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番外編

「カミュ先生の誘惑」

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人はいつか、わたしのことをこう呼ぶだろう。

世界を救った英雄、

いや、


聖女だと―――!


わたしの名は伝記に残され、永遠に語り継がれていくのだ。

その日のためにわたしは戦う。
立ち向かっていくのだ、世界の悪意に…!
決して諦めない不屈の精神がわたしの武器――

「ルドフォン伯爵令嬢、後で指導室に来るように。」

この世界を救うための方法を考えすぎていたためにうっかり授業中に寝てしまうという致命的なミスを犯したわたしは、
生徒としても令嬢としてもありえない醜聞であるとこってり教師にお説教され
ほとんどの生徒が帰宅した寂しい廊下を1人、とぼとぼと歩いていた。
大きな代償を払ったというのに結局名案は浮かばなかったし。

その時だ。
急に横から伸びてきた手によって

「?!」

わたしはひっぱられ、
空き教室に連れ込まれた。素早く扉は閉められ、けれど衝撃は襲ってこず、代わりに暖かな胸板がわたしを包み込んだ。

「やっと捕まえた。リア」

「カミュ先生…!!」

びっくりした!本当にびっくりした!
一瞬心臓がひゅんってした。肝が冷えたし人生終わったのかと思った。誘拐拉致監禁かと思った!

「ごめん、驚かせたね」

「怖かったです…」

相手がカミュ先生じゃなかったら顔面パンチをお見舞いしてるところでした。
こういうのはあれです、いつかミラ様にも言ったけど、許されるのは物語の中だけで実際にされると本気でびびるからやめた方がいいです。
カミュ先生がわたしの目ににじんでいた涙を困ったように微笑みながら拭う。
どきんと胸が高鳴って、襲ってきた色気に一瞬で敗北する。はい、“ただしイケメンに限る”を適用します!!
話し方もいつもの敬語ではなくて時折垣間見えてた甘々モードのカミュ先生――!

「怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ…」

「ただ?」

「リアが、あんまり会いにきてくれないから。」

「っっ」

後ろめたさに目が泳ぐ。避けてたわけでは本当にないんだけど会いに行こうとしてなかったのも事実というかなんというか。
体調も悪くないのに保健室に行くわけにもいかないとか理由もあるんですけどね?他のことを優先してしまってるのも本当だし…

「い…忙しくて、ですね……」

主に戦う準備というか戦う方法を模索するのに!これは本当です!!

わたしをしっかり抱きしめたまま、
カミュ先生は優しい瞳でわたしを見下ろし、首をかしげる。吹き出しをつけるなら「ん?」って感じだ。

「リアは何と戦ってるの?」

「な、なんでっ」

カミュ先生が微笑む。

「声に出てたから。」

「~…せ、世界と、ですかね……」

「大きなものと戦ってるんだね」

「……………」

もうわたしは真っ赤だ。
カミュ先生はわざとわたしの羞恥心を煽ってるんじゃないかとさえ思うほどだ。
中2病を見抜かれたみたいな恥ずかしさというか現在進行形で作り上げてる黒歴史を指摘された恥ずかしさというかとにかく恥ずかしいの一言だ。

わたしはカミュ先生から逃れようと両手を突っぱねる。なのにカミュ先生は離してくれない。多少の隙間はできたけれど相変わらずわたしはカミュ先生の腕の中だ。

「カミュ先生はっ…ずるい、わ…」

今は主に恥ずかしさと戦いながら精一杯の顔で睨んだ。

「ずるい?」

「だ、だって…!カミュ先生はっ……なんにも言ってくれてない、のに…!」

それなのにまるでわたしが薄情みたいに。
不義理を責める恋人みたいにするのは、ずるい。今のこの状況も、言葉も。
本当の恋人同士のようだけど、

わたしは先生から何の言葉ももらっていない。

わたしは何度も、好きだって言ってるのに…っっ

「それなのに…こんなっ……恋人、みたいなこと…しないでください…っ」

だからわたしが責められるのはおかしいし
わたしがカミュ先生に会いにいかなくたって当然なんだ。

まるで恋人みたいに抱きしめてるカミュ先生の方が、おかしい。

「リア」

わたしは耳をふさぐ。
聞きたくないと、俯いた。

「リア、聞いて」

「っ嫌です!」

そんなわたしの両手を
カミュ先生が優しく掴む。
それでもわたしは耳をふさぎ続けた。

「リア」

“好きだよ”と。
耳元でカミュ先生の声がした。

無意識に閉じていた瞳を
ゆっくりと開けて顔をあげる。

「先生…?」

そこには優しくて甘い、
カミュ先生の瞳があった。

「リア。わたしはリアが好きだよ。」

「っカミュ先生」

ほんとに?
この世界ではルルみたいなのが美人だったり可愛かったりするのに?
本当にわたしを好きになってくれたの?
信じて…いいの?

「だけど、リアはまだ迷ってるんでしょう?」

「っっど、どう、して……」

なんでわかるの。
どうして知っているの。

わたしの態度がそう思わせるのだろうか。

「リアはまだ若い。迷って当然だよ。だから、責めるつもりはないよ。」

「迷ってるのは…っ」

それは着ぐるみを産む覚悟ができないからであって!
カミュ先生と誰かを比べてるわけじゃないのに!

「だから、卒業まで待ってあげる。」

「……卒業、まで?」

掴んでいたわたしの手に視線を落とし
カミュ先生はわたしの手首にキスをした。
大人の男性の色香に全身が血が一気に沸騰する。

「わたしはっ」

「この世界を、救ってくれるんでしょう?」

わたしは目を見開いた。

カミュ先生は何をどこまで知っているのだろう。
それともただの偶然で、わたしが勝手に言葉に意味があると考えすぎているだけなのだろうか。

…後者な気がする。
さっき、おもいっきりわたし、世界と戦ってるとか言っちゃったし。
黒歴史の量産を応援されてるだけなのかもしれない。だとしたら先生。わたし、かなり痛い子だと思うんですけど。それでもいいんですかね?こんなわたしでも本当に先生は好きだって言ってくれるんですか?

くすり、と。

頭上でカミュ先生の笑う気配がした。

「心配ないよ。リアが、わたししか選べなくなるように―――今よりずっと、好きにさせてみせるから。」

ルル…

これ……
これがゲームだっていうのなら………

わたしが攻略するんじゃなくて攻略されるんじゃないかな?

わたしチョロインっぽいけど大丈夫かな?
攻略される前にもうわたし、


カミュ先生が大好きなんだけど!!
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