月がきれいだった

ピコっぴ

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月がきれいだった

12.これって、鍵こそかけられてないものの、軟禁よねぇ

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 温かい食事が運ばれる。


 食堂に行ってみんなと食べるとかじゃないのね。


 これって、鍵こそかけられてないものの、軟禁よねぇ。


 20畳近い広い部屋。窓際に天蓋付きの薄ピンクのベッド。

 呼び出された場所──湯泉があったモスク風ネギ坊主の塔の内装と同じ、パステルピンクと白のタイルを交互に貼り合わせた、ピンクの市松模様の壁と天井。


 窓は高い位置にある上に小さい。外は空と少しの枝葉しか見えない。

 お手洗いやお風呂は、隣の続き部屋が、やはりピンクの市松模様の、パウダールームとバスルームだった。

 ので、生活していく上で最低限のことは賄えてしまうので、部屋の外に出る必要がなく、どこへも行かせてもらえなかった。


 隣のバスルームも、ひとりでゆっくりできる所ではない。

 ついてくるのだ。神話の女神のような衣装の女性達(巫女? メイド?)が。ぞろぞろと。

 お風呂では髪を洗ってくれ、背を腕や足を洗ってくれる。


 驚いたのは、トイレまでついてくるのだ。スカートをからげてくれたり(これもそうとう驚いたが)、下着の上げ下ろしやお尻を拭うとまで言うのだ。

 もちろん、断った。丁重にお断りしても、良家の子女は自分ではしないものだとか、自分達は手足だと思えと言う。

 これには怒った。


「自分の身のまわりの事もできないような赤ん坊ではないし、何も出来ないお莫迦になるつもりはないの!!」

「ですが、良家のご令嬢というものは⋯⋯」

「私は、普通の家の、普通の女の子です! 私の世界では、着替えも入浴も、もちろんおトイレだって、ひとりでするものよ!! 私も一人の人間、おと……乙女の尊厳を損ねる気なの?」

 危ない危ない……「私も一人の人間、としての」尊厳と言いそうになってしまった。大人だと認めたら、何をされるかわからないから、ここでは私は子供未成年でなくてはいけない。

「ひとりの人間を、手足だと思え ですって? そんなの奴隷じゃないの! どうしてこの国の人たちはすぐ、意味のない自己犠牲や、尊厳を貶めるような事を口にするの?」

 お手伝いなんか要らないと言うと、自分達には価値がなかったと言って嘆いたり、果物ナイフで喉をつこうとする人がいたり。

 何か失敗をすると、大したことでもないのに、罰してくれだの鞭打ってくれだの。マゾ? マゾなの?


「外は危険でございます。こちらに居てくださいませ」


 どこにも行かせてくれないとこぼせば、部屋の外は危険だという。
 陽に当たって運動しなくちゃ、身体が鈍って、運動不足で全身の筋肉も内蔵も弱ってしまうではないの。


 でも……


 どう危険なんだろう。美人さん──ュエインのような、傍若無人な貴人が闊歩してて、無礼を働くと手打ちにされるとか?

 女湯見学隊のオジサン達のように、乱暴に扱ったり、無体をはたらく人がいっぱいいるの?

 まさか、魑魅魍魎や魔物、大怪獣や妖怪や猛獣なんかがうようよしてて襲ってくるとか?

 ここの女性達は出入り行き来してるのだから、弱々しい女を見ると無体を強いる人や、セクハラや痴漢行為を問答無用で働いてくる人がいっぱい、堂々といる訳ではないだろう。


 ──私にとっての『危険』とは?


 まあ普通に考えて、命の危険。
 建物の外は塩酸の雨が降るとか、魔物が跳梁跋扈するとか、ュエインに逆らう反乱分子が走り回って暴れてるとか。最後の以外はないよね、と、思いたい。でも、魔法がある世界みたいだからなぁ。


 次に、立場や扱いが変わる(待遇が悪くなる)危険性。まあ、あんまりひどくならなきゃ多少はいいかな。

 次は、ミワの姫とやらに何らかの付加価値があって、狙っている人が少なからずいる場合。強盗や人攫いには会いたくないなぁ。

 ミワのだからじゃなくても、たくさんの私の手足の女性にかしずかれているようには見える私の身代金目当てや、幼い娘(ここの人達には幼く見えるらしい)に欲情する性癖の人が狙ってるとか、私自身が狙いの場合。それは命の危険とは違った嫌さがある。


 何か魔法の仕掛けがあって、私が自発的に外に出たら、大怪我をするとか最悪死んじゃうとか? それじゃ、高い代償を払ってまで(拘るよ、ここ)ミワのの意味がない。


 結局、考えても、彼女たちの言う危険が何なのかはわからなかった。



❈❈❈❈❈❈❈

ュエイン達は水環の媛と呼んでいるが、文字で見た訳ではないので、発音だけでアカネはミワの姫だと思っている)尚、ミワに関しては、美羽?三和?美波?などと判っていない

媛:美しい女性・美称・後宮にいる女性の意(昭媛、淑媛などの妃の階級名に使われていた)

姫:貴人の娘、姫君、息女の尊称(本来年齢制限はないが現代では主に幼いor若い女性に使われる)
 小さくて可愛いモノ(姫百合・姫辛夷コブシ=木蓮科の樹木の名・姫鼠・姫鏡・姫鱒など)

 姫の漢字は、女偏に臣で臣下を持つ女性の意がある
 媛の漢字は、女偏にほっそりして嫋やかで品のある女性の象形を合わせた成り立ちから、美しくゆとりのある女性の意味がある会意形成文字
 身分の高い女性に添える敬称として用いることもあり


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