えていた。
深く被った制帽からわずかに覗く目つきは、真面目そのもので、且つ鋭かった。
全員が迷彩服を着て、光学ディスプレイを搭載したヘルメットを装着している中、一人だけ高級将校の着る制服に、制帽を被った男が、ヘリの奥の一人がけの席に座っていた。
ギルベルト・セリアズ大尉である。
「各員、準備は良いか。状況を報告せよ。」
冷静な声がインカムを通じて、随伴するすべての航空機及び艦艇、そして大西洋全域の部隊と、作戦行動全体を統括・監督する統合作戦司令部へと届けられた。
「14時の方向!ロシア製潜水艦・ウラジーミル・ノボロフ級ミサイル原子力潜水艦と思われます。」
ソナー員の下士官が、海中から反射する音波をもとに、セリアズへ報告した。
「よし。降下開始。降下後、速やかにソノブイを投下。対潜戦闘開始。」
と、静かに、芯のある声で命じた。
余談だが、第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツのUボートに苦しめられた経験から、この国の海軍は、対潜哨戒と対潜戦闘には、特に力を入れている。
「はっ。王……大尉。」
"王子"と呼ばれている彼の乗る、アリスタウェストランド社製のHWA.8・スーパーラインズ対潜哨戒ヘリコプターが、時速約140ノットで上空5000フィートを航行していた。指揮及び航法システム、レーダーを強化したその機体の内部の、前方の右側の座席には操縦士が、左側には副操縦士が、そして後部には航法士官、ソナー員そして──1番奥の1人がけの座席に、セリアズが座り、指揮を執っていた。
機体の外の、太陽に照らされて輝く大西洋の水面とは真逆の暗闇の中で、レーダーに映るLEDのインジケーターだけが不気味に光っていた。
航法士官が更に高度を下げるように指示し、続いてソナー員がヘッドホンを押さえて帰って来る音波と警報音神経を尖らせていた。
灰色の躯体を持つ鋼鉄の鳥が5機、フォーメーション を組み、回転翼を音速に迫る勢いで回転させ、大西洋の上空を疾駆している。
グレート・ブリテンにとっての脅威となりうる、敵の潜水艦を索敵するためだった。
更に対潜哨戒部隊の前線指揮官であり、戦術航空士でもある彼には、探索だけではなく、上空からの雷撃によって発見次第ただちに撃破せよ、との命令と権限が統合作戦司令部より与えられていた。
「アルファ、ブラボー、1500フィートまで降下。速度は維持。風速を報告せよ。デルタ機は後方で待機。」
将来の高級将校らしく、対潜水艦部隊長として、的確な指示を飛ばして行った。
部隊全体の指揮官である彼は、それぞれの機の機長よりも先任であり、作戦行動についての指揮監督において命令権を優先されていた。
「大尉、西北西の風、およそ4ノットです。」
「よし。ソノブイを投下。」
大西洋の水面の奥深くの目標──敵国の潜水艦に向かい、上空からソノブイを投下した。
不測の事態に備え、アルファ、ブラボーと呼称された僚機が、セリアズの乗る隊長機のバックアップに回った。
先頭を飛ぶ"王子"の乗るHWA.8 スーパーラインズが、胴体側面の固定翼から筒状のソノブイを投下する。
白い流線形のそれは、1500フィートの上空から投下され、太陽を反射し碧く輝く水面に吸い込まれて行った。
潜水艦という脅威が無ければ、クルーザーでもチャーターし、どこかの島にでも上陸して、釣りやらサーフィンやら海水浴やらを楽しめば、素晴らしい休暇になることは間違いないような絶景であった。
セリアズはモニター上で着水を確認すると、
「位置は?」
とソナー員に尋ねた。
「予定通りです。問題ありません。」
「よし、各機に告ぐ。敵潜水艦"ウラジーミル・ノボロフ級"の索敵は継続。本機への位置の報告は遵守。繰り返す──」
そこへ、本部からの通信が入った。
「"王子"、もういいよ。戻りたまえ。アリスタウエストランド社の新型対潜ヘリコプターの性能は、大体こちらでも把握した。」
声の主は、統合軍参謀次長だった。
「……わかりました。」
「あとは、国防省装備局の連中が何とかするだろう。そろそろ降りて来い。──閣下達が、お待ちだぞ。」
深く被った制帽からわずかに覗く目つきは、真面目そのもので、且つ鋭かった。
全員が迷彩服を着て、光学ディスプレイを搭載したヘルメットを装着している中、一人だけ高級将校の着る制服に、制帽を被った男が、ヘリの奥の一人がけの席に座っていた。
ギルベルト・セリアズ大尉である。
「各員、準備は良いか。状況を報告せよ。」
冷静な声がインカムを通じて、随伴するすべての航空機及び艦艇、そして大西洋全域の部隊と、作戦行動全体を統括・監督する統合作戦司令部へと届けられた。
「14時の方向!ロシア製潜水艦・ウラジーミル・ノボロフ級ミサイル原子力潜水艦と思われます。」
ソナー員の下士官が、海中から反射する音波をもとに、セリアズへ報告した。
「よし。降下開始。降下後、速やかにソノブイを投下。対潜戦闘開始。」
と、静かに、芯のある声で命じた。
余談だが、第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツのUボートに苦しめられた経験から、この国の海軍は、対潜哨戒と対潜戦闘には、特に力を入れている。
「はっ。王……大尉。」
"王子"と呼ばれている彼の乗る、アリスタウェストランド社製のHWA.8・スーパーラインズ対潜哨戒ヘリコプターが、時速約140ノットで上空5000フィートを航行していた。指揮及び航法システム、レーダーを強化したその機体の内部の、前方の右側の座席には操縦士が、左側には副操縦士が、そして後部には航法士官、ソナー員そして──1番奥の1人がけの座席に、セリアズが座り、指揮を執っていた。
機体の外の、太陽に照らされて輝く大西洋の水面とは真逆の暗闇の中で、レーダーに映るLEDのインジケーターだけが不気味に光っていた。
航法士官が更に高度を下げるように指示し、続いてソナー員がヘッドホンを押さえて帰って来る音波と警報音神経を尖らせていた。
灰色の躯体を持つ鋼鉄の鳥が5機、フォーメーション を組み、回転翼を音速に迫る勢いで回転させ、大西洋の上空を疾駆している。
グレート・ブリテンにとっての脅威となりうる、敵の潜水艦を索敵するためだった。
更に対潜哨戒部隊の前線指揮官であり、戦術航空士でもある彼には、探索だけではなく、上空からの雷撃によって発見次第ただちに撃破せよ、との命令と権限が統合作戦司令部より与えられていた。
「アルファ、ブラボー、1500フィートまで降下。速度は維持。風速を報告せよ。デルタ機は後方で待機。」
将来の高級将校らしく、対潜水艦部隊長として、的確な指示を飛ばして行った。
部隊全体の指揮官である彼は、それぞれの機の機長よりも先任であり、作戦行動についての指揮監督において命令権を優先されていた。
「大尉、西北西の風、およそ4ノットです。」
「よし。ソノブイを投下。」
大西洋の水面の奥深くの目標──敵国の潜水艦に向かい、上空からソノブイを投下した。
不測の事態に備え、アルファ、ブラボーと呼称された僚機が、セリアズの乗る隊長機のバックアップに回った。
先頭を飛ぶ"王子"の乗るHWA.8 スーパーラインズが、胴体側面の固定翼から筒状のソノブイを投下する。
白い流線形のそれは、1500フィートの上空から投下され、太陽を反射し碧く輝く水面に吸い込まれて行った。
潜水艦という脅威が無ければ、クルーザーでもチャーターし、どこかの島にでも上陸して、釣りやらサーフィンやら海水浴やらを楽しめば、素晴らしい休暇になることは間違いないような絶景であった。
セリアズはモニター上で着水を確認すると、
「位置は?」
とソナー員に尋ねた。
「予定通りです。問題ありません。」
「よし、各機に告ぐ。敵潜水艦"ウラジーミル・ノボロフ級"の索敵は継続。本機への位置の報告は遵守。繰り返す──」
そこへ、本部からの通信が入った。
「"王子"、もういいよ。戻りたまえ。アリスタウエストランド社の新型対潜ヘリコプターの性能は、大体こちらでも把握した。」
声の主は、統合軍参謀次長だった。
「……わかりました。」
「あとは、国防省装備局の連中が何とかするだろう。そろそろ降りて来い。──閣下達が、お待ちだぞ。」
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