上 下
37 / 66
本編

題36話「ピンクの着ぐるみは人間になりたい」

しおりを挟む
プロ侍女さんにちゃんと説明してから来ればよかった…。
つい気持ちがはやってろくな説明もせずに2人を頼んでルル嬢と出てきたから…。

目を覚ました2人からどんな風に聞いたのか大体想像はつく。プロ侍女さんは多分、狂ったルル嬢に脅されてわたしがついていったとでも勘違いしたのだろう。
3人はわたしの救出をとルル嬢の部屋まで駆け込んでくれたらしい。

「……………その、」

「………し、失礼…しました、わ…の、ノックも…せず、に……」

「…申し訳ございませんでした。では、ご無事なようですのでわたくし達は失礼させていただきます。」

「ちょっと待って行かないで!今行かれるととんでもない誤解を生む気がする!!!」

このまま帰られたら3人の中でわたしはルル嬢を襲った痴女である微妙に距離を置かれてしまう気がする!!

「…邪魔しないでくれる?これから、いいところだったのに」

ルル嬢が裸のままわたしの後ろにまわりこみ
後ろからべったり抱きついてきた。

「ルルルルルル嬢??!!」

何故誤解を増長するようなことをする?!

「それとも―――…混ざりたいの?」

わざとらしいまでにねっとり。挑発するかのような口ぶりで。
言葉に色気をのせたルル嬢はわたしを抱きしめたまま言い放った。

エイレーン様は赤面、レイチェル様は「今度はそちらに?」ってその呟き、しっかり聞こえてますから!プロ侍女さんは…

「お着替えならお手伝いいたします。」

といつの間にかルル嬢の制服を手にわたし達のすぐ傍に立っていた。
驚いたわたしと目が合うと

「…っそうでございました。本日は休校でございました。制服ではありませんでしたね。…では、どちらのお召し物をお持ちしましょうか?」

などとそうだけどそうじゃない、なことを言って慌てている。
プロ侍女さんも無表情だけど混乱しているらしい。

後ろから溜息が聞こえて

「着替えは自分でするからいいわ。この子も元気みたいだし、あなたはもういいんじゃない?」

とルル嬢。
待ってこのままプロ侍女さんを帰したらわたしの名誉が!

「身体のことで悩みがあったのよ。それをこの子に見てもらってたの。相談できる人を探してたけど…この子しかいなかった。」

「っそうでございましたか……」

「ルル様…」

「そうでしたの…」

「デリケートな問題だから誰にも言わないでよ。」

「ええ」

「もちろんですわ。」

「守秘義務がございますから当然のことでございます。」

なんとか3人を納得させてくれたルル嬢の言い訳にほっと息をつく。
なるほど、ルル嬢上手い。嘘は全く言っていないのに真実でもない言い訳だ。これなら誰もそれ以上を追求してくることもできない。

「だからさっさと出て行ってくれる?まだ相談があるのよ。この子にしかできない相談なの!」

「わかりました」

「わかりましたわ、あの、ユーリア様…」

それでも不安気にわたしを窺うレイチェル様に
わたしはにっこりと微笑んで頷いてみせる。

「大丈夫ですわ。ルル様ももう落ち着いていますし、お話するだけです。」

そうしてようやく、3人が部屋から出て行って

「…あの子は自分がおかしいってことにちっとも気づいてないのね」

出て行くエイレーン様を見送りながら聞こえた呟きに
はっと振り返ったわたしが見たのは

「気づかないままでいれば…幸せだったのかな」

ルル嬢の、

寂しくて、哀しそうな顔だった。










「さてと。で、どうだったの?わたしの背中にチャックはあった?」

「……なかったわ」

わたしは少し躊躇い、けれどはっきりと返事をした。

「そう…やっぱりそうなのね」

ルル嬢の声は落胆はあるもののやはり、と納得しているようなものに聞こえた。
つまりルル嬢だけではなく、アレク様達全員、チャックなどは存在せずあのままあの姿が本来の姿であるということだ。

「自分でも何度も探してたし、わかってたわ。この姿も、物心ついた時からだったしね。」

「ルル嬢…」

「ルルでいいわよ。嬢ってつけられるとなんかキャバ嬢時代思い出すから。」

なんと!
ルルはキャバ嬢だったのか!

わたし達は一度落ち着くために服を着なおしたルルと、
部屋に置かれた椅子に小さめなテーブルを挟んで向かい合っている。
俯いていたルルがわたしを見る。

「あんたも前世の記憶があるんでしょう?」

だからこの姿が着ぐるみだとかコスプレだとかってわかったんでしょ?と。
ルルが聞く。

「……ええ。あるわ。」

「そう…。いいわね、あんたは。普通の人間で。」

「ルル…」

わたしは転生して初めて記憶持ちの仲間と出逢えた喜びと、その仲間が自分の姿に苦悩している姿に感じる罪悪感とで
何を言えばいいのかわからなくて黙り込んだ。

「いいわよ、そんな顔しなくて。思い出すまではこの姿も気に入ってたし充分楽しんでたんだから。」

わたしはどんな顔をしていたのだろうか。
けれどそんな風にわざと明るく言ってくれるルルは、とても優しい子なのではないかと思った。

「信じられる?両親は普通の人間なのよ。」

「遺伝子おかしくないそれ?!」

ルルはテーブルに肘をつき、ふてくされたような表情でわたしを睨み。

「知らないわよ。そんな細かいまでしてないんじゃない。攻略簡単だったもの、このゲーム」
しおりを挟む
感想 630

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

え?私?乙ゲーのモブですよ?だから来ないで!!

ツカ
恋愛
私は、とある乙ゲーのモブになってしまったようです。いわゆるトリップですね。 もう一度言います。モブです。モブなんです。 なので、超絶可愛い天然ヒロインなどではないんです。 性格も良い方ではありませんし、可愛くだってないんです。並です。普通です。 なので、男はヒロインちゃんに群がれば良いんです。ヒロインの逆ハーを作れば良いんです。 なんで私のことろへ来るんですか!?!?

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

悪役令嬢は頑張らない 〜破滅フラグしかない悪役令嬢になりましたが、まぁなるようになるでしょう〜

弥生 真由
恋愛
 料理が好きでのんびり屋。何をするにもマイペース。そんな良くも悪くも揺らがない少女、 陽菜は親友と共に事故にあい、次に目覚めたら乙女ゲームの悪役令嬢になっていた。  この悪役令嬢、ふわふわの銀髪に瑠璃色の垂れ目で天使と見紛う美少女だが中身がまぁとんでも無い悪女で、どのキャラのシナリオでも大罪を犯してもれなくこの世からご退場となる典型的なやられ役であった。  そんな絶望的な未来を前に、陽菜はひと言。 「お腹が空きましたねぇ」  腹が減っては生きてはいけぬ。逆にお腹がいっぱいならば、まぁ大抵のことはなんとかなるさ。大丈夫。  生まれ変わろうがその転生先が悪役令嬢だろうが、陽菜のすることは変わらない。  シナリオ改変?婚約回避?そんなことには興味なし。転生悪役令嬢は、今日もご飯を作ります。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

処理中です...