月がきれいだった

ピコっぴ

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月がきれいだった

19.どういう事だ? どんどん顔色が悪くなっていくではないか

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 部屋の前に護衛がいないのも、この部屋に誰も来ないのも、私が部屋の外に出られないのも、本当に、偉そうにしている方のュエインの思惑通りなのだろうか。

 少なくとも、お目にかかれる男性は、ュエインと小姓?の少年のみ。
 ここに喚び出された時のおじさんズにはあれ以来会えない。会いたくもないから来なくていいけど。

 そう言えば、あのおじさんの中のひとりが、やたら、私に赤ワインみたいな飲み物を飲ませようとしてたし、自分に掛かったら青ざめて飛び出していったけど、あれ、何だったんだろう?

 訊いてみたいけど、訊いてやぶ蛇になるのも嫌だから、黙っている。
 あれ以降、誰も持って来ないのに、そう言えば飲んでもらおうかってなったら困るからね。

 どう考えても、いいものじゃないよね。オジサン、真っ青になって飛び出していったんだから。


 とにかく、ここしばらく仔犬のュエインは来ないし、お客様も来ない。知り合いがこの世界にいる訳じゃないから、連絡を取りたい人もいないし、いても取らせて貰えるとは思えない。

 図書室とかサンルームとか、気を紛らわす場所へも移動させて貰えないので、することがない。

 結果。どんどん顔色が悪くなっていく。

 運動も殆ど出来ないし、陽にも当たらないので、不健康になるのは目に見えていた。



「重労働をさせている訳でもないし、食事を摂らせていない訳でもないのに、どういう事だ? どんどん顔色が悪くなっていくではないか」

 お世話役の女性陣が叱咤される。

 ュエインは、健康を保つ条件を識らないの?


「その人達が悪い訳じゃないわ」
「なぜだ? 君は、病を得た訳でもないだろう? 【にえ】の条件には、健康優良も含まれていたはずだ。なのに、どうだ? 最初こそ、元気が良すぎるくらいに健康そのものだったのに、今では蒼ざめて、明らかに瘠せているではないか」

 サラサラの薄ピンクの金髪を振り乱して、私と世話係の女性達とを睥睨する【威張り獅子】のュエイン。
 優しくて可愛い【子犬】のュエインに会いたいな。

「だからって、その人たちのせいだと? 短絡的ね。別に虐待されたり冷遇されたり、虐められたりなんかしてないわよ。食事も温かい胃に優しものをいただいてるわ」
「なら、なぜだ?」

いて言うなら、虐げているのは、あなたや議会?のオジサン達ね」
「わたしは、部屋も衣類も食事も、毎日の入浴という贅沢すら整え、庶民には浴することも出来ないほどに恩恵を与えて、それこそ貴族令嬢や王族の姫君のように扱っていると思うがね?」
「そうね。好きな時にお風呂に入れるのは感謝してるわ。そこそこいい食事もさせてもらえてるし」
「なら⋯⋯」
「でも、その感謝だって、おかしな話よね? 私を誘拐同然に異世界から引き込んで、この部屋に監禁に近い軟禁生活をいているあなたに感謝しなくちゃならないなんて」
「⋯⋯外は、異世界の人間である君には危険だ。魔法も使えないのだろう? 使えるならとうに、暴れたり逃げ出しているだろうからね。ここに閉じ込めているのは、君のためでもあるのだがね?」
「そう。なら、このまま衰弱するだけね。成人までの五年は保ちそうにないわ」

 ュエインから視線を反らし、ぱたっとベッドに倒れ込む。

「待て! なぜだ? 待遇に瑕疵がないというのなら、なぜ弱る?」

 慌ててるわね。脅しが利いたかしら。ュエインは何らかの思惑から、生贄の私が健康で居なくては困るのだろうから、実際に弱ってるのに加えて、弱々しく見せるだけで、この焦りよう。

「私の世界ならたいていの人が知ってる事よ。お医者さまなみに知識を持てとは言わないけれど、常識の範囲での、人体に大事なことは識っておいて欲しいわね。
⋯⋯私の命は、アンタに握られているも同然なんだから」
 
 嘘ではない。誰でもとは行かないまでも、陽に当たって運動が必要なのは、体育の授業がある事からもわかるし、テレビのワイドショーや情報番組などでもよく言われることで、大昔ならいざ知らず、健康志向の流行りもあったりして、情報社会の現代ではたいていの人はなんとなくでも知っていることだ。

「では、どうすればいいというのかな?」
「自分で考えなさいよ。自分達の都合でこちらの世界に引き込んだだけの責任は持ってよね」

 眉を下げるュエインを突き放した。



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