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異世界組織犯罪対策課~誘拐された子供達は必ず救い出します!~
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「おはようございます」
朝9時、子供達を学校と幼稚園に送り出してからの遅めの出勤。ロッカールームで制服に着替えるとタイムカードを機械に通してデスクへ向かう。公務員だけどパートタイムの少しだけ変わったわたしの職場は今日も人が少ない。理由は、あちらこちらへと救出のために出払っているから。
「おはようございます。水野さん、すぐに出れますか」
そう言ってわたしへ資料を渡してきたのはまわってきた案件の調査と探査を一手に引き受けている彩芽ちゃん。まだ20代だというのにその手腕は見事なものでまわってきた案件の資料を読むと同時にあっという間に居場所を特定してしまう。
「出れるよ。誰と組めばいい?」
「江川さんです。もうすでに転移室で待機してます。」
「わかった。すぐ行くわ。」
わたしは笑顔をひっこめて資料を受け取ると転移室へ早歩きで向かいながら渡された資料を睨むように速読する。資料は短く概要がまとめられており、内容はすぐに頭に入ってくる。
今から救出に向かうのは近藤隼人君、17歳。高校3年生。行方不明になったのは二日前。下校途中、最寄の駅まで友達と一緒でコンビニ前を通過したところまでは防犯カメラにも映っていた。そこから忽然と姿を消した。カメラの映像にも突然消える姿が確認されており、両親が警察に届けた翌日にはそれがわかってすぐにこちらにまわされてきた。
彩芽ちゃんの調査によれば近藤隼人君の失踪は彼の意思によるものでもなければこの世界での事件や事故ではなく、異世界の人間による拉致・誘拐。浚われた先の世界も特定済み、転移室で江川さんと軽く打ち合わせをすればすぐに救出のための移動になる。
「おはようございます、江川さん、お待たせしてしまいましたか。すみません。」
転移室の扉を開け、中で立ったまま資料を睨んでいた男性・江川さんに駆け寄った。
転移室は壁一面にあらゆる機器が設置された空間だけど広さとしてはそんなに広くない。江川さんは資料をたたむと制服の胸ポケットになおして頷く。
「大丈夫だ、矢野の調べによれば近藤隼人君の身に危険はないらしい。緊急性があればとっくに飛んでる。」
矢野、とは彩芽ちゃんの苗字だ。わたしも資料をたたんで直すと江川さんと向かい合う。
「“勇者”ですか?」
「ああ。また“勇者”だ。拉致られて一日だからまだ何もしていないはずだ。」
「そうですね。“勇者”なら、一日目は説明と説得、仲間の紹介などで終わったでしょう。」
異世界へ誘拐される目的はいくつかのパターンが決まっている。近藤隼人君が誘拐された目的はその中の一つ、“魔王を倒して世界を救ってください、勇者様”ということだ。気の早い世界なら誘拐して二日目にはもう旅に出させるところもあるがわたしの出勤を待つ余裕があったということは隼人君はまだお城にいてのんびりしているということだろう。
「いい加減慣れてきたとはいえ胸糞悪い。17のガキに何をやらせようっていうんだ、異世界の奴らは!」
「全くです。しかも浚った人間にですからね。信じられないわ。」
わたしにも江川さんにも子供がいるから大人としても親としても案件が回ってくるたびに憤慨する。
「それで、今回の説得はどっちがします?」
「俺だな。水野は後方支援を頼む。」
「わかりました。…隼人君は素直に戻ってくれますかね?」
「そういうのに憧れる年頃だからな~…どうも嫌がってないみたいだって矢野も言ってたから説得することになるかもな。」
「憧れる年代ってわかってて狙ってきてるのかもしれませんね。ご両親からの預かりものは?」
浚われた子供達の説得材料となるものを毎回ご両親から預かって持っていく。この制服でいくらかの安心と信頼は確保できるとはいえ、異世界に警察が追いかけてくるなど信じられない可能性もある。何せ、こんな課があることも異世界への誘拐が多発していることも、ほとんどの国民は知らないのだから。ご両親からの預かりものは、間違いなく自分の親のものだとわかるものを頼んでいて、わたし達が嘘を言っていない証拠にもなるのだ。
江川さんは足元に置いていたリュックを背負いながら壁に設置された機械に近づき、手馴れた様子で操作を始める。
「ここにある。そろそろ行くぞ。いざとなればいつも通り強引に連れ戻す。」
「はい!」
わたし達は公務員だ。
けれどわたし達の仕事は公にはされていない。この課も内部のごく限られた人間だけが知る地下にある。表向きはそれぞれ適当な課に所属していることになっているけれど実態はこちらで、
異世界に誘拐された日本人を救うための課、異世界組織犯罪対策課として日々、異世界に誘拐された主に十代の少年少女の救出に文字通り空間を飛び回るのが仕事だ。
異世界による誘拐など公にできないので課の存在も公にできない。故に、この課へ配属される人間の入れ替えもほとんど行われることはない。そのため、わたしのように結婚・出産を経て育児休暇をとったり時短勤務にしてでも人材は確保しておきたいためにパートタイムのような勤務の形態も可能となっているのだ。わたしとしても、子供を持った今、ますます子供達を救う意欲に燃えているのでこの仕事を辞めるつもりはない。
わたしと江川さんがいよいよ異世界へ飛ぼうとしていた矢先
「待ってください2人とも!!」
慌てた様子の彩芽ちゃんが飛び込んできた。
まだ転移装置の作動前だったのでぎりぎり間に合い、装置を止めると彩芽ちゃんに駆け寄った。
「彩芽ちゃんどうしたの?!」
「何事だ、矢野」
彩芽ちゃんは肩で息をしながら手に持っていた紙をわたし達に渡す。
「緊急案件です!先にこちらの救出をお願いします。」
「…概要は?」
聞きながらもわたし達は渡された紙に素早く目を通す。
「はい。誘拐されたのは高山美波ちゃん、16歳。高校1年生です。誘拐されたのは今朝。目的はおそらく……」
「“聖女”?」
「いえ、“王族の花嫁”です。つまり」
「貞操の危機か」
彩芽ちゃんは青い顔で頷く。
同じ女性として想像するのもおぞましい、恐ろしい最悪の事態。絶対に、その前に救い出さなければ。
「高山美波ちゃんは泣いて嫌がっているようですからいつ強引な手段をとられるかわかりません。美波ちゃんの精神面も不安です。先に救出してもらえますか?」
「…わかった。そうしよう。」
「近藤隼人君はどうしますか?」
満更でもないようだという隼人君の方も、救い出すのは早いに越したことはない。変に異世界に感化されたり情を移してしまっては後々やっかいだ。自分を誘拐した世界に未練など残されても困る。そのためには、救い出すのは異世界での滞在時間は短い方がいいのだ。洗脳などされてしまっては目もあてられない。
わたしは少し考えてから、提案した。
「高山美波ちゃんを救出してからそのまま飛びましょう。」
「その子を連れてか?」
江川さんと彩芽ちゃんが驚いた顔で聞き返す。
「そうです。隼人君の説得に別の被害者がいれば話は簡単になります。」
「だが…」
「もちろん、一秒でも早く高山美波ちゃんをご両親の元に帰してあげるべきです。でも、近藤隼人君も後回しにはできません。隼人君の説得がすぐ終わればそう時間は変わらないはずです。違いますか?」
高山美波ちゃんに隼人君の存在を説明し、一緒に助けにいくことを了承してもらってからにはなるけれど、
一度こちらに戻って美波ちゃんに関する手続きを終えてからよりはずっと早く隼人君を助けにいける。異世界へ飛ぶにはこの部屋の装置が必要になるからどのみち一度はこちらに戻ってくるけれど、戻ってすぐ、今度はそのまま、近藤隼人君が誘拐されている世界へ飛ぶ。美波ちゃんの存在が、隼人君説得の時間短縮に繋がればそう時間もかからず戻ってこれるはずだ。
わたしの説明に、江川さんと彩芽ちゃんは考える様子を見せたものの、
「わかった。そうしよう。」
「この場合それが最善でしょうね。お願いします。」
すぐに判断して頷いてくれた。
「高山美波ちゃんのご両親からのものは?」
近藤隼人君のご両親からの預かりものは江川さんが背負っているのでわたしが受け取ると、
リュックがずしりと重くて驚く。
「重…っ何入ってるの?」
背負えないほどではないけれど何が入っているのかと聞けば彩芽ちゃんが苦笑する。
「急いで詰めてもらいましたから慌てたのでしょう。あれこれ…考える余裕がなかったのかと。」
「…ご両親の気持ちとしては当然よね。行くわ。」
「お気をつけて。よろしくお願いします!」
そして彩芽ちゃんが部屋から出て行くのを待って今度こそ装置を作動する―――
「高山美波ちゃんに話をするのはわたしがやります」
「頼む!」
何度体験しても慣れることのない目の眩むほどの光、
たくさんの機械音、
圧倒的な、浮遊感――
次に目を開けた時にはもう、そこは
「高山美波ちゃん?」
異世界。
「………っえ?……警察………の、人……?なんで…」
「そうよ。助けにきたわ。怖かったわね。もう大丈夫、ご両親も心配してるわ。一緒に帰りましょう?」
わたし達は、犯罪を許さない。
例え異世界が相手であろうとも、理不尽に連れ去られたこの国の人間を救い出す。
日本の法律が異世界に通用しなくとも、異世界召喚は立派な犯罪であり誘拐・拉致・監禁だ。
十代の少年少女の異世界に憧れる気持ちにつけこんだ卑劣な犯罪。救い出しても救い出しても、異世界召喚に憧れる人間がいる限り奴らは狙ってくる。それでも、わたし達は諦めず救い続ける。絶対に、犯罪を許さない。
異世界相手に外交問題などないからこそこちらも勝手に入り込んで被害者を救い出す。
「江川さん、収穫はありました?」
「ああ、“王族の花嫁”だからな。それなりの部屋だ。これだけあれば予算も潤う。」
「それは何より。賠償金代わりですからね。法律で罰することもできませんし。まあ、強奪にはなりますが異世界相手なら許可されてます。」
被害者の説得を担当しない方はその間、異世界の人間が介入できないようにするための結界張りと、事件の賠償金と課の予算にあてるための物品の確保をする。公にできない課だから予算をつけてもらうことも表立ってはできない。表だってできない予算はあまり目立つ金額はつけられない。なら人件費と設備費、犯人を罰することもできない被害者への賠償金代わりにと、誘拐した先の金目のものを持ち帰ることになっているのだ。
持ち帰ったものは課と特別に契約している専門の骨董店が買い取ってくれる。大金持ちが道楽でやっている骨董店だから買取を渋られることもなく非常に助かっている。骨董店の方も、地球で手に入れることのできない異世界の品物に大喜び。時々不要と判断されたものは普通の品物として転売もしているようだけれどそれでも一度は買い取ってくれるのだから本当に助かる。噂では店主の祖父がその昔異世界と関係があったとかないとか。
「美波ちゃん、隼人君の救出の同行を了承してくれました!」
「よし。じゃあすぐ戻るぞ!」
「美波ちゃん、しっかり掴まって!一度日本へ戻るわ。いい?!」
「は…っはい!よろしくお願いします……っ」
異世界組織犯罪対策課、
わたし達は今日も異世界に誘拐された子供達を助けています。
朝9時、子供達を学校と幼稚園に送り出してからの遅めの出勤。ロッカールームで制服に着替えるとタイムカードを機械に通してデスクへ向かう。公務員だけどパートタイムの少しだけ変わったわたしの職場は今日も人が少ない。理由は、あちらこちらへと救出のために出払っているから。
「おはようございます。水野さん、すぐに出れますか」
そう言ってわたしへ資料を渡してきたのはまわってきた案件の調査と探査を一手に引き受けている彩芽ちゃん。まだ20代だというのにその手腕は見事なものでまわってきた案件の資料を読むと同時にあっという間に居場所を特定してしまう。
「出れるよ。誰と組めばいい?」
「江川さんです。もうすでに転移室で待機してます。」
「わかった。すぐ行くわ。」
わたしは笑顔をひっこめて資料を受け取ると転移室へ早歩きで向かいながら渡された資料を睨むように速読する。資料は短く概要がまとめられており、内容はすぐに頭に入ってくる。
今から救出に向かうのは近藤隼人君、17歳。高校3年生。行方不明になったのは二日前。下校途中、最寄の駅まで友達と一緒でコンビニ前を通過したところまでは防犯カメラにも映っていた。そこから忽然と姿を消した。カメラの映像にも突然消える姿が確認されており、両親が警察に届けた翌日にはそれがわかってすぐにこちらにまわされてきた。
彩芽ちゃんの調査によれば近藤隼人君の失踪は彼の意思によるものでもなければこの世界での事件や事故ではなく、異世界の人間による拉致・誘拐。浚われた先の世界も特定済み、転移室で江川さんと軽く打ち合わせをすればすぐに救出のための移動になる。
「おはようございます、江川さん、お待たせしてしまいましたか。すみません。」
転移室の扉を開け、中で立ったまま資料を睨んでいた男性・江川さんに駆け寄った。
転移室は壁一面にあらゆる機器が設置された空間だけど広さとしてはそんなに広くない。江川さんは資料をたたむと制服の胸ポケットになおして頷く。
「大丈夫だ、矢野の調べによれば近藤隼人君の身に危険はないらしい。緊急性があればとっくに飛んでる。」
矢野、とは彩芽ちゃんの苗字だ。わたしも資料をたたんで直すと江川さんと向かい合う。
「“勇者”ですか?」
「ああ。また“勇者”だ。拉致られて一日だからまだ何もしていないはずだ。」
「そうですね。“勇者”なら、一日目は説明と説得、仲間の紹介などで終わったでしょう。」
異世界へ誘拐される目的はいくつかのパターンが決まっている。近藤隼人君が誘拐された目的はその中の一つ、“魔王を倒して世界を救ってください、勇者様”ということだ。気の早い世界なら誘拐して二日目にはもう旅に出させるところもあるがわたしの出勤を待つ余裕があったということは隼人君はまだお城にいてのんびりしているということだろう。
「いい加減慣れてきたとはいえ胸糞悪い。17のガキに何をやらせようっていうんだ、異世界の奴らは!」
「全くです。しかも浚った人間にですからね。信じられないわ。」
わたしにも江川さんにも子供がいるから大人としても親としても案件が回ってくるたびに憤慨する。
「それで、今回の説得はどっちがします?」
「俺だな。水野は後方支援を頼む。」
「わかりました。…隼人君は素直に戻ってくれますかね?」
「そういうのに憧れる年頃だからな~…どうも嫌がってないみたいだって矢野も言ってたから説得することになるかもな。」
「憧れる年代ってわかってて狙ってきてるのかもしれませんね。ご両親からの預かりものは?」
浚われた子供達の説得材料となるものを毎回ご両親から預かって持っていく。この制服でいくらかの安心と信頼は確保できるとはいえ、異世界に警察が追いかけてくるなど信じられない可能性もある。何せ、こんな課があることも異世界への誘拐が多発していることも、ほとんどの国民は知らないのだから。ご両親からの預かりものは、間違いなく自分の親のものだとわかるものを頼んでいて、わたし達が嘘を言っていない証拠にもなるのだ。
江川さんは足元に置いていたリュックを背負いながら壁に設置された機械に近づき、手馴れた様子で操作を始める。
「ここにある。そろそろ行くぞ。いざとなればいつも通り強引に連れ戻す。」
「はい!」
わたし達は公務員だ。
けれどわたし達の仕事は公にはされていない。この課も内部のごく限られた人間だけが知る地下にある。表向きはそれぞれ適当な課に所属していることになっているけれど実態はこちらで、
異世界に誘拐された日本人を救うための課、異世界組織犯罪対策課として日々、異世界に誘拐された主に十代の少年少女の救出に文字通り空間を飛び回るのが仕事だ。
異世界による誘拐など公にできないので課の存在も公にできない。故に、この課へ配属される人間の入れ替えもほとんど行われることはない。そのため、わたしのように結婚・出産を経て育児休暇をとったり時短勤務にしてでも人材は確保しておきたいためにパートタイムのような勤務の形態も可能となっているのだ。わたしとしても、子供を持った今、ますます子供達を救う意欲に燃えているのでこの仕事を辞めるつもりはない。
わたしと江川さんがいよいよ異世界へ飛ぼうとしていた矢先
「待ってください2人とも!!」
慌てた様子の彩芽ちゃんが飛び込んできた。
まだ転移装置の作動前だったのでぎりぎり間に合い、装置を止めると彩芽ちゃんに駆け寄った。
「彩芽ちゃんどうしたの?!」
「何事だ、矢野」
彩芽ちゃんは肩で息をしながら手に持っていた紙をわたし達に渡す。
「緊急案件です!先にこちらの救出をお願いします。」
「…概要は?」
聞きながらもわたし達は渡された紙に素早く目を通す。
「はい。誘拐されたのは高山美波ちゃん、16歳。高校1年生です。誘拐されたのは今朝。目的はおそらく……」
「“聖女”?」
「いえ、“王族の花嫁”です。つまり」
「貞操の危機か」
彩芽ちゃんは青い顔で頷く。
同じ女性として想像するのもおぞましい、恐ろしい最悪の事態。絶対に、その前に救い出さなければ。
「高山美波ちゃんは泣いて嫌がっているようですからいつ強引な手段をとられるかわかりません。美波ちゃんの精神面も不安です。先に救出してもらえますか?」
「…わかった。そうしよう。」
「近藤隼人君はどうしますか?」
満更でもないようだという隼人君の方も、救い出すのは早いに越したことはない。変に異世界に感化されたり情を移してしまっては後々やっかいだ。自分を誘拐した世界に未練など残されても困る。そのためには、救い出すのは異世界での滞在時間は短い方がいいのだ。洗脳などされてしまっては目もあてられない。
わたしは少し考えてから、提案した。
「高山美波ちゃんを救出してからそのまま飛びましょう。」
「その子を連れてか?」
江川さんと彩芽ちゃんが驚いた顔で聞き返す。
「そうです。隼人君の説得に別の被害者がいれば話は簡単になります。」
「だが…」
「もちろん、一秒でも早く高山美波ちゃんをご両親の元に帰してあげるべきです。でも、近藤隼人君も後回しにはできません。隼人君の説得がすぐ終わればそう時間は変わらないはずです。違いますか?」
高山美波ちゃんに隼人君の存在を説明し、一緒に助けにいくことを了承してもらってからにはなるけれど、
一度こちらに戻って美波ちゃんに関する手続きを終えてからよりはずっと早く隼人君を助けにいける。異世界へ飛ぶにはこの部屋の装置が必要になるからどのみち一度はこちらに戻ってくるけれど、戻ってすぐ、今度はそのまま、近藤隼人君が誘拐されている世界へ飛ぶ。美波ちゃんの存在が、隼人君説得の時間短縮に繋がればそう時間もかからず戻ってこれるはずだ。
わたしの説明に、江川さんと彩芽ちゃんは考える様子を見せたものの、
「わかった。そうしよう。」
「この場合それが最善でしょうね。お願いします。」
すぐに判断して頷いてくれた。
「高山美波ちゃんのご両親からのものは?」
近藤隼人君のご両親からの預かりものは江川さんが背負っているのでわたしが受け取ると、
リュックがずしりと重くて驚く。
「重…っ何入ってるの?」
背負えないほどではないけれど何が入っているのかと聞けば彩芽ちゃんが苦笑する。
「急いで詰めてもらいましたから慌てたのでしょう。あれこれ…考える余裕がなかったのかと。」
「…ご両親の気持ちとしては当然よね。行くわ。」
「お気をつけて。よろしくお願いします!」
そして彩芽ちゃんが部屋から出て行くのを待って今度こそ装置を作動する―――
「高山美波ちゃんに話をするのはわたしがやります」
「頼む!」
何度体験しても慣れることのない目の眩むほどの光、
たくさんの機械音、
圧倒的な、浮遊感――
次に目を開けた時にはもう、そこは
「高山美波ちゃん?」
異世界。
「………っえ?……警察………の、人……?なんで…」
「そうよ。助けにきたわ。怖かったわね。もう大丈夫、ご両親も心配してるわ。一緒に帰りましょう?」
わたし達は、犯罪を許さない。
例え異世界が相手であろうとも、理不尽に連れ去られたこの国の人間を救い出す。
日本の法律が異世界に通用しなくとも、異世界召喚は立派な犯罪であり誘拐・拉致・監禁だ。
十代の少年少女の異世界に憧れる気持ちにつけこんだ卑劣な犯罪。救い出しても救い出しても、異世界召喚に憧れる人間がいる限り奴らは狙ってくる。それでも、わたし達は諦めず救い続ける。絶対に、犯罪を許さない。
異世界相手に外交問題などないからこそこちらも勝手に入り込んで被害者を救い出す。
「江川さん、収穫はありました?」
「ああ、“王族の花嫁”だからな。それなりの部屋だ。これだけあれば予算も潤う。」
「それは何より。賠償金代わりですからね。法律で罰することもできませんし。まあ、強奪にはなりますが異世界相手なら許可されてます。」
被害者の説得を担当しない方はその間、異世界の人間が介入できないようにするための結界張りと、事件の賠償金と課の予算にあてるための物品の確保をする。公にできない課だから予算をつけてもらうことも表立ってはできない。表だってできない予算はあまり目立つ金額はつけられない。なら人件費と設備費、犯人を罰することもできない被害者への賠償金代わりにと、誘拐した先の金目のものを持ち帰ることになっているのだ。
持ち帰ったものは課と特別に契約している専門の骨董店が買い取ってくれる。大金持ちが道楽でやっている骨董店だから買取を渋られることもなく非常に助かっている。骨董店の方も、地球で手に入れることのできない異世界の品物に大喜び。時々不要と判断されたものは普通の品物として転売もしているようだけれどそれでも一度は買い取ってくれるのだから本当に助かる。噂では店主の祖父がその昔異世界と関係があったとかないとか。
「美波ちゃん、隼人君の救出の同行を了承してくれました!」
「よし。じゃあすぐ戻るぞ!」
「美波ちゃん、しっかり掴まって!一度日本へ戻るわ。いい?!」
「は…っはい!よろしくお願いします……っ」
異世界組織犯罪対策課、
わたし達は今日も異世界に誘拐された子供達を助けています。
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