転生した世界のイケメンが怖い

祐月

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番外編

「着ぐるみ家族になろうよ」

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休暇も終わりに近づき、授業が再開する少し前のことだ。
余裕をもって早めに領地を発ち、寮に戻ったわたしの元に
プロ侍女さんからやけに恭しい仕草である手紙を届けられた。

ものすごく嫌な予感がした。

正直、受け取りたくなかった。

見た目からして普通の手紙とは違う封書にプロ侍女さんの態度、
おそるおそる裏返してみれば

「まじか…」

当たってほしくない予感的中、
皇家の印が押してあった。
連想されるのはアレク様しかいない。何もわざわざ皇家の印を押して寄越さなくても、こういう形で送ればわたしが受け取らざるをえないと承知の上の計画的犯行であることを確信させる。わりとそういう人だよね、アレク様って。と、ようやくわたしもわかってきた。

おそるおそる中を開けばお茶会の招待状、
もちろん場所は皇宮、皇族からの正式なご招待、断れるわけがない!

「やばい…全身を使って拒否したい…」

幼児のだだっこのように、
床に寝転んでじたばたして「行かなくていいって言うまで動かないもん!」とかやって拒否したい。心からの叫びを表現したい。

「これ…行かなくちゃ駄目?ですよね~」

などと呟いてみるけど独り言にしかならなかった。風邪もひいていない今、部屋にはすでにわたし1人しかいないのだ。プロ侍女さんはとっくに退室している。これもお約束なのでとりあえず言ってみたかった。

じきに休暇も終わるしすぐまた学院で会えるのに。
なんでそれまで待てないかなあ。
別に皇宮まで行ってアレク様とお話したいことなんてないというのに。
それともこれはあれかな、友達になろうとか言われて了承しておきながらなあなあに流してきてそれとなくなかったことにしてきたわたしへの警告?仕返し?もしかして怒ってらっしゃる??










「本日はお招きいただきましてありがとうございます。アレク皇子殿下」

「ようこそ。よく来てくれた。」

「…2人だけですか?」

大規模なお茶会ではなくて安心したといえばしたのだけど
ちょっとだけ拍子抜けしたのも事実だった。

「いや、後から父上と母上と兄上も来るよ。今は政務でちょっと立て込んでいてね。…どこへ?」

「帰ります!今すぐ帰らせていただきます!ごきげんよう!」

「ユーリアは面白いなあ。今来たばかりじゃないか。」

「家族勢ぞろいなんて聞いてません!!」

「言ったらユーリアのことだ、仮病を装ってでも断るだろう?」

「当たり前です!!」

着ぐるみの家族とか!家族とか!家族…とか……着ぐるみ?
着ぐるみの家族は着ぐるみなの?

「冗談だよ、ユーリア。さすがに父上は忙しくてそんな時間はないから。」

「…つまり皇后陛下と皇太子殿下はいらっしゃるということではないですか。」

1人くらい減ったって3人も4人もそこまでいくともうあんまり変わんないよ!
わたしの抗議にもアレク様は微笑むだけだ。

本日のお茶会は皇宮の庭園、色とりどりの薔薇が見事に咲き誇る庭に用意された円卓で行われる。さすが皇宮、さすが皇族、一定の距離をとって控えている侍女さんの数は我が家とは比べものにならないし、遠くに見える腰に剣を挿した彼らは護衛でしょうか。うん、逃げられる気がしない完璧な配置。全く隙がありません!

「………すまない。」

「え?」

わたしの視線の先を確認したアレク様に、
急に謝罪をされて驚く。

「友人を呼ぶだけなのに、こんな形になってしまって。怖がらせるつもりはなかったんだが。申し訳ない。」

「………」

「わたしはこれでも皇子だから、実家といえどこういう形になってしまうんだ。私室でなら、もう少し気楽に会えるのだが」

「ここでけっこうです。」

食い気味で返事を返した。
気のせいかアレク様から舌打ちが聞こえたけど気のせいのはず。
でもそうなんですね、いえ、皇子様ですしこれは想像してたからいいんですけどわたしとしてはアレク様の策略かな?なんて思ってたんですけど違うんですね、よかったです。単にわたしが殿下に危害を加えるかもしれない危険人物と疑われてるだけのようで。……帰ってもいいですか?

「座って、ユーリア。彼らのことは気にしないで。ここで何が起きても彼らが口外することはない。」

それって安心してくれって意味ですか?それとも無駄な抵抗はするなよという意味ですか?どちらにせよ安心できる要素はどこに?

「…アレク様はどうしてわたくしをお茶会に誘ってくださったのですか?」

わたしは溜息をついてから椅子に腰を下ろした。

「どうしてって?」

アレク様はカップに手を伸ばし、一口飲んでからわたしを見た。

「もうじき授業も再開しますし、学院で会えますのに。」

わざわざ皇宮に呼ばなくても。
そう言うと、アレク様がくすりと笑った。

「学院ではユーリアはわたしを避けているのに?」

「な、なんのことでしょう?!」

そんなつもりは全くありません!あえて自分から接触する必要を感じていないだけです!

「会えばご挨拶してますわ。」

「会えばね。」

「それで充分ではないですか。」

「わたしは足りないのだよ。」

なんでだよ、という言葉はぐっと飲み込んだ。令嬢の仮面が剥がれそうだったからだ。今は侍女さん達の目がある自重しなければ。
代わりにわたしも紅茶をいただくことで気持ちを静め、剥がれそうになった仮面をかぶりなおす。

「…ルルのことで心配をかけてしまったからね。母達がユーリアに会ってみたいそうなんだ。」

「…女性の友人ができたくらいでさすがにそれは心配のしすぎではありませんか?」

眉をよせ、怪訝な表情で聞いても、アレク様はまた笑みを深くするだけで答えなかった。
そりゃ、ルルのことではエイレーン様と婚約を解消までしたのだし、家族としては心配するのもわかる。でも、わりと目を覚ますのも早かったのだし今はもう立派に更正しているのだ。わたしが言うことではないけれどもう少しアレク様を信じてもいいのではないだろうか?
女友達ができるたびにいちいち皇宮に呼び出していては大変だろう。

「ユーリアは、わたしの家族に会うのが嫌?」

「……皇后陛下も皇太子殿下も恐れ多いですから。」

「今日はただわたしの家族としてだよ。気楽にしていい。」

「できるわけないです。」

「でも、慣れていくべきだろう?今後のためにもね。」

「それは…そうかもしれませんがどうせ成人してもわたくしが殿下方にお会いできる機会は滅多にないと思いますよ?」

わたし、卒業したら領地に帰るつもりだし。
お婿さん連れて領地でのんびり幸せに暮らすつもりだから。
皇后陛下にも皇太子殿下にもお会いすることはないと思うの。たまに夜会などに行くことになればご挨拶くらいはできるだろうけど。

「実はね、」

アレク様がカップを置いてわたしを見つめる。

「兄上がユーリアに会いたいのには他にも理由があるんだよ。」

「理由ですか?」

面識もないのにわたしに会いたい理由?
わたしもカップを置くとアレク様を見返した。

「ユーリアにお礼を言いたいそうなんだ。」

「…お礼?」

皇太子殿下が?わたしに?なんで??
アレク様が頷く。

「エイレーンのことだよ。実は、兄上はエイレーンのことがずっと好きだったらしくてね、君のおかげでエイレーンの無罪も証明できたし、わたしとの婚約も解消になった。そのお礼が言いたいそうなんだ。」

「まあ!」

そうだったのですか!!

「目下、兄上はエイレーンにアプローチ中でね。自分にもアドバイスがほしい狙いもあるのかもしれないが。」

素晴らしい!
いいのではないでしょうか!エイレーン様は淑女の鏡ですし心まで綺麗な優しい方です!エイレーン様が幸せになれるのなら大賛成です!

「エイレーン様が望まれるのでしたら、わたくしは応援しますわ。」

ただあくまでもエイレーン様がいいと言うならだけどね。
アレク様との婚約解消でもう皇族は嫌だと思っていないとも言い切れない。そこは皇太子殿下の頑張り次第だろう。

「ライバルが多くて、兄上も手を焼いているみたいだよ。」

「そうでしょうね」

マーシャル様も…っくっ……マーシャル様、も…エイレーン様を狙っているのだし…
世界基準で絶世の美少女のエイレーン様はアレク様との婚約を解消しても引く手あまただ。

「………ところでアレク様、皇太子殿下はその、……………アレク様と似ているのですか?」

着ぐるみですか?
とは言えないのがもどかしい。美形ですか?と聞いてもアレク様も答えにくいだろう。

「そうだな…。顔立ちは似ていないかな。兄上はどちらかといえば父上似でね。」

「いえ顔ではなく。身体つきです。」

「身体?」

体格といったほうがよかったかな?

「…ユーリア。そういうことは、兄上の前では言わないようにね?わたしにだけならいいけど。」

え、これ失礼な質問だった?
じゃあ皇后陛下が着ぐるみかどうかも聞いちゃ駄目なのかな?一番知りたいところなんだけど!着ぐるみが着ぐるみを出産したのかそれとも人間が着ぐるみを出産したのか、わたしとしては切羽詰ったとっても大事な問題!

…まあいいか。後でお会いできるんだしすぐにわかることだ。

多分なあ。

全員着ぐるみなんだろうなあ。

皇帝陛下も皇后陛下も皇太子殿下も。
家族総出で着ぐるみなんだろうなあ。

そんな予感がひしひしするんだよね。

「わかりましたわ。もう言いませんのでご安心くださいませ。」

「わたしならいいからね。」

「いえ、アレク様ならわかりますから。」

アレク様は着ぐるみだってわかってるし。
なのでお断りしたら何故かアレク様に

「いつ…?!」

いつ?

「まだ見せてないはずだよね?」

と、
意味のわからないことを聞かれたので首をかしげた。
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