上 下
30 / 49
第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です

28 講習の連れの三人組

しおりを挟む
     ⚔️

 とりあえず、俺だけ新顔と言うことで、自己紹介をする。

「えっと、急に講習に割り込んですみません。常磐詠哉ときわせいやと言います。トキワが家名で、セイヤが名前です。好きな方で読んでください」
「俺はキルケ。(鷹(古希)の意) 一応、剣を使った戦士系の職に就きたいと思っている」
「僕はレェーヴ(狐(瑞典)の意) 。握力腕力があんまりないので、打撃武器は苦手でとりあえず剣を提げてますが、これもあまり当てにならないです。動植物の生態環境を調べたりしていきたいです」
「わたしはシュカ・ (西黒丸烏(仏)の意)シエルと言い(天空(仏)天国(西)の意) ます。魔法を活かした仕事に就きたいと思っています」

 名前。これまた、笑いそうになるのを必死で堪える。
 自動翻訳機能、どうなってんの。俺を笑わせに来てんの?

 鷹に狐に烏。サバイバル教官が子供達を引き連れて、西遊記や桃太郎みたいなイメージが湧いてくる。もちろん、口には出さないけど。

 三人とも同じ町の出身で、男子ふたりに名字がないのは平民だから。
 平民は家名は特になくて名前しか名乗らず、個人を特定するときは、親の名前と出身地の領地名か町の名を連ねるらしい。
 俺だったら、『詠哉かねなり周成かねなり嚴造かねなり川西かわにし(or兵庫)』で、かなりクドい名前になるなぁ。

 まあ、それはともかく。サバイバル教官ラーガーさんの引率で、街の外に講習──というよりは実習?に出掛けることになった。

 手荷物検査というか、確認。

 みんな、キャンプで持っていきそうな道具っぽいものを三人で手分けして持っていた。

「大きな道具なんかは手分けして持ち合うのはわかるが、ちょっとした必須アイテムは各自持った方がいいぞ? 山や森で仲間と逸れた時に、あれは誰か持ってたこれは持ってるけどあれがないと使えないなんて事がないだろう」

 なるほどなー。俺は、元々持ってたタンブラーとタオル、火付け石とてのひらサイズの七輪みたいな焜炉コンロ、それに合うサイズの携帯鍋を鞄に入れてきたけど、他は何にもない。
 実は全財産とも言う。

「皿は大きな葉っぱを折って代用できるし、寝袋はいざという時に面倒くさいから毛布とか上着でいいかなって⋯⋯」

 そもそも、野外活動の初心者向け講習としか聞いてなかったから、街の外に泊まる用意は頭になかったな。

「確かに。代用できるなら、荷物は可能な限り少ない方がいいだろう」

 歩きながら、彼らに聞いた話では、2日前に座学を終えて、昨日は準備期間、本日実習という事だった。

 そこに、初級の魔法の講師を兼ねられる野外活動実習という事で、俺をねじ込んだわけだ。


 街の城門を出る時、初めて自分の腰に提げた大きなドッグタグのような身分証を使うのがドキドキする。
 この街に来たときと同じ、ぶっとい眉の兵士が立っていて、いそいそと自由民株カードを見せる。

「おお、坊主、ワーテルガー様に保護してもらったそうじゃないか。よかったな。自由民協会ギルドに入ったのか。頑張れよ」

 頭を撫でられる。完全子供扱いだな。

「セイヤさん、学ぶことももちろんですが、楽しんできてくださいね」

 ルーカスさんとヨナスさんがなぜか見送りに来てくれていた。
 さっき詰め所で送ってくれたばかりやん。

「これを渡しておこうかと思いまして」

 ハガキサイズの紙を綴じた束と、風呂敷みたいなものを手渡される。風呂敷は、素材が革なのか布なのかよく解らない。

「筆記具を持っているのに、書き付けるものがなくては勉強が捗らないでしょう。どうぞ、使ってください」
「ああ。昨日の騒ぎでそう言ったものを買うの忘れてました」
「だと思いましたよ」

 有り難く受け取って、上着のポケットにしまった。
 細い紐で和綴じふうの綴じ方。手縫いなんだろうな。

 警備隊の兵士も、ルーカスさんヨナスさんも、にこやかに送り出してくれた。


 道中、ラーガーさんは、俺には初めて見る草を指して、傷口の血止めになるとか、肉を煮込むのに臭み取りになるし滋養強壮効果があるとか、色々教えてくれる。

 すぐには覚えられないので、一枚千切ってルーカスさんに貰ったノートに挟み、聞いた説明を書き込む。

「基本的な薬草も知らないのか?」

 キルケが不思議そうな顔で訊いてきた。

「ああ。俺、この辺は初めてなんや」
「そう言えば、言葉、ちょっと変わってますよねぇ」

 レェーヴも頷く。

「止しなさいよ。慣れてないから初心者講習に参加するんでしょう? 私達と一緒よ」

 シュカが窘める。幼馴染みだというこの三人は、こういう関係性でずっと来てるんだろうな。
 

 目的地の林まで、特に問題もなく順調だった。



 ❈❈❈❈❈❈❈

キルケ(Κίρκη) 古ギリシャ語で鷹を意味する、神話に出て来る魔女のこと
レェーヴ(räv) スウェーデン語で狐のこと
シュカ(choucas) フランス語で西黒丸烏のこと
シエル(ciel) フランス語で空、スペイン語で天国のこと

主人公を笑わせるためだけに、響きのいい言葉を探して並べました<(๑¯﹀¯)>



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...