月がきれいだった

ピコっぴ

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月がきれいだった

30.階段を下りようとして、危うく転がり落ちるところだった。

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 階段を下りようとして、ふくはぎはともかく太股に体重が掛かったときフラッとして、危うく転がり落ちるところだった。
 だいぶ、足の筋力萎えてるなぁ。

 神事(なのかな)の前の潔斎中のためか、周りに男性は居らず、白いトーガ風の衣装の上から鞣した革鎧を身につけていた女性ビルダーがサッと寄って来て支えてくれる。
 たぶん、この祭事に拘わる護衛とか式典関係者なんだろう。細身なのに私を支える腕は力強い女性ひとだった。

「御身に触れる無礼をお許しください。祭事が終わるか主祭様のお言葉を賜るまで男性が近づくことはなりませんので、不肖わたくしキャラウェイが、このまま祭場までお連れ致します」

 この細マッチョな女性はキャラウェイさんと言うらしい。訊くと、普段はとあるお家に仕える騎士だけど、周に二日、神殿に出向して奉仕する下位の聖職者でもあるのだとか。
 神官騎士とか聖騎士とかいうカッコいいやつかな?


「主祭様って? 誰? 神主さんとか大司教とか、僧侶の偉い人?」
「いいえ。此度の祭事にて祀られる主祭様のお言葉を賜るのはアカネ様で、神官長は男性ですので祭場には入れず、官長はかんちょう 主祭様をお迎えするのをお手伝いするだけにございます」

 微妙に答えになってない気もするけど、そこは私の知識と語彙力が反映される訳ソフトの問題かな。 ※(言語疏通魔道具のピアス)

 先頭を歩く自由の女神像の官長さかんちょう んは、その主祭様とやらをお迎えするのを手伝うだけで、祭事のキモは私らしい。
 官長さかんちょう んは、階段を転がり落ちるところだった私を鈍臭いと思ったのか、面倒なものを見る目で見ていたけれど、キャラウェイさんがお姫様抱っこで抱え上げたのを見て何も言わずに前に向き直った。

「えっ、うわわ、待って、まさかのお姫様抱っこ!? うゎ恥ずかしぃよ。肩車は論外だけど、おんぶとかお父さん抱っこの方がまだまし」
「アカネ様。その『お父さん抱っこ』とは?」
「こう、片腕に座らせるように斜めに片腕で子供を支えて、お父さんが縦向きに抱え上げて歩いてたりするでしょう? 初日にュエインが運んでくれたみたいな」

 ホントは、それ以降も、秘密のデートで縦抱きで歩いてるけどね。秘密だからね。

「──ああ、こうですか?」

 キャラウェイさんは、私の太股裏に当ててた右腕をちょっと動かすだけで、私の身体を自分の胸に押しつけるようにして、背中を支えていた左手はそのまま添えるだけで、縦抱きにしてしまった。

「あ、やっ、そっ、そうですけど! 私、子供じゃないですから、重いですよ、言っただけですから気にしないでください」

 なぜか言ったこっちが焦る。まさか、女性なのに、強力自慢な見た目じゃないのに、本当に、片手で縦抱きにしちゃうなんて思わないでしょ?

「この鎧には、複数の咒紋が施されておりまして。防御力を上げるもの、俊敏さを上げるものなどと共に、魔力と筋力を底上げするものも付与されております。成人前の女性なら、片腕でも軽いものです。お怪我をされてはおつらいでしょう、どうか、このキャラウェイめにお任せください」

 これも、この女性ひとの仕事なんだと自分に言い聞かせて、小さい声で「よろしくお願いします」とだけ返して、恥ずかしいので顔を俯かせる。

 少し、悪い感じではなく、子供を見守るような雰囲気で、キャラウェイさんが笑った気がした。


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