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月がきれいだった
26.そろそろ、今日の秘密のデートは終わり
しおりを挟む確かに、胸やお尻を触ったりしないし、抱きついたりイヤラシイ下ネタを言って聞かせたりはしないよ。
でも、一日一回のホッペチューかデコチュを強請るし、髪を掬い上げて匂いを嗅いだり口づけたりする。
今も、こちらがイタズラのつもりで教えたマオリ族のホンギ(鼻と鼻を擦り合わせる)を何度も繰り返して楽しんでいる。
「ほ、ホントは、鼻と鼻を擦り合わせながら、キァオラ(Kia Ora)って言葉をかけるのよ」
「ケアオラ? どういう意味?」
「こんにちは、でも、ありがとう、でも、おはようやこんばんはでも、なんでもいいの。挨拶の言葉だから」
さすがに、マオリ族の言葉は自動翻訳してくれないのか。この翻訳機能魔道具のピアス。
まあ、私自身、そういうネタとして知っているだけで、ホントの意味で知ってる訳じゃないから、実戦的に使われる言葉としては通じないのね。
「スペインや他の地域だと、短くオラ!だけだったりもするけど、片手をあげたりはしても、鼻は擦らないのよ。マオリ族だけ」
「君の世界は、国や民族ごとに、生活様式が大きく変わるんだね?」
「ここは違うの? 国が違っても言葉や文化は同じ?」
笑みに目を細めて鼻を擦り合わせていたけど、ピタッとやめて、額と鼻をくっつけたまま目を閉じる。
肩に置かれたュエインの手に僅かに力が入ったけど直ぐに緩められてそのまま開放された。
ドールのようにお綺麗な顔が離れていく。
離れる瞬間、ふわっと上唇になんか触れた気がしたけど、気のせいという事にしておこう。それくらい、気のせいかなくらいのふわっとした感触だったし、恐らく本人にそんなつもりはないだろうから。
エロ親父的なボディタッチは一度も無いし、セクハラ発言もない。
それに近い行為はあるにはあるけど、ホッペチューにしても髪を触るのも、今のホンギを楽しんだのも、寂しがり屋の子供が甘えるかのようだ。或いは、愛玩動物に癒しを求めるような感覚。
自分から触れてくるけど、私がやり返すと真っ赤になって狼狽える。
自分はエロ目的じゃないから自然にするのに、私から仕掛けると変に意識するとは、大人の男性のくせにアンバランスなやつだ。面白いけど、超絶美形が下心や作為無く甘えてこられると、私も動揺してしまう。
こうやって触れあう相手がいないだろうというのは、私の直感的な感想だけど、外れてないと思う。
国王にも敬意を持たない偉そうなュエインは、成人──ここの世界では十六歳くらいで大人扱いらしい──してるのに、偉そうにしてても誰にも咎められない『閣下』って呼ばれるご身分なのに、婚約者とかいないのかな?
そろそろ、今日の秘密のデートは終わりなのだろう、立ちあがろうとするュエイン。逃げ出さないようにか、私の左手を握ったままである。これだけは、毛布や掛布のような布で包まれて縦抱きで運ばれる間以外は開放されない。
「ねぇ⋯⋯」
「ん?」
私に頭から白い布を被せて縦抱きに抱き上げるュエイン。顔はまだ出てるので目を合わせる。
「ュエインって、後宮持ってるの?」
可哀想になるくらい、咽せた。
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