月がきれいだった

ピコっぴ

文字の大きさ
上 下
26 / 30
月がきれいだった

26.そろそろ、今日の秘密のデートは終わり

しおりを挟む

 確かに、胸やお尻を触ったりしないし、抱きついたりイヤラシイ下ネタを言って聞かせたりはしないよ。
 でも、一日一回のホッペチューかデコチュを強請ねだるし、髪を掬い上げて匂いを嗅いだり口づけたりする。
 今も、こちらがイタズラのつもりで教えたマオリ族のホンギ(鼻と鼻を擦り合わせる)を何度も繰り返して楽しんでいる。

「ほ、ホントは、鼻と鼻を擦り合わせながら、キァオラ(Kia Ora)って言葉をかけるのよ」
「ケアオラ? どういう意味?」
「こんにちは、でも、ありがとう、でも、おはようやこんばんはでも、なんでもいいの。挨拶の言葉だから」

 さすがに、マオリ族の言葉は自動翻訳してくれないのか。この翻訳機能魔道具のピアス。
 まあ、私自身、そういうネタとして知っているだけで、ホントの意味で知ってる訳じゃないから、実戦的に使われる言葉としては通じないのね。

「スペインや他の地域だと、短くオラ!だけだったりもするけど、片手をあげたりはしても、鼻は擦らないのよ。マオリ族だけ」
「君の世界は、国や民族ごとに、生活様式が大きく変わるんだね?」
「ここは違うの? 国が違っても言葉や文化は同じ?」

 笑みに目を細めて鼻を擦り合わせていたけど、ピタッとやめて、額と鼻をくっつけたまま目を閉じる。
 肩に置かれたュエインの手に僅かに力が入ったけど直ぐに緩められてそのまま開放された。

 ドールのようにお綺麗な顔が離れていく。

 離れる瞬間、ふわっと上唇になんか触れた気がしたけど、気のせいという事にしておこう。それくらい、気のせいかなくらいのふわっとした感触だったし、恐らく本人にそんなつもりはないだろうから。

 エロ親父的なボディタッチは一度も無いし、セクハラ発言もない。
 それに近い行為はあるにはあるけど、ホッペチューにしても髪を触るのも、今のホンギを楽しんだのも、寂しがり屋の子供が甘えるかのようだ。或いは、愛玩動物に癒しを求めるような感覚。
 自分から触れてくるけど、私がやり返すと真っ赤になって狼狽うろたえる。
 自分はエロ目的じゃないから自然にするのに、私から仕掛けると変に意識するとは、大人の男性のくせにアンバランスなやつだ。面白いけど、超絶美形が下心や作為無く甘えてこられると、私も動揺してしまう。

 こうやって触れあう相手がいないだろうというのは、私の直感的な感想だけど、外れてないと思う。
 国王にも敬意を持たない偉そうなュエインは、成人──ここの世界では十六歳くらいで大人扱いらしい──してるのに、偉そうにしてても誰にも咎められない『閣下』って呼ばれるご身分なのに、婚約者とかいないのかな?


 そろそろ、今日の秘密のデートは終わりなのだろう、立ちあがろうとするュエイン。逃げ出さないようにか、私の左手を握ったままである。これだけは、毛布や掛布のような布で包まれて縦抱きでお父さん抱っこ 運ばれる間以外は開放されない。

「ねぇ⋯⋯」
「ん?」

 私に頭から白い布を被せて縦抱きに抱き上げるュエイン。顔はまだ出てるので目を合わせる。

「ュエインって、後宮持ってるの?」






 可哀想になるくらい、咽せた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】悪役令嬢はラブロマンスに憧れる☆

白雨 音
恋愛
その日、一冊の本が、公爵令嬢ヴァイオレットの頭を直撃した。 それは《ラブロマンス》で、驚く事に、自分と同姓同名の登場人物がいた。 だが、ヒロインではなく、引き立て役の【悪役令嬢】! 「どうしてわたしが悪役なの?」と不満だったが、読み進める内に、すっかりロマンスの虜となっていた。 こんな恋がしたい!と、婚約者である第二王子カルロスに迫るも、素気無くされてしまう。 それに、どうやら、《ヒロイン》も実在している様で…??  異世界恋愛:短編(全9話)※婚約者とは結ばれません。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...