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🐾消えたアイツらを探して🐾
🐾8 セネカ村へ向けて出発
しおりを挟むラルクとルピナスに見送られて、街を出る。
「ウル、必ず帰ってきてね?」
「心配性だなぁ。今生の別れじゃあるまいし。ルピナスは、配達はいいの?」
「大丈夫よ。朝の内に届けなきゃいけないところはみんな終わってるよ。次は夕方までに廻ればいいもの」
「そう? ならいいけど」
一人前なようでも亜成獣。
懐いている僕が数日離れるのが寂しいのかもしれない。
「まあ、なんだ、いつもの通り、落ち着いて行けや」
「うん、ありがとう」
必要な物はいつでもポケットに入っているけれど、不自然にならない程度に、物を詰めて背嚢を背負っている。
城砦都市のようにはっきりと城壁がある街ではないので、門番が立っていることもない。
生活圏と林や街道沿いの草原との境目に、自警団の詰め所が点在しているだけなので、生活圏から大通りを抜けて街道を通って国境へ向かう。
ここからなら、ロスクラリスに習った強化魔法を使えば、一日か遅くても明日の内に着くだろう。
見送りの二人の姿が見えなくなる頃、後ろから声をかけられた。
「待ってくれないか、君、狩人のウルトル君だろう?」
「どちら様ですか?」
知らない顔のように思えるけど⋯⋯
〔うん。君の記憶にはない顔だね〕
年の頃は30前後かな、犬の耳と尻尾が生えているけど基本人間に見える男性。イヌ目の半人だ。
大きなリュックを背負って、登山家のような厚手のネルのシャツと草原大鼠の皮のズボンを穿いている。靴も鎧トカゲの皮のしっかりしたものだ。
「聞いたんだけど君、セネカ村の方へ行くんだって?」
「ええ。討伐依頼を受けたので」
「僕も一緒に行ってもいいかな?」
「依頼を、デュオを組んで受けるって事ですか?」
「ああ、いや、そうじゃないよ。セネカ村の手前、ハムラ市まで商用で行くんだけど、道中の護衛を探してたんだ」
彼の名はパピルス。山犬族の半人で、足は達者だけど、戦闘は苦手なのだそうだ。
本能で、逃げる小動物を捕まえたりは得意なので食用肉の確保には困らないらしいけど、気が弱くて、魔物との戦いはからっきしだとか。
各地の特産品を仕入れて別の町で売り、またその土地の特産品を仕入れて更に別の町で売る。
そうやって近隣国を廻る行商人をしているらしい。
「ハムラ市の特産物クコルクの実を仕入れに行くんだけど、ついでに、道中立ち寄る街の住人への手紙なんかも預かっててね、僕一人で旅をして、戦闘できないんだから僕は魔物にやられても仕方ないとは思ってるんだけど、預かった手紙や贈り物はちゃんと届けたいとも思ってるんだ」
専門の配達業者に頼むと、手数料、必要経費──国境を越える場合その交通費の他に入国税と魔物や盗賊に襲われる危険手当──などが取られて、自分で行く場合と変わらないかそれ以上にお金がかかる事もあるのだ。
だから、庶民はこうして馴染みの行商人に頼むことが多い。
「馬車を使ったり商隊を組んだりしないんですか?」
「まあね。商隊を組むのも善し悪しでね。
国境を越える時の手続きが楽になったり、魔物に対して護衛を雇って纏まって移動することで安全も確保しやすいけど、その分却って盗賊団に狙われたり、内部の策略に嵌まって財産を掠め取られたり、何かと個人行商は他人と行動を共にするのはリスクがある場合もあるんだよ」
う~ん。魔物に襲われる危険性や入国税の軽減や手続きの簡易化よりも、盗賊や悪徳業者の裏切りなどの人の悪意の回避の方を取るのか。
まあ、十年間暮らしたパーティの人間に裏切られた(当初のメンバーからは総入れ替え済みだけど)僕としては笑えない案件だ。
「事情は解りました。ですが、知らない人間である僕が、貴方の財産を持ち逃げしたり、騙して借金を背負わせたり、魔物が出ても見捨てたりするとは思わないんですか?」
「そうやって訊く奴はやらないと思ってるよ」
「⋯⋯⋯⋯」
パピルスは、苦笑いで肩をすくめる。
「実は、信頼できる護衛を雇おうかと思って、勇気を出して探索者協会に行ったら、ちょうどそっち方面に行く、信頼できる狩人が居るから、今からなら追いつけると言われたんだ」
そう言って手渡されたのは、探索者協会認定印の押された依頼書で、アマリアさん直筆の紹介状までついていた。
『ウルトルさん、ごめんなさいね? こちらの方は、うちの協会でも馴染みのお得意さんで、行商人のパピルスさん。同じ方角へ行く、協会の推薦探索者と同行するのが習慣なの。
下手な探索者パーティや商隊を紹介するより、貴方の方が信頼できると協会会長が判断しての事なのよ。
事後承諾で悪いけど、お願いするわね』
これ、絶対昨日依頼を受けた時点で、僕に重複受注させる気だったでしょう? こんな都合よく、同じ方向の商人が居るかな、こんな小さな街に。
『追伸 戻ったら、特別手当を出すわ。張り切って護衛してね? アマリア』
いや、僕、護衛依頼は受けたことないんだけど。注意点とかルールとか知らないよ。
「そういう事だから、ハムラ市までよろしくね」
山犬族の青年は、爽やかに微笑んだ。
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