27 / 49
第3話 ユニークスキルは『守銭奴』です
25 ペットと風呂
しおりを挟む
♨️
「ただいま~!! ぷるぷる、いい子にしてたか?」
トイレ壺の蓋は、いつも開けてある。中でふるふると揺れて返事をする。
「本当に、返事をしているように見えますね」
「でしょう? やっぱり、言葉か感情かを理解してますよね」
みんなは飼わないのかな。
「飼いませんよ、スライムなんて」
「うちの弟は、一度は飼おうとしましたけど、飼育環境や餌なんかに意欲を無くしたみたいで、結局飼うのを止めたみたいでしたよ」
「それが普通だと思いますけど」
スカベンジャースライムに限らなければいいんじゃないかな。
植物を食べる種類とか、昆虫や魚や鳥なんかの肉を裂いて与えたらいいやつとか。
見た目はコイツの方が可愛いけどな。
「そこまでしてスライム飼いたいとは思わないよ」
「あ、そ。じゃ、この街の人達は、何を飼うの? 犬? 猫? 小鳥、兔かネズミ?」
「セイヤの住んでた街では、ネズミを飼うんですか?」
「ドブネズミじゃなくて、こう、丸くてシマ模様とかブチの可愛いやつね。尻尾もふさふさの愛玩動物。亀やトカゲ、昆虫や魚も多いかな。最近では、庭の雑草を食べてもらうのにヤギ買う人も話題になってたし、ミニ豚もペットとして売ってたかな」
手を丸めて合わせ、くるっと丸みを見せながら、ハムスターを手の中に隠すような仕草を見せる。
俺は、なんも飼ってなかったけど。羽根や飼育小屋のワラや砂とか、目に見えなくても落ちてるフケや毛なんかが、母さんによくないだろうから、怖くて飼えなかった。
本当は、何か飼ってみたかったけどな。
「ヤギは家畜ですね。私達の認識は。ミルクやチーズのために。最近ではヤギよりも、毛皮や羊毛、食肉などの利用価値から羊の方が多くなってますけど。豚も主に食肉用の家畜ですね。革製品にも利用されますが」
まあそうだろうな。愛玩動物を飼うのは、見た目や手触りで癒されるためであったり、子供の代わりに可愛がるためで、生活に余裕がないと飼わないだろうしな。
女神は、圧倒的に多いのは農民だと言っていた。
警備隊の人達は、農民は年収は200万₲ほどだと言っていた。
屋台で惣菜パンや焼き肉の串を買ってみたけど、1₲1円で換算すれば、物価は日本の四分の一以下だ。
電気代やガス・水道代が要らないから200万そこそこでもやっていけるのかもしれない。
そこ行くと、生活魔法は便利そうでいいな。
「生活魔法と言えば、今夜は風呂のある日?」
「ああ、セイヤさんは生活魔法がまだ使えないんでしたっけ。そうですね。今夜はあると思います」
「⋯⋯エディさんか入って済んだら呼んで」
あの人、調子よく話しながら入って来て、あちこち眺めたり、流してやるとか言ってボディタッチして来そうで怖い。
「先に入らないんですか? 彼はまだ街にいますよ?」
「不思議な感知能力で帰って来て、闖入してきそう」
「ああ。勘はいい人ですから、有り得なくはないですね。でも、勤務時間内に戻っては来ないのでは」
そうかな。取り敢えず、さっきのどさくさで着替えを買いそびれたので、下着とタオルだけ持って、ルーカスさん達と階下の風呂に向かう。
⋯⋯待てよ? 掃除やトイレをスライムに任せてたけど、まさか、風呂までスライムプールとか言わんだろうな?
「そういう医療施設もありますが、普通に湯を張りますよ」
あるんかい。スライムプール。異世界怖ぇ。ドクターフィッシュのスライム版だと思うしかないな。
SFみたいに、光で老廃物を焼く風呂とか霧や風で汚れを吹き飛ばすとか、不思議風呂じゃなくてよかった。
それでも、掃除屋として、隅っこにスライムいるかも。
ルーカスさんは日誌をつけに戻っていったけれど、ヨナスさんが一緒に入ってくれる事に。脱衣室で籠に上着やなんかを入れていくと、他の警邏隊員達が数人入ってくる。
ヨナスさんといい、この人達といい、みんな細マッチョでいい身体してんなぁ。日頃の訓練で、誰でもあんな風になるのかな。俺も参加してみようかな。
「我々の中に、他人の持ち物に手を出す奴がいるとは思いませんが、一応忠告しておきます。
この、セイヤの持ち物に手を出すと、固有能力が発動して、手首が切断されますので、絶対に触らないように。先ほど捕らえられた罪人は、その被害者でもありますので、ただの脅しではありません。忠告はしましたよ?」
ヨナスさんの忠告は、服やバッグ、財布が血塗れになるのを防ぐためにも有り難いけれど、そういう心配があるのかと思うと、ちょっと寂しくもなる。
ここは、警備隊の中でも、市民を守る警邏隊の宿舎なんだ。その中に泥棒が居るとは思いたくない。
「それは、僕も同じですよ。でも、可能性はゼロではありません。そんなつもりはなくても、いざ物を目にして、出来心が芽生えないとは限りませんから。高い志を持った志願兵ばかりではなく、仕方なく義務で入隊した兵役の若者もいますからね」
そうだね。歩いてて、偶々金が落ちてたら、拾って隠匿しちゃうってのは誰でもあるだろうし。俺も、昨日自販機の釣銭の忘れ物の30円を自分の物にしようとして、追いかけてトラックとぶつかってここに来る事になったしな。
麻の服は皺になるかもと、丁寧にたたみ、いざパンツを下ろそうとした時。
「セイヤ!! この国の風呂は慣れないだろ? まだ魔法も使えない事だし、俺が身体洗ってあげるよぉ」
驚いた。マジで驚いた。
本当に、エディさんが飛び込んできたのだ。
ヨナスさんの指示で、半裸の警邏隊員達に抱えられて、外に出されるエディさん。
ヨナスさんも入隊して一年の新入りだけど、ルーカスさんの従騎士として就きながら資格を取って、中間管理職の下っ端の権利はあるそうだ。偉いなぁ。兵役任期が終わっても、このまま警備隊に残りたいと言ってたしな。
人生設計がしっかりしてるんだな。
エディさんが闖入して来るという騒動はあったけど、気を取り直して風呂に入る。
ここにはシャワーはなかった。手桶で掛け湯をするか、魔法で水を浴びるかだそうで。
当然、俺は手桶派。
隊員が複数人で入るための大浴場で、流し場も浴槽も広く、岩を並べた縁からゆっくり入って、二歩目で沈んだ。頭まで。
ビックリしたわ。まさか、あんな深いとは。
「セイヤ、ごめん、言うの忘れてた。あっちの、窓際が浅いんです。湯の色と光の屈折で深さが判りにくいですけど。セイヤの身長じゃ危険でした。すみません。慣れないセイヤのために一緒に入った意味がありませんでした」
凄く恐縮して謝り倒してくれる。
「い、いいよ、凄いビックリしたけど、泳げるから慌てなければ大丈夫だから」
窓際は、奥がより浅く、座っても半身浴レベルで、手前も一段あって底は座ったら首まで浸かる程度。
窓の外は庭で、植え込みの向こうで木刀を振る隊員が見えた。その向こうに夕陽も。
慌ただしい一日が、気持ちいい風呂と夕陽で締め括られる。
人の手首が落ちる騒動もあったけど、まあまあ、いい一日だったな。
その後、地を這うような男の悲鳴でみんなが脱衣場に出てみると、手首が切断された男が血を流しながら転げ回っているという騒ぎがあったけど。
そのおかげで、駆けつけたエディさんに舐めるような目で裸見られて泣きそうになったのも付け加えとく。
「ただいま~!! ぷるぷる、いい子にしてたか?」
トイレ壺の蓋は、いつも開けてある。中でふるふると揺れて返事をする。
「本当に、返事をしているように見えますね」
「でしょう? やっぱり、言葉か感情かを理解してますよね」
みんなは飼わないのかな。
「飼いませんよ、スライムなんて」
「うちの弟は、一度は飼おうとしましたけど、飼育環境や餌なんかに意欲を無くしたみたいで、結局飼うのを止めたみたいでしたよ」
「それが普通だと思いますけど」
スカベンジャースライムに限らなければいいんじゃないかな。
植物を食べる種類とか、昆虫や魚や鳥なんかの肉を裂いて与えたらいいやつとか。
見た目はコイツの方が可愛いけどな。
「そこまでしてスライム飼いたいとは思わないよ」
「あ、そ。じゃ、この街の人達は、何を飼うの? 犬? 猫? 小鳥、兔かネズミ?」
「セイヤの住んでた街では、ネズミを飼うんですか?」
「ドブネズミじゃなくて、こう、丸くてシマ模様とかブチの可愛いやつね。尻尾もふさふさの愛玩動物。亀やトカゲ、昆虫や魚も多いかな。最近では、庭の雑草を食べてもらうのにヤギ買う人も話題になってたし、ミニ豚もペットとして売ってたかな」
手を丸めて合わせ、くるっと丸みを見せながら、ハムスターを手の中に隠すような仕草を見せる。
俺は、なんも飼ってなかったけど。羽根や飼育小屋のワラや砂とか、目に見えなくても落ちてるフケや毛なんかが、母さんによくないだろうから、怖くて飼えなかった。
本当は、何か飼ってみたかったけどな。
「ヤギは家畜ですね。私達の認識は。ミルクやチーズのために。最近ではヤギよりも、毛皮や羊毛、食肉などの利用価値から羊の方が多くなってますけど。豚も主に食肉用の家畜ですね。革製品にも利用されますが」
まあそうだろうな。愛玩動物を飼うのは、見た目や手触りで癒されるためであったり、子供の代わりに可愛がるためで、生活に余裕がないと飼わないだろうしな。
女神は、圧倒的に多いのは農民だと言っていた。
警備隊の人達は、農民は年収は200万₲ほどだと言っていた。
屋台で惣菜パンや焼き肉の串を買ってみたけど、1₲1円で換算すれば、物価は日本の四分の一以下だ。
電気代やガス・水道代が要らないから200万そこそこでもやっていけるのかもしれない。
そこ行くと、生活魔法は便利そうでいいな。
「生活魔法と言えば、今夜は風呂のある日?」
「ああ、セイヤさんは生活魔法がまだ使えないんでしたっけ。そうですね。今夜はあると思います」
「⋯⋯エディさんか入って済んだら呼んで」
あの人、調子よく話しながら入って来て、あちこち眺めたり、流してやるとか言ってボディタッチして来そうで怖い。
「先に入らないんですか? 彼はまだ街にいますよ?」
「不思議な感知能力で帰って来て、闖入してきそう」
「ああ。勘はいい人ですから、有り得なくはないですね。でも、勤務時間内に戻っては来ないのでは」
そうかな。取り敢えず、さっきのどさくさで着替えを買いそびれたので、下着とタオルだけ持って、ルーカスさん達と階下の風呂に向かう。
⋯⋯待てよ? 掃除やトイレをスライムに任せてたけど、まさか、風呂までスライムプールとか言わんだろうな?
「そういう医療施設もありますが、普通に湯を張りますよ」
あるんかい。スライムプール。異世界怖ぇ。ドクターフィッシュのスライム版だと思うしかないな。
SFみたいに、光で老廃物を焼く風呂とか霧や風で汚れを吹き飛ばすとか、不思議風呂じゃなくてよかった。
それでも、掃除屋として、隅っこにスライムいるかも。
ルーカスさんは日誌をつけに戻っていったけれど、ヨナスさんが一緒に入ってくれる事に。脱衣室で籠に上着やなんかを入れていくと、他の警邏隊員達が数人入ってくる。
ヨナスさんといい、この人達といい、みんな細マッチョでいい身体してんなぁ。日頃の訓練で、誰でもあんな風になるのかな。俺も参加してみようかな。
「我々の中に、他人の持ち物に手を出す奴がいるとは思いませんが、一応忠告しておきます。
この、セイヤの持ち物に手を出すと、固有能力が発動して、手首が切断されますので、絶対に触らないように。先ほど捕らえられた罪人は、その被害者でもありますので、ただの脅しではありません。忠告はしましたよ?」
ヨナスさんの忠告は、服やバッグ、財布が血塗れになるのを防ぐためにも有り難いけれど、そういう心配があるのかと思うと、ちょっと寂しくもなる。
ここは、警備隊の中でも、市民を守る警邏隊の宿舎なんだ。その中に泥棒が居るとは思いたくない。
「それは、僕も同じですよ。でも、可能性はゼロではありません。そんなつもりはなくても、いざ物を目にして、出来心が芽生えないとは限りませんから。高い志を持った志願兵ばかりではなく、仕方なく義務で入隊した兵役の若者もいますからね」
そうだね。歩いてて、偶々金が落ちてたら、拾って隠匿しちゃうってのは誰でもあるだろうし。俺も、昨日自販機の釣銭の忘れ物の30円を自分の物にしようとして、追いかけてトラックとぶつかってここに来る事になったしな。
麻の服は皺になるかもと、丁寧にたたみ、いざパンツを下ろそうとした時。
「セイヤ!! この国の風呂は慣れないだろ? まだ魔法も使えない事だし、俺が身体洗ってあげるよぉ」
驚いた。マジで驚いた。
本当に、エディさんが飛び込んできたのだ。
ヨナスさんの指示で、半裸の警邏隊員達に抱えられて、外に出されるエディさん。
ヨナスさんも入隊して一年の新入りだけど、ルーカスさんの従騎士として就きながら資格を取って、中間管理職の下っ端の権利はあるそうだ。偉いなぁ。兵役任期が終わっても、このまま警備隊に残りたいと言ってたしな。
人生設計がしっかりしてるんだな。
エディさんが闖入して来るという騒動はあったけど、気を取り直して風呂に入る。
ここにはシャワーはなかった。手桶で掛け湯をするか、魔法で水を浴びるかだそうで。
当然、俺は手桶派。
隊員が複数人で入るための大浴場で、流し場も浴槽も広く、岩を並べた縁からゆっくり入って、二歩目で沈んだ。頭まで。
ビックリしたわ。まさか、あんな深いとは。
「セイヤ、ごめん、言うの忘れてた。あっちの、窓際が浅いんです。湯の色と光の屈折で深さが判りにくいですけど。セイヤの身長じゃ危険でした。すみません。慣れないセイヤのために一緒に入った意味がありませんでした」
凄く恐縮して謝り倒してくれる。
「い、いいよ、凄いビックリしたけど、泳げるから慌てなければ大丈夫だから」
窓際は、奥がより浅く、座っても半身浴レベルで、手前も一段あって底は座ったら首まで浸かる程度。
窓の外は庭で、植え込みの向こうで木刀を振る隊員が見えた。その向こうに夕陽も。
慌ただしい一日が、気持ちいい風呂と夕陽で締め括られる。
人の手首が落ちる騒動もあったけど、まあまあ、いい一日だったな。
その後、地を這うような男の悲鳴でみんなが脱衣場に出てみると、手首が切断された男が血を流しながら転げ回っているという騒ぎがあったけど。
そのおかげで、駆けつけたエディさんに舐めるような目で裸見られて泣きそうになったのも付け加えとく。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる