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月がきれいだった
24.鼻先を擦り合わせるだけで真っ赤になって狼狽える乙女(のような)ュエイン
しおりを挟む鼻先を擦り合わせるだけで真っ赤になって狼狽える乙女(のような)ュエイン。
これが見たかった。
ここへ連れて来てくれた時、秘密のデートみたいだねって言っただけで赤面して、口元を覆って横を向いたュエインが、明治や昭和の乙女のようで、ちょっと可愛かった。
娯楽のない軟禁生活の中で、こっそり数少ない癒しだと思っても、悪くないよね?
今も、私の鼻先と眼(時々ほっぺや唇も)交互に視線を彷徨わせる様は、綺麗な顔も相俟って可愛いのだ。
「もっかい、あっち向いてホイッしよ?」
イタズラが発揮するのはここからよ。ふふん。
私より頭の回転の早いュエインに、ジャン拳でなかなか勝てないし、ホイッにも二度ほど負けたけど、遂に、勝ったわ! 視線は上の、坪庭から見える空を見上げるようにして、指先は右へ振ったら、上を指すと思ったのか、ュエインは右を向いたのだ。
「あ」
「うふふん!! やったわ、ついに、ュエインに勝ったわ!!」
左手は、ュエインに握られたままだけど、膝立ちで右腕を振り上げて喜ぶ。
偉そうなュエインなら不機嫌な態度になりそうだけど、子犬のュエインは、大人の余裕(年上だよね?)で右を向いたまま微笑む。
さあ、その余裕を崩すのよ、ュエイン?
ちゅ
⋯⋯やり過ぎたかしら
隙だらけで、無防備な左の頰に、そっと口づけてちゅっとリップ音が立つように吸ってやると、卒倒?した。
最初、微笑みが消えて頰や額が白くなって固まり、その後ギューッと真っ赤になって、芝生の上に仰向けにひっくり返ってしまった。
それでもュエインは、私の左手を離しませんでした。
なんなのよ、ュエインってば、幾つなの? 小娘にホッペチューされたくらいで卒倒しなくてもいいじゃないのよ。
だいたい、いつも自分からやりたがるクセに、こっちがしたら意識しすぎって、莫迦みたい。
だけど、これで益々、威張りンぼのュエインと子犬のュエインは、別人じゃないのかという思いが強くなる。
私のイタズラで耳や首まで真っ赤になって倒れるなんて、あのュエインでは、無いと思う。
「⋯⋯アカネ、許可無くするのは、犯罪なんじゃなかったのかい?」
「私は女だからいいとも言ったはずよ」
「ああ、そうだったね。⋯⋯やられたよ、まさか、こんな仕返しが来るとは思わなかった」
芝生の上で仰向けのまま、拳を太陽への庇のようにして顔を隠し、ため息を吐くュエイン。
こんなダラッとした態度でも、見た目がいいとダラッとして見えないのズルいわ。
「そっちだって、毎回『秘密のデート』ごとにやりたがるじゃないの。おあいこにもならないでしょ」
「アカネは可愛いからね。評議会の面々にバレると少々困ったことになるのを押して、こうして連れ出してるんだから、少しの間可愛いものを堪能しても罰は当たらないと思うけど」
「だから、感謝してるし、毎回、ホッペチューもデコチュも許可してるでしょ?」
「うん、そうだね」
ュエインは、顔が赤かったのも治まったようで、上半身を反動もつけずにすっと起き上がる。口惜しい。剣胝もないし腕もそんなに太くないし武人には見えない細身なのに、腹筋もそこそこあるのね。
「感謝してる?」
「うん」
「本当?」
「うん」
目を細めて笑みを浮かべ、私の左手を握っている右手はそのまま、左手を肩に置いて来た。
ん?
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