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本編
第38話「着ぐるみ開放運動」
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ルルによれば
「こんな姿だけど中身は普通の人間と変わらないのよ。トイレも行くし生理だってあるんだから。要は見た目だけなのよ。」
ということらしい。
「それは……オタクの夢を壊す現実ね…」
アニメキャラとしては絶世の美少女であるルルからまさかのカミングアウト。滂沱の涙を流す男性は多いのではないだろうか。お腹を壊してトイレに篭る美少女にはたして需要はあるのか。
「で、話を戻すけど。ここってわたしが前世でやってたゲームの世界にそっくりなのよ。」
「ちょっと待った」
「何よ。またふざけたら今度は本当に絞めるからね!」
ぐっ…
「その顔はやる気だったわね」
「いやでもね?ルル。ゲームって0と1の世界なのよ?0と1だけで作られてるの。そんなものに入れると思う?ありえないでしょ。」
物語にしたってそうだ。文字のみで作られたものに入り込むなんてそんなこと。
あるわけがないじゃないか。
前世の記憶を持って生まれ変わるだけならありえなくはない。実際、前世でもそういう事例はいくつもあった。もちろん信じるか信じないかはあなた次第ってやつだったけど。でも、自分には前世の記憶があると主張する人物は世界中にいたみたいだし、それを裏付けるような記憶の一致もあったと聞く。
「じゃあこの姿は何なのよ!これでゲームじゃないとでも言うの?!」
「それは………そういう世界だから?」
「その一言ですませられるか!!」
「や、でもさ。本当に。ゲームとか小説の中とかって考えるより、こういうおかしな世界に生まれ変わったって考える方が自然じゃない?」
地球以外の世界がないとは前世でだって言い切れなかったのだ。
どんな不思議と思える世界があったっておかしくはない。世界がひとつとは限らず、地球は無数にある世界のひとつに過ぎなかったのかもしれないのだ。
だって
そもそもがこれがおかしいと感じるのだって、
前世の知識によるものだから。
「………ごめん」
言ってしまってから後悔した。
「ごめん、ごめん、ルル。嘘だよ。嘘だってば。わたしが現実逃避したいだけだから。だから………そんな泣きそうな顔しないで?」
「…っ馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!本当、あんたってひどい……」
「ごめん……」
わたしが悪い。ルルを傷つけた。あまりにも無神経だった。
わたしはルルの横に移動して、そっと肩を抱いて頭を寄せた。ルルの身体はわたしよりずっと大きくて、その体制には少し無理があったけど、でも。
「ルル…」
怖さもなければ、嫌悪もない。俯いて震えるルルは普通の、どこにでもいる少女だった。
「……っふ、……ふふ…」
「…ルル?」
「ふ、ふふふ、ふふ……」
抱き寄せていたルルから不気味に笑い出し
驚いたわたしが手を離すと
涙など浮かんでいないどころかにんまりと嫌な笑顔のルルと目が合った。
「だからあんたは馬鹿だって言うのよ」
自分が少しばかり残念であることは認めよう。
けれど人に言われたくはないなあと不快に眉を寄せたわたしをルルは鼻で笑った。
「他人事だとでも思ってるでしょ?だから馬鹿だって言ってんのよ。言ったでしょう?わたしの両親は、普通の人間だって」
サーッと血の気がひく。
まさか…
「そうよ。この世界で誰と結婚しても、あんたから着ぐるみが生まれてくる可能性があるのよ!!」
腕を組んで仁王立ちするルルの下
わたしは小さくなって正座である。
「ようやく真面目に聞く気になったみたいね」
「はい。愚かなわたくしにルル様のお考えをお聞かせくださいませ」
「最初からそうすればいいのよ。」
もうこうなってはルルの考えを拝聴するしかない。ははーっとひれ伏してルル様のお知恵を拝借する次第だ。
必死にルルの話に耳を傾ける。
「いい?この世界はゲーム、またはゲームを元にした小説、にすごくよく似た世界よ」
ルルも思うところがあったのか、さっきはゲームの中だと断定していたのを、似た世界だと言い換えた。
わたしもそっちの方が納得できる。似ている別の世界ならば充分にありえる話だ。
「この際ゲームの名前なんてどうでもいいわ。でもね、この世界がそうだと考えると色んな不自然なことが腑に落ちるわ。あんただって、おかしいなと思うことたくさんあるでしょう?」
「言われてみれば…」
どうして身分制度のある世界なのにその縛りは緩々なのかとか、貴族だっていうのに学校があるのかとか。普段はドレスなのにどうして前世日本のような制服があるのかとか。キース理事長が金髪青目でありながら塩顔なこととか。よくよく考えてみれば不自然なことばかりだ。美形=着ぐるみだけじゃなく、色んなことがおかしかった。
「でもそれだってあくまで前世の常識に照らし合わせた上で不自然と思うだけかもしれないし…」
前世の常識が世界の常識ではない。
何が普通で何がおかしいとか、国同士でも違うのだから。
「だとしてもよ。わたしがやってたゲームによく似てるってことは間違いないんだから。世界観も、登場人物も。」
「登場人物…」
「アレク達よ。シルヴィとレイトン、ミラ。エイレーン。そしてわたし。まんまゲームのキャラクターと一緒。途中までは展開もね。」
全てのおかしさは“ゲームの世界だから”の一言に集約されるとルルは言い放った。
「よく聞きなさいよ。大事なのはこれからなんだから。」
もう一度頷いてルルを見上げる。
着ぐるみを出産しないためにはルルのお知恵に全力ですがる所存である。
「なら、どうやったらこの姿から開放されるのか。大事なのはそこよ。」
「わたしにできることがあるなら何でも協力するわ!」
ルルのためにも、自分のためにも!
着ぐるみからの開放を!!
「ゲームを模していることから考えて……」
「考えて…?」
ルルが声を落として
しゃがみこみわたしと目線を合わせた。
「あんたよ。あんたがアレク達を堕とすのよ。そうすれば世界はゲームと完全に分離して、わたしも人間になれるかもしれない。………なに『冗談きついんだから』みたいに笑ってんのよ。わたしは本気で言ってるのよ?!」
ルルの顔がさらに、わたしに近づく。
その大きな瞳にわたしがうつっていて一瞬どきりと心臓が跳ねた。
「わたしでもエイレーンでも駄目よ。わたしはヒロインだしエイレーンには悪役って割り振りがあるんだから。どっちがアレク達を堕としてもここがゲームか二次創作かわからない以上、シナリオと逸脱するかどうかわからないわ。だからあんたがやるのよ。完全にゲームと無関係のあんたが。」
うん、ものすごい無理矢理感が半端ない。二次創作なら何でもありうるし!
どうにかしてわたしを巻き込もうという悪意がいっぱいだねルル…!
「いやぁ~、ルル。そんなことで着ぐるみが解けるなんて思えないけどなぁ」
「なんでもいいのよ!とにかくあれこれやってみるのよ!」
「うわ!やっぱり適当だったんだ!!ルルひどい!」
真剣なふりして非道!!わたしを利用する気がちっとも隠れてない!
「うるさい!なんでもいいから試してみるのよいいからやってみなさいよ!」
「大体堕とすってなに!どうなったらクリアでエンディングなの?!」
「それは結婚したらじゃないの?またはたくさんの子供に恵まれて幸せに暮らしましたエンドとか」
「それもう取り返しのつかないエンドじゃん!そこまでいっちゃったら試すとかいうレベルじゃないじゃん!!」
「もしかしたらキスしただけで呪いが解けるパターンもあるかもしれないわよ?!ほら、蛙の王子様みたいな!」
「じゃあルルがキスしなよ!」
どんどんヒートアップしてくる。
絶対に負けられない戦いがそこにはある…!!
是が非でもその役目、わたしに押し付けられるわけにはいかぬ…っ!
ルルのことは助けたい。
アレク様達のことも嫌いではない。
何でもいいからやってみて現状を打破したい気持ちも痛いほどよくわかる。
だけどだけど
「もう!大人しく卒業まで待ってのノーマルエンドでもいいんじゃないの?!」
わたしはカミュ先生のリアなんだから!
「ノーマルエンドでループしたらどうすんのよ?!また最初から着ぐるみしろっての?!」
「なにそれどんな戦慄迷宮?!」
いや着ぐるみ迷宮?!
「こんな姿だけど中身は普通の人間と変わらないのよ。トイレも行くし生理だってあるんだから。要は見た目だけなのよ。」
ということらしい。
「それは……オタクの夢を壊す現実ね…」
アニメキャラとしては絶世の美少女であるルルからまさかのカミングアウト。滂沱の涙を流す男性は多いのではないだろうか。お腹を壊してトイレに篭る美少女にはたして需要はあるのか。
「で、話を戻すけど。ここってわたしが前世でやってたゲームの世界にそっくりなのよ。」
「ちょっと待った」
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「いやでもね?ルル。ゲームって0と1の世界なのよ?0と1だけで作られてるの。そんなものに入れると思う?ありえないでしょ。」
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あるわけがないじゃないか。
前世の記憶を持って生まれ変わるだけならありえなくはない。実際、前世でもそういう事例はいくつもあった。もちろん信じるか信じないかはあなた次第ってやつだったけど。でも、自分には前世の記憶があると主張する人物は世界中にいたみたいだし、それを裏付けるような記憶の一致もあったと聞く。
「じゃあこの姿は何なのよ!これでゲームじゃないとでも言うの?!」
「それは………そういう世界だから?」
「その一言ですませられるか!!」
「や、でもさ。本当に。ゲームとか小説の中とかって考えるより、こういうおかしな世界に生まれ変わったって考える方が自然じゃない?」
地球以外の世界がないとは前世でだって言い切れなかったのだ。
どんな不思議と思える世界があったっておかしくはない。世界がひとつとは限らず、地球は無数にある世界のひとつに過ぎなかったのかもしれないのだ。
だって
そもそもがこれがおかしいと感じるのだって、
前世の知識によるものだから。
「………ごめん」
言ってしまってから後悔した。
「ごめん、ごめん、ルル。嘘だよ。嘘だってば。わたしが現実逃避したいだけだから。だから………そんな泣きそうな顔しないで?」
「…っ馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!本当、あんたってひどい……」
「ごめん……」
わたしが悪い。ルルを傷つけた。あまりにも無神経だった。
わたしはルルの横に移動して、そっと肩を抱いて頭を寄せた。ルルの身体はわたしよりずっと大きくて、その体制には少し無理があったけど、でも。
「ルル…」
怖さもなければ、嫌悪もない。俯いて震えるルルは普通の、どこにでもいる少女だった。
「……っふ、……ふふ…」
「…ルル?」
「ふ、ふふふ、ふふ……」
抱き寄せていたルルから不気味に笑い出し
驚いたわたしが手を離すと
涙など浮かんでいないどころかにんまりと嫌な笑顔のルルと目が合った。
「だからあんたは馬鹿だって言うのよ」
自分が少しばかり残念であることは認めよう。
けれど人に言われたくはないなあと不快に眉を寄せたわたしをルルは鼻で笑った。
「他人事だとでも思ってるでしょ?だから馬鹿だって言ってんのよ。言ったでしょう?わたしの両親は、普通の人間だって」
サーッと血の気がひく。
まさか…
「そうよ。この世界で誰と結婚しても、あんたから着ぐるみが生まれてくる可能性があるのよ!!」
腕を組んで仁王立ちするルルの下
わたしは小さくなって正座である。
「ようやく真面目に聞く気になったみたいね」
「はい。愚かなわたくしにルル様のお考えをお聞かせくださいませ」
「最初からそうすればいいのよ。」
もうこうなってはルルの考えを拝聴するしかない。ははーっとひれ伏してルル様のお知恵を拝借する次第だ。
必死にルルの話に耳を傾ける。
「いい?この世界はゲーム、またはゲームを元にした小説、にすごくよく似た世界よ」
ルルも思うところがあったのか、さっきはゲームの中だと断定していたのを、似た世界だと言い換えた。
わたしもそっちの方が納得できる。似ている別の世界ならば充分にありえる話だ。
「この際ゲームの名前なんてどうでもいいわ。でもね、この世界がそうだと考えると色んな不自然なことが腑に落ちるわ。あんただって、おかしいなと思うことたくさんあるでしょう?」
「言われてみれば…」
どうして身分制度のある世界なのにその縛りは緩々なのかとか、貴族だっていうのに学校があるのかとか。普段はドレスなのにどうして前世日本のような制服があるのかとか。キース理事長が金髪青目でありながら塩顔なこととか。よくよく考えてみれば不自然なことばかりだ。美形=着ぐるみだけじゃなく、色んなことがおかしかった。
「でもそれだってあくまで前世の常識に照らし合わせた上で不自然と思うだけかもしれないし…」
前世の常識が世界の常識ではない。
何が普通で何がおかしいとか、国同士でも違うのだから。
「だとしてもよ。わたしがやってたゲームによく似てるってことは間違いないんだから。世界観も、登場人物も。」
「登場人物…」
「アレク達よ。シルヴィとレイトン、ミラ。エイレーン。そしてわたし。まんまゲームのキャラクターと一緒。途中までは展開もね。」
全てのおかしさは“ゲームの世界だから”の一言に集約されるとルルは言い放った。
「よく聞きなさいよ。大事なのはこれからなんだから。」
もう一度頷いてルルを見上げる。
着ぐるみを出産しないためにはルルのお知恵に全力ですがる所存である。
「なら、どうやったらこの姿から開放されるのか。大事なのはそこよ。」
「わたしにできることがあるなら何でも協力するわ!」
ルルのためにも、自分のためにも!
着ぐるみからの開放を!!
「ゲームを模していることから考えて……」
「考えて…?」
ルルが声を落として
しゃがみこみわたしと目線を合わせた。
「あんたよ。あんたがアレク達を堕とすのよ。そうすれば世界はゲームと完全に分離して、わたしも人間になれるかもしれない。………なに『冗談きついんだから』みたいに笑ってんのよ。わたしは本気で言ってるのよ?!」
ルルの顔がさらに、わたしに近づく。
その大きな瞳にわたしがうつっていて一瞬どきりと心臓が跳ねた。
「わたしでもエイレーンでも駄目よ。わたしはヒロインだしエイレーンには悪役って割り振りがあるんだから。どっちがアレク達を堕としてもここがゲームか二次創作かわからない以上、シナリオと逸脱するかどうかわからないわ。だからあんたがやるのよ。完全にゲームと無関係のあんたが。」
うん、ものすごい無理矢理感が半端ない。二次創作なら何でもありうるし!
どうにかしてわたしを巻き込もうという悪意がいっぱいだねルル…!
「いやぁ~、ルル。そんなことで着ぐるみが解けるなんて思えないけどなぁ」
「なんでもいいのよ!とにかくあれこれやってみるのよ!」
「うわ!やっぱり適当だったんだ!!ルルひどい!」
真剣なふりして非道!!わたしを利用する気がちっとも隠れてない!
「うるさい!なんでもいいから試してみるのよいいからやってみなさいよ!」
「大体堕とすってなに!どうなったらクリアでエンディングなの?!」
「それは結婚したらじゃないの?またはたくさんの子供に恵まれて幸せに暮らしましたエンドとか」
「それもう取り返しのつかないエンドじゃん!そこまでいっちゃったら試すとかいうレベルじゃないじゃん!!」
「もしかしたらキスしただけで呪いが解けるパターンもあるかもしれないわよ?!ほら、蛙の王子様みたいな!」
「じゃあルルがキスしなよ!」
どんどんヒートアップしてくる。
絶対に負けられない戦いがそこにはある…!!
是が非でもその役目、わたしに押し付けられるわけにはいかぬ…っ!
ルルのことは助けたい。
アレク様達のことも嫌いではない。
何でもいいからやってみて現状を打破したい気持ちも痛いほどよくわかる。
だけどだけど
「もう!大人しく卒業まで待ってのノーマルエンドでもいいんじゃないの?!」
わたしはカミュ先生のリアなんだから!
「ノーマルエンドでループしたらどうすんのよ?!また最初から着ぐるみしろっての?!」
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