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月がきれいだった
9.君の世界での成人の基準は?
しおりを挟む美人さんは始めに見た優しい眼で微笑み、ベッドに座る私に詰め寄る。
助けてもらった時と同じ眼に見えたけど、話をして印象が変わったせいだろうか、何かの企みを笑みの裏に隠しているようにも見えた。
「君は、まだ若い……と言うより子供のように見えるけど?」
「そうですね。見たまま未成年ですけど」
「ふむ。君の世界での成人の基準は?」
国でも成人の基準は違うのだから、当然、世界が違えば違うのだと思われる。
さらに細かく言えば、20歳で成人としながらも、乗り物の運転免許証が取得できる年齢や、結婚が認められる年齢も違うし、飲酒や喫煙の許される年齢も違う。
「どの意味での成人でしょうか?」
「どの? 君の世界では、成人したと言うことに複数の意味合いがあるのかな?」
「そうです。政治的な面で、社会的責任を果たせるだけの分別を培っていると認められ、選挙権が与えられるのは20歳から」
義務教育を終え、社会に出て見習いから始められる年齢が16歳から。
乗り物の運転免許証を取得したり、各種技能検定で認められた資格を取り専門家として働けるようになるのが18歳から。
「我々の法で言えば、ただの見習いは幾つからでも可能だし、16歳と18歳の違いはよくわからないが、資格をとるというのなら、どのようなものでも15歳を迎えたら可能となるのだがね。選挙権とは? どんな権利なのかな?」
「この国には、選挙はないのですか? 政治を行う為の、国民の代表者を決めるために、国民ひとりひとりが候補者に投票をするのよ」
「政治は、王と、王が任命した有能な知識人と、上位貴族達が所属する貴族院が議会を開くね」
「それじゃ、偏った見識でしか意見は反映されないし、国民はただの権力者の奴隷じゃないの」
「奴隷? 別に鎖で繋いでる訳でも、労働力や財産を搾取している訳でもないが?」
「同じ事よ。持てる者の、持てない者の気持ちが暮らしがわからないまま推し進める政治でしょ? ここが困るから変えて欲しい、良くして欲しいなんて意見は、聞いてもらえないか握り潰されるんでしょ?」
「なるほど。君は思ったより賢しいようだね」
何かを考え込む美人さん。
「因みに、結婚を許されるのは?」
なんか、嫌な予感しかない。
「大人に混じって働けるくらいに身体が成長するのは16歳からですが、内臓や骨までしっかり熟すのには、最低でも20歳からとされています。
それ以前に飲酒・喫煙をすると成長に悪影響を及ぼしたり、生殖機能に異常をきたすことも報告されています。
外見は女子の方が早く育ち、見た目だけなら大人に近くなるのも早いですが、20歳前に性交渉を行うと内臓や生殖器に傷を負い、身の内から腐る病に罹ったり、妊っても産褥に耐えられない可能性も高く、身体が出来上がっていない内は、未熟児・奇形児、流産の恐れがあり、一度の流産で二度と子の望めない身体になった人もいます。
成長が女子より遅く始まる男子は、20歳を過ぎても背が伸びる人も中にはいるようですね」
私の話を聞いて、チラッと背後のおかっぱの子に目をやる美人さん。
「今のお話には、おおよそ【嘘】はないかと。真偽の珠は沈黙しております」
「ふむ。あまりにも素直にペラペラ話すから、適当な事を言って誤魔化しているのかと思ったけど、どうやら、我々よりも肉体の成長が遅い種族なのだね」
──真偽の珠!!
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