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番外編
「着ぐるみ皇家の心痛」
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ユーリアを囲んだお茶会が行われた3日後、
皇宮では皇后と皇太子の親子が先日会ったばかりの令嬢について話していた。
「あなたはどう思って?」
忙しい公務の、ひと時の休憩時間。皇后は自身の私室に息子である皇太子を呼ぶともう1人の息子が連れてきた令嬢についての感想を尋ねた。
「そうですね…」
当人であるもう1人の息子はすでに学院に戻っており今は2人だけである。当人がいない方が素直な感想も言いやすいだろうと、皇后はアレクが学院に戻るのを待ってから皇太子を呼んだ。
「率直に言えば…色々と足りないところは多そうでしたね」
皇太子の手厳しい感想に、皇后も表情を変えることなく頷いた。
「ですがアレクも承知の上でしょう。アレクがカバーできるというのでしたらさほど問題ではありません。」
「そうね。足りない部分は教育すればいいことだわ。」
第2皇子のアレクが自分達に会わせるために皇宮に招いた令嬢は、身分も素行にも特に問題はないことは事前の調査でもわかっていた。ついこの間までアレクが入れあげていた令嬢と比べれば諸手をあげて賛成したいくらいであった。本人からも、目の覚めるアドバイスをくれた相手だと聞いている。けれどライバルを蹴落として自分が皇子妃の座につこうと狙ってやったのではないとは言い切れない。故に、皇宮へ招き、その人柄を確かめようとしたのだったが。
皇宮も皇太子も、令嬢に実際に会ってみて色々と思うところがあった。
「一番心配すべき点は問題なさそうですし、アレクが望むのならいいのではないでしょうか?」
第2皇子の結婚相手の実家が、皇太子の座を、ひいては皇位を狙わせようと画策するようなところでは困る。しかしアレクが連れて来た令嬢は伯爵家ではあるもののそういった心配が必要な家ではない。ユーリア嬢本人にも、皇子妃になれるかもしれないという浮ついたものは窺えなかった。
問題は、全く、これっぽっちも、
そういう気持ちがないように見えたということだが……
親子は視線だけで通じ合い、けれどあえて言葉にすることはなく、気まずさをごまかすためにカップの紅茶に口をつけることで視線を落とした。
「…家族になるのですもの。一番大事なのは好感が持てるかどうかよね。」
「ええ。わたしを見ても令嬢の態度が変わることはありませんでしたし……」
「アレクに対しても平坦な態度だったけれどね」
「母上」
皇太子に止められ、皇后はカップを置くと溜息をつく。
「あの子は、どうするつもりかしら?」
紹介しろとは言ったけれど、
気持ちを通じ合わせてから呼べばいいものを。
その気のない相手を紹介されても一体どうしろというのかと。
自分達が会わせろといったことを棚にあげ、皇后も皇太子も心の中で呟いた。
「諦めるつもりは…ないようでしたね」
「あの子、わたくし達のことも利用したのではなくて?わたくし達が会いたいと言った言葉に便乗して引き合わせることで、あの令嬢を捕まえるつもりなのだわ。」
「…違う、と……言い切れないところが怖いですね…」
「ユーリア嬢は全く気づいていないでしょうけどね。」
「ユーリア嬢に同情します。」
「あなた、助けてあげる気はないの?あなたにとっても恩人でしょう。エイレーン嬢の親友でもあるとか。」
たまらず、息子ではなく令嬢の方に肩入れする発言をした皇后に
皇太子は心底苦しげに首をふった。
「わたしだってできるものならそうしたいですよ。しかし…」
皇太子は溜息をつき、搾り出すように続けた。
「あの表情をしている時のアレクは、邪魔をしたらわたしとてどうなるかわかりません。ユーリア嬢自身の意思と力で逃げ切るのならともかく、兄であるわたしが誘導したとなったら――…」
「……国を壊しかねないわね。」
皇太子は沈黙することで皇后の呟きを肯定した。
「大丈夫ですよ、母上。アレクはああ見えて無理強いは絶対にしません。ユーリア嬢の気持ちを無視することだけはしないでしょう。」
「そうね…そう信じるわ」
「さすがにもしアレクがユーリア嬢の人権を無視するような強硬手段に出れば、わたしも黙っていませんよ。例えそれで皇太子の地位が危うくなっても…か弱い令嬢を犠牲にしてまで守る意味などありませんから。」
「そうね。ええ、その通りね。その時はわたくしも…母としても皇后としても全力であの令嬢を守るわ。」
「まあ…アレクがユーリア嬢の心を得られれば心配することはないのですがね。」
国のためにも2人の心痛のためにも。
できればそうなってほしいと、願うけれど叶うかどうかはわからない。
「今のところ全く脈なしそうでしたからね…」
「それを言わないで…怖くなるわ。」
「大丈夫ですよ、母上。ユーリア嬢は変わったご令嬢ですから上手く逃げ切るでしょう。」
「あなた、どっちの味方なの」
そんな会話が皇宮でされていることなど
「やっぱり着ぐるみの家族は着ぐるみだったわ……」
ユーリアには想像もつかないことなのであった。
※着ぐるみ2体の会話ですよ?
皇宮では皇后と皇太子の親子が先日会ったばかりの令嬢について話していた。
「あなたはどう思って?」
忙しい公務の、ひと時の休憩時間。皇后は自身の私室に息子である皇太子を呼ぶともう1人の息子が連れてきた令嬢についての感想を尋ねた。
「そうですね…」
当人であるもう1人の息子はすでに学院に戻っており今は2人だけである。当人がいない方が素直な感想も言いやすいだろうと、皇后はアレクが学院に戻るのを待ってから皇太子を呼んだ。
「率直に言えば…色々と足りないところは多そうでしたね」
皇太子の手厳しい感想に、皇后も表情を変えることなく頷いた。
「ですがアレクも承知の上でしょう。アレクがカバーできるというのでしたらさほど問題ではありません。」
「そうね。足りない部分は教育すればいいことだわ。」
第2皇子のアレクが自分達に会わせるために皇宮に招いた令嬢は、身分も素行にも特に問題はないことは事前の調査でもわかっていた。ついこの間までアレクが入れあげていた令嬢と比べれば諸手をあげて賛成したいくらいであった。本人からも、目の覚めるアドバイスをくれた相手だと聞いている。けれどライバルを蹴落として自分が皇子妃の座につこうと狙ってやったのではないとは言い切れない。故に、皇宮へ招き、その人柄を確かめようとしたのだったが。
皇宮も皇太子も、令嬢に実際に会ってみて色々と思うところがあった。
「一番心配すべき点は問題なさそうですし、アレクが望むのならいいのではないでしょうか?」
第2皇子の結婚相手の実家が、皇太子の座を、ひいては皇位を狙わせようと画策するようなところでは困る。しかしアレクが連れて来た令嬢は伯爵家ではあるもののそういった心配が必要な家ではない。ユーリア嬢本人にも、皇子妃になれるかもしれないという浮ついたものは窺えなかった。
問題は、全く、これっぽっちも、
そういう気持ちがないように見えたということだが……
親子は視線だけで通じ合い、けれどあえて言葉にすることはなく、気まずさをごまかすためにカップの紅茶に口をつけることで視線を落とした。
「…家族になるのですもの。一番大事なのは好感が持てるかどうかよね。」
「ええ。わたしを見ても令嬢の態度が変わることはありませんでしたし……」
「アレクに対しても平坦な態度だったけれどね」
「母上」
皇太子に止められ、皇后はカップを置くと溜息をつく。
「あの子は、どうするつもりかしら?」
紹介しろとは言ったけれど、
気持ちを通じ合わせてから呼べばいいものを。
その気のない相手を紹介されても一体どうしろというのかと。
自分達が会わせろといったことを棚にあげ、皇后も皇太子も心の中で呟いた。
「諦めるつもりは…ないようでしたね」
「あの子、わたくし達のことも利用したのではなくて?わたくし達が会いたいと言った言葉に便乗して引き合わせることで、あの令嬢を捕まえるつもりなのだわ。」
「…違う、と……言い切れないところが怖いですね…」
「ユーリア嬢は全く気づいていないでしょうけどね。」
「ユーリア嬢に同情します。」
「あなた、助けてあげる気はないの?あなたにとっても恩人でしょう。エイレーン嬢の親友でもあるとか。」
たまらず、息子ではなく令嬢の方に肩入れする発言をした皇后に
皇太子は心底苦しげに首をふった。
「わたしだってできるものならそうしたいですよ。しかし…」
皇太子は溜息をつき、搾り出すように続けた。
「あの表情をしている時のアレクは、邪魔をしたらわたしとてどうなるかわかりません。ユーリア嬢自身の意思と力で逃げ切るのならともかく、兄であるわたしが誘導したとなったら――…」
「……国を壊しかねないわね。」
皇太子は沈黙することで皇后の呟きを肯定した。
「大丈夫ですよ、母上。アレクはああ見えて無理強いは絶対にしません。ユーリア嬢の気持ちを無視することだけはしないでしょう。」
「そうね…そう信じるわ」
「さすがにもしアレクがユーリア嬢の人権を無視するような強硬手段に出れば、わたしも黙っていませんよ。例えそれで皇太子の地位が危うくなっても…か弱い令嬢を犠牲にしてまで守る意味などありませんから。」
「そうね。ええ、その通りね。その時はわたくしも…母としても皇后としても全力であの令嬢を守るわ。」
「まあ…アレクがユーリア嬢の心を得られれば心配することはないのですがね。」
国のためにも2人の心痛のためにも。
できればそうなってほしいと、願うけれど叶うかどうかはわからない。
「今のところ全く脈なしそうでしたからね…」
「それを言わないで…怖くなるわ。」
「大丈夫ですよ、母上。ユーリア嬢は変わったご令嬢ですから上手く逃げ切るでしょう。」
「あなた、どっちの味方なの」
そんな会話が皇宮でされていることなど
「やっぱり着ぐるみの家族は着ぐるみだったわ……」
ユーリアには想像もつかないことなのであった。
※着ぐるみ2体の会話ですよ?
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