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本編
第9話「悪役令嬢青着ぐるみの噂」
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学院に登校すると、アレク殿下とエイレーン様の婚約解消の話題でもちきりだった。
殿下、本当に婚約解消を申し出たんだ…。
噂によれば、殿下はこれまでの行いを反省しエイレーン様に謝罪したのだとか。皇帝陛下からも公爵家に謝罪があり、お2人の婚約は円満に解消されたということだ。
全てはアレク皇子殿下の非であり、エイレーン様に非はないこと、エイレーン様の今後の良縁に影響がないようにということで経緯を公表することになったらしい。
エイレーン様はそれでいいのかな…?
殿下はけじめだとおっしゃっていたけれど、エイレーン様は殿下に思うところはないのだろうか。もしもエイレーン様が本気で殿下を想っていたのなら、解消ではなく継続を望んでいたのではないだろうか。
まあ、あんなことがあったのだから一度関係を解消した後で、それでもお2人が望むのならもう一度新しい関係を始めるのもいいかもしれない。今度は陛下が決めるのではなく、お2人の意思で、相思相愛の婚約をすればいいんじゃないかなとも思う。
エイレーン様を心配した令嬢達がエイレーン様を見舞ったらしいけれど、その彼女達の話によればエイレーン様は悲しむことなくすっきりした様子だったということだし、うん、これでよかったのかな。
はて、ならばこれにてキャラクターショーは終了?一見落着?だって婚約がなくなったら卒業式での断罪イベントもなくなるよね?
「そういえば階段落ちの件はどうなったんだろう…?」
ルル嬢がどうしてるかも聞こえてこない。
などと。
呑気に無関係を装っていたところに、
不穏な噂が聞こえ始めてきたのは
その、午後のことだった。
昼休みのランチを、仲良くレイチェル様と食堂でとっていた。
「今日のデザートは美味しゅうございましたわね」
「ええ、食事を少し少なめにして正解でした」
食後のお茶を飲みながら、美味しかったデザートの話でレイチェル様とのほほんと微笑みあっていると
食堂の雰囲気に異変を感じた。
実はわたしが気づいたのがやっとその頃だったというだけでお昼前から始まっていたようなのだけど、呑気なわたしが気づいたのがお昼を食べ終わってからだったのだ。
「レイチェル様…皆様、やけに騒いでません?」
「そういえば…皆様何事か囁きあってますわね。エイレーン様のことを…おっしゃっているように聞こえたのですが………」
「婚約を解消したことでしょうか?」
レイチェル様が首をかしげる。
「それにしては空気が不穏ですわ」
「やっぱりレイチェル様もそう思います?」
そこかしこの席で生徒達が耳を寄せ合い、頷きあい、驚いた様子を見せたり憤ってみたり。皆から伝わってくる空気は困惑と驚き、そして怒りのようなもの。中には険悪な空気まで混じっている。どうも何か新しい噂話が蔓延しつつあるように思える。
「ユーリア様とレイチェル様はお聞きになりました?」
わたし達の困惑に気づいてくれた令嬢が教えてくれたことでようやく、わたしもその正体を知った。
「エイレーン様が?!」
レイチェル様が驚きの声をあげた。
「シッ!声が大きいですわ、レイチェル様」
「申し訳ありません…」
「それは本当なのですの?」
教えてくれたのは同級生のエミリ様。子爵家のご令嬢である。わたしと同じ栗色の髪を頭上の高い位置で結っている活動的なイメージを受ける少女だ。
「見た生徒がいるという噂ですわ」
「ですが」
「わたくしもエイレーン様がそのようなことをするなど信じられませんわ。ですけど、事件が起こったのは殿下とエイレーン様が婚約を解消なさる前。殿下はサンチェ子爵令嬢にご執心でしたから婚約者だったエイレーン様が嫉妬してという理由はあります。」
「それでも…いいえ、だとしてもエイレーン様のお立場になれば致し方のないことではないですか?」
レイチェル様は眉間に皺をよせ、厳しい顔でエミリ様と真剣に話している。
「もちろんわたくしもそう思いますわ。わたくしだって、エイレーン様と同じ立場なら…同じことをしたかもしれません」
「ならば」
「ですがそれが発覚したから、エイレーン様と殿下の婚約は解消されたと考えれば辻褄が合いますでしょう?」
「確かに……アレク殿下は言動を改められておりますけど少し前まではいつもサンチェ子爵令嬢の傍におられましたものね……」
「近頃では殿下方は以前のように生徒会室でお仕事に励んでおられますけれど、それもその事件の調査のためだと聞きましたわ。」
「まさか……いくら憎い恋敵といえどエイレーン様がサンチェ子爵令嬢を階段から突き落とすなんて…」
「その子爵令嬢は、階段から落ちて怪我はしましたの?」
「え?」
「ユーリア様?」
わたしはなるべく不自然にならないように、遠慮がちな微笑みを浮かべて会話に混じった。
「いえ。ご婚約の解消までするほどですもの。落とされたのは2.3段程度ではないのでしょう?数段なら、せいぜいが“突き飛ばされた”になるはずですし。もしも一番上から下までなら……今頃そのご令嬢は見てわかるほどの怪我をされてるはずですわよね?」
あの時はそうは見えなかったけど。
あのシーンを見ていたのはてっきりわたしだけだと思っていたけど。気づかなかっただけで他にもいたみたいだ。でも、あれを見てエイレーン様が突き落としたってなる??
絶対あれはルル嬢が急に「わたし!今なら飛べる気がする!!」的に目覚めて本当に飛んじゃったんだと思うけどなぁ。
あの後わたしは保健室に行ったけどルル嬢は来なかった。着ぐるみがクッションになって怪我もしなかったのかも。
「包帯は…しているように見えませんでしたけれど…」
「ミラ様に慰められてるのはわたくし見ましたわ」
ミラ様か。
うーん、殿下もシルヴィ様もまだ目を覚めさせられてないみたいね。レイトン様が殿下達と話をして納得すればミラ様も説得できるだろうとおっしゃってたけど。
その前にこんな騒ぎになるなんて。
「エイレーン様はなんとおっしゃっているのですか?」
エミリ様に尋ねる。
「もちろん否定なさっていましたわ。ルル嬢が勝手に落ちたのだと。」
うん、その通りだね。
「ならばわたくしはエイレーン様を信じます。」
というかエイレーン様が正しい。ルル嬢は嘘を言っている。
わたしは見てたもん!
「わ、わたくしもですわ!」
「ええ、もちろんですとも」
それにしても違和感。
ルル嬢に反感を持ってた生徒の方が多いのに、この噂をしてる生徒達の様子を見てると半信半疑よりもエイレーン様を疑う雰囲気の方が多いような…
何故だろう?
「その、目撃者って誰ですの?」
「それが……」
エミリ様は非常に言いにくそうに
気まずそうに
「エミリ様?」
「…………………ミラ様、なのですわ……」
と言ったのだった。
殿下、本当に婚約解消を申し出たんだ…。
噂によれば、殿下はこれまでの行いを反省しエイレーン様に謝罪したのだとか。皇帝陛下からも公爵家に謝罪があり、お2人の婚約は円満に解消されたということだ。
全てはアレク皇子殿下の非であり、エイレーン様に非はないこと、エイレーン様の今後の良縁に影響がないようにということで経緯を公表することになったらしい。
エイレーン様はそれでいいのかな…?
殿下はけじめだとおっしゃっていたけれど、エイレーン様は殿下に思うところはないのだろうか。もしもエイレーン様が本気で殿下を想っていたのなら、解消ではなく継続を望んでいたのではないだろうか。
まあ、あんなことがあったのだから一度関係を解消した後で、それでもお2人が望むのならもう一度新しい関係を始めるのもいいかもしれない。今度は陛下が決めるのではなく、お2人の意思で、相思相愛の婚約をすればいいんじゃないかなとも思う。
エイレーン様を心配した令嬢達がエイレーン様を見舞ったらしいけれど、その彼女達の話によればエイレーン様は悲しむことなくすっきりした様子だったということだし、うん、これでよかったのかな。
はて、ならばこれにてキャラクターショーは終了?一見落着?だって婚約がなくなったら卒業式での断罪イベントもなくなるよね?
「そういえば階段落ちの件はどうなったんだろう…?」
ルル嬢がどうしてるかも聞こえてこない。
などと。
呑気に無関係を装っていたところに、
不穏な噂が聞こえ始めてきたのは
その、午後のことだった。
昼休みのランチを、仲良くレイチェル様と食堂でとっていた。
「今日のデザートは美味しゅうございましたわね」
「ええ、食事を少し少なめにして正解でした」
食後のお茶を飲みながら、美味しかったデザートの話でレイチェル様とのほほんと微笑みあっていると
食堂の雰囲気に異変を感じた。
実はわたしが気づいたのがやっとその頃だったというだけでお昼前から始まっていたようなのだけど、呑気なわたしが気づいたのがお昼を食べ終わってからだったのだ。
「レイチェル様…皆様、やけに騒いでません?」
「そういえば…皆様何事か囁きあってますわね。エイレーン様のことを…おっしゃっているように聞こえたのですが………」
「婚約を解消したことでしょうか?」
レイチェル様が首をかしげる。
「それにしては空気が不穏ですわ」
「やっぱりレイチェル様もそう思います?」
そこかしこの席で生徒達が耳を寄せ合い、頷きあい、驚いた様子を見せたり憤ってみたり。皆から伝わってくる空気は困惑と驚き、そして怒りのようなもの。中には険悪な空気まで混じっている。どうも何か新しい噂話が蔓延しつつあるように思える。
「ユーリア様とレイチェル様はお聞きになりました?」
わたし達の困惑に気づいてくれた令嬢が教えてくれたことでようやく、わたしもその正体を知った。
「エイレーン様が?!」
レイチェル様が驚きの声をあげた。
「シッ!声が大きいですわ、レイチェル様」
「申し訳ありません…」
「それは本当なのですの?」
教えてくれたのは同級生のエミリ様。子爵家のご令嬢である。わたしと同じ栗色の髪を頭上の高い位置で結っている活動的なイメージを受ける少女だ。
「見た生徒がいるという噂ですわ」
「ですが」
「わたくしもエイレーン様がそのようなことをするなど信じられませんわ。ですけど、事件が起こったのは殿下とエイレーン様が婚約を解消なさる前。殿下はサンチェ子爵令嬢にご執心でしたから婚約者だったエイレーン様が嫉妬してという理由はあります。」
「それでも…いいえ、だとしてもエイレーン様のお立場になれば致し方のないことではないですか?」
レイチェル様は眉間に皺をよせ、厳しい顔でエミリ様と真剣に話している。
「もちろんわたくしもそう思いますわ。わたくしだって、エイレーン様と同じ立場なら…同じことをしたかもしれません」
「ならば」
「ですがそれが発覚したから、エイレーン様と殿下の婚約は解消されたと考えれば辻褄が合いますでしょう?」
「確かに……アレク殿下は言動を改められておりますけど少し前まではいつもサンチェ子爵令嬢の傍におられましたものね……」
「近頃では殿下方は以前のように生徒会室でお仕事に励んでおられますけれど、それもその事件の調査のためだと聞きましたわ。」
「まさか……いくら憎い恋敵といえどエイレーン様がサンチェ子爵令嬢を階段から突き落とすなんて…」
「その子爵令嬢は、階段から落ちて怪我はしましたの?」
「え?」
「ユーリア様?」
わたしはなるべく不自然にならないように、遠慮がちな微笑みを浮かべて会話に混じった。
「いえ。ご婚約の解消までするほどですもの。落とされたのは2.3段程度ではないのでしょう?数段なら、せいぜいが“突き飛ばされた”になるはずですし。もしも一番上から下までなら……今頃そのご令嬢は見てわかるほどの怪我をされてるはずですわよね?」
あの時はそうは見えなかったけど。
あのシーンを見ていたのはてっきりわたしだけだと思っていたけど。気づかなかっただけで他にもいたみたいだ。でも、あれを見てエイレーン様が突き落としたってなる??
絶対あれはルル嬢が急に「わたし!今なら飛べる気がする!!」的に目覚めて本当に飛んじゃったんだと思うけどなぁ。
あの後わたしは保健室に行ったけどルル嬢は来なかった。着ぐるみがクッションになって怪我もしなかったのかも。
「包帯は…しているように見えませんでしたけれど…」
「ミラ様に慰められてるのはわたくし見ましたわ」
ミラ様か。
うーん、殿下もシルヴィ様もまだ目を覚めさせられてないみたいね。レイトン様が殿下達と話をして納得すればミラ様も説得できるだろうとおっしゃってたけど。
その前にこんな騒ぎになるなんて。
「エイレーン様はなんとおっしゃっているのですか?」
エミリ様に尋ねる。
「もちろん否定なさっていましたわ。ルル嬢が勝手に落ちたのだと。」
うん、その通りだね。
「ならばわたくしはエイレーン様を信じます。」
というかエイレーン様が正しい。ルル嬢は嘘を言っている。
わたしは見てたもん!
「わ、わたくしもですわ!」
「ええ、もちろんですとも」
それにしても違和感。
ルル嬢に反感を持ってた生徒の方が多いのに、この噂をしてる生徒達の様子を見てると半信半疑よりもエイレーン様を疑う雰囲気の方が多いような…
何故だろう?
「その、目撃者って誰ですの?」
「それが……」
エミリ様は非常に言いにくそうに
気まずそうに
「エミリ様?」
「…………………ミラ様、なのですわ……」
と言ったのだった。
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