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月がきれいだった
25.近いぃっ!!
しおりを挟むえ? っと思う間もなく、ュエインの綺麗な顔が寄ってくる。
すりすり 二度ほど鼻先を擦るけど、ズレて目の下にュエインの形のいい私のよりちょっと高めの鼻が当たる。
いや、待って! 鼻が頰骨に当たるのは赦す。赦すけど、危うく唇がニアミスよぅ。こんな事でファーストキスなんて、絶対に嫌だ。
「意外に難しいね」
「ひ、額ぃを合わせタら、バランス取りやすィかも?」
ヤバい。急にこう来ると思わなかったから、動揺で声が裏返りそう。
「なるほどね。うん、こうすると、鼻を合わせやすいね」
額をくっつけて、鼻を擦り合わせると、ヤバいでしょ? ホッペチューとは比べ物にならないくらい、近いぃっ!!
「ん? どうしたの? 知り合いもいないこの世界で、唯一親しい仲間だと、アカネが先に挨拶で擦ってくれたでしょう。こちらも、親しい相手として挨拶を交わさないとね?」
ふふふ。普通に、厭味なく微笑むュエイン。
厭味で言ったんじゃなくて本当に挨拶を交わそうって言ってるのに、含みがあるように感じてしまうのは、威張りンぼのュエインを見て来てるからかな。
「しかし、これは中々照れるね? 近しい間柄での特別な挨拶というけど、ちょっと近過ぎないかい?」
「そ、そそ、そおね!? でも、マオリの伝統なのよ?」
「男同士でも?」
「むしろ、男女の方がアレじゃない?」
いいから、離してぇ。左手と肩を抑えられているので、避けようがなくて、額をくっつけたまま、会話しながら時々鼻を擦り合わせてくるのだ。
狼狽えるュエインを見て楽しむつもりが、こちらが動揺してる。
こちらがイタズラを仕掛けたのに負けた気分だ。
楽しそうに、微笑みながら、何度も鼻先を擦るュエイン。
「あの、いい加減に、やめよ? 挨拶なんだから、もういいでしょ?」
「可愛いアカネの恥ずかしがる姿と柔らかい鼻の感触と、石鹸かな?バスオイルかな?いい香りがして、もっと堪能したくなるね」
「そこまで行くと、挨拶じゃなくてセクハラ行為」
「アカネだって、最初は僕が焦ってるのを内心楽しんでたでしょ?」
バレてた。
「別に、怒ってないよ。そうやって、悪い意味じゃなくて親しみを込めて笑ってくれるのは嬉しいから」
たぶん、子犬のュエインにせよあの偉そうなュエインにせよ、家族以外で明け透けに笑い合ったり冗談を言い合ったりする人はいないのだろう。
もしかすると、家族すらも立場を弁えなくてはならない関係なのかもしれない。
偉そうなュエインは、国王すら下に見たような言動だったから。
結局、ュエインって、何者なのよ? 偉そうなのと子犬のと、別人なの?同一人物なの?
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