上 下
64 / 66
IF

「撲滅!着ぐるみ詐欺訴訟」

しおりを挟む
「あの時のわたしはどうかしていた。」



学院を卒業後、わたしは領地に戻らず、皇都にあるリガール公爵家の屋敷にお世話になっている。エイレーン様の実家だ。

理由は簡単。

自分でも思う。

自業自得である。



学院を卒業する前、わたしは着ぐるみワールドによってどうかしていた。今になって思う。おかしくなっていた。

何故、あんなものを作ってしまったのか。



あんなものを注文したせいで、わたしは今尚、領地に戻れず皇都に留まっているのだ。



皇都を出る許可が下りないのである。



事実上の軟禁状態だ。





そう、わたしは訴えられている。





着ぐるみ詐欺にあったという人から訴えを起こす訴状が届いたのだ………!!



とんでもないことになった…。

着ぐるみ発案者であるわたしとわたしが発注した仕立て屋が、着ぐるみ詐欺による被害の賠償を求めて訴えられている。そのせいでわたしは皇都を出ることが叶わず、卒業後も領地に戻れずエイレーン様のお屋敷にお世話になっているのだ。当然、領地にいるお父様の下にも訴状は届き、急遽こちらに向かっていると聞く。



着いたらお説教確定だわ…。



「ユーリア様、ご安心なさって。お父様が腕のいい弁護士を紹介してくれるそうですわ。」



「弁護士費用が不安ならわたしが負担しよう。」



「アレク様…ですがそこまでしていただくわけには…」



エイレーン様のご実家なのに、何故か当たり前な顔しているのはアレク殿下。一人でいるのは不安なのでいてくださるのは有難いのだけど、ほぼ毎日来てて大丈夫なのだろうか?エイレーン様との復縁説とか誤解を招かないだろうか?



「問題ない。これでもそれなりに個人資産があるんだ。ユーリアのためなら惜しくないよ。」



「アレク様…っ」



さすが皇子様!セレブで太っ腹!持つべきものは皇子様ですね!



「ありがとうございます。でも多分大丈夫ですわ。仕立て屋からのマージンがありますので!」



着ぐるみの馬鹿売れで、発案者のわたしにもいくらか入ってきているのだ。それを当てれば、なんとかなるはずである。



「それにしても詐欺か…。」



「………」



考えてみれば当然起こりうることだったのだ。

着ぐるみだ。

そう、あれは着ぐるみなんだから。

かぶってしまえば誰が誰だかわからなくなる。当たり前の話である。



「しかし服をどういう風に着るかは当人次第だ。その結果を発売元のせいにするのは間違っている。」



「わたくしもそう思いますわ。ユーリア様は悪くありませんわ!」



「………」



いえ、ワルカッタトオモイマスケド…。

着ぐるみを服って…やっぱりこの世界であれは服なのね…。“着ぐるみ”って商標登録したって聞いたのにこの世界で着ぐるみは認定されないのね…。



着ぐるみ詐欺。

なんじゃそりゃ。と、思ってしまうのはわたしに前世の記憶があるせいなのか。そんな詐欺が成立する意味がわからない。

なんで騙されるのよ?!あきらかにかぶってるじゃん!



ケースその1、

見合い相手が着ぐるみを着ていて、結婚してみたら別人だった。訴えてやる!



ケースその2、

恋人だと思ってお金を渡したら別着ぐるみだった。訴えてやる!



ケースその3、

着ぐるみを着ていて酸欠になって倒れた。訴えてやる!



ケースその4、

顔だけ着ぐるみを着ていて首を痛めた。訴えてやる!



意味がわからない…。

なんで気づかないんだ…着ぐるみじゃんか……

あんな重いものかぶってるんだから当然の結果じゃないのよ…



そもそもわたしは量産なんてするつもりなかったのに。流行らせるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。

なんで……。



「ユーリア、心配しなくていい。わたしがついている。」



「アレク様…?」



いつの間にかエイレーン様がいない。

アレク様、ちょ…っさっきより距離が近くなってません??

円卓を囲んでいたはずのエイレーン様の姿は気がついたらなくなっていて、正面に座っていたはずのアレク様が隣に座っていた。にこやかな笑顔なのに目が笑っていなくてちょっと怖い。

人間化したアレク様は、まさに物語に出てくるような王道中の王道の王子様で、アイドルグループでいうならセンター、1番人気のアイドルばりのイケメンで。ドキドキしちゃうんだけど時々目が怖いのは何故なんだろう。ふっと真剣な目になる時がなんとなく怖い。



「ユーリア」



「は、はい」



あっという間に手なんかとられちゃって慌ててブンブンして離そうとするんだけどものすごい力!ちっとも離れない!



「わたしの妃になってほしい。」



「そっ、その件はお断りしたはず……っっ」



「諦めきれない」



諦めて!

嬉しくないって言ったら嘘になるけどこんなところをカミュ先生に見られて浮気女と思われるのは嫌なんですっ!

ちょ…っリガール公爵家の侍女さん達も無表情で視線逸らしてないでとめて!?護衛さん?!あなた達のご主人を止めるのもお仕事なんじゃないの?!



「わかっている。ユーリアには急なことで困惑しているのだろう。」



「そういう問題ではなくてですね、」



「しかしわたしは学院にいる時からユーリアを好いていた。」



ちなみにさっきからずっと握られた手をブンブンしているのは継続中だ。ブンブンしながら甘い台詞が吐けるアレク様ってすごい。



「だがこういってなんだが、訴えられたことはわたしにとっては幸運だった。ユーリアとの時間を得られた。ユーリアが領地に帰ってしまうと…わたしの立場ではなかなか会うことができないからな…。」



「アレク……さ、ま…?」



「ユーリア、答えを急がないでほしい。君がカミュ叔父上のことを好いていることはわかっている。だが、わたしにも時間がほしいのだ。好きになってもらえるよう努力する。」



「アレク様………もしかして……」



もしかして、



「うん?どうした、ユーリア?」



もしかしてもしかしてもしかしなくても?!





わたしが訴えられたのってアレク様が一枚噛んでるんじゃーーー……っっ?!





「裁判は長くかかるだろうが気長にいこう。ユーリアのためにわたしが力を貸すよ。」





そうにっこりと笑ったアレク様の後ろに

着ぐるみだった頃のアレク様の姿が重なってみえた気がした―――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

転生したら乙ゲーのモブでした

おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。 登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。 主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です 本作はなろう様でも公開しています

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

処理中です...