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月がきれいだった
20.食事バランスが良くないようだな
しおりを挟む面白いくらいに狼狽えていたュエインは、口紅を塗った訳でもないのに薄紅色の、油でも塗ったかのように艶々の唇をギリッと歪ませると、部屋を出て行った。
喚び出した側として責任を持てと言ったのが効いたのかしら?
生贄としての価値や条件を満たすよう考えた待遇が足りてなかったことは、困った状態なのだろうし、もしかしたら、プライドのようなものが傷ついたのかもしれない。
二日ほどして、忌々しげにュエインはやって来た。
「食事バランスが良くないようだな。貴族の豚どもが摂るものと同じような高級食材を使わせていたが、太ったり臓物を悪くするそうなので、野菜と、鶏肉や魚の、よく火を通したものを出すように指示した」
「35点ね」
「なんだと?」
「確かに、糖質の高いものや脂身たっぷりのお肉ばかりでは、中性肪脂が多過ぎて処理しきれなくなって脂肪肝になるし、胃に優しい雑穀のお粥は栄養もあるだろうけど、この国の味付けはちょっと塩が多いわね。て言うか、塩味しかしないじゃないの。腎臓の負担が大きいし、成人する前から成人病になりそうよ」
「⋯⋯塩」
「確かに、塩分が足りないと健康を壊すけれど、多すぎると病気になるのよ」
砂糖と塩は、香辛料に並ぶ希少品で、態々使わせていたのに⋯⋯とか何とかブツブツ言うュエイン。
まあ、雑魚や昆布、鰹節などで出汁をとるなんてことはしないんだろうし、鰹節や味噌、お醤油があるとも思えない。
基本、塩や胡椒などの香辛料か、ハーブくらいなんだろうな。
「薄味の料理がいいのかな?」
「味がしないのがいい訳じゃないわよ? 適度に味がして、塩や香辛料に頼らない味付けが健康的だし好きなだけ。それに、料理だけじゃなくて、もっと大切なこともあるの」
「病にならない料理よりも大切なこと?」
「宿題ね。お勉強してきて。これと思う答えが出るまで、会わないわ」
頭まで掛布を被り、寝たふりをする。
しばらくその場で考えていたみたいだけれど、私の態度への怒りや健康的でなくなっていくことに焦りも感じているだろうに、ュエインは、静かに、お上品に、部屋を出て行った。
だけど、香辛料の効いたクドい味付けか塩っぱめのお料理や、砂糖で甘く煮付けた肉や魚ばかりで、飽きて来てたのも事実。
顔色は悪くて少し窶れたのに、お腹の辺りはぷにょぷにょし始めてるのは、不健康そのもの。乙女としては、危機感を煽る状況よ。
日本に帰ったとき、家族が見ても私だと判らないほど水死体のように肥っていて、なのに顔は窶れて肌も荒れて青ざめているとか、ぜったに嫌だからね。
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