月がきれいだった

ピコっぴ

文字の大きさ
上 下
8 / 30
月がきれいだった

8.君は、異世界から取り寄せた【贄】の月の水環の媛だよ

しおりを挟む


 ──君は、異世界からにえの月の水環みわひめだよ


 『月のミワの姫』が何なのかはわからないけど、【贄】は解る。

 生贄の【贄】信奉する神への貢物、あるいは何かを救う為の犠牲って意味だよね?


 異世界から取り寄せたと言った。

 あの濡れた路面に映った月を踏んだら、足先から身体が崩れたように見えたのは、異世界へ、足先から順に移動していく様子だった?

 出口はあの、お湯だったけど深い泉?


 私、まったく知らない人達を救う目的で、殺されるために異世界へ攫われたの?


「ああ、誤解してないかい? 贄と言っても、死にやしないさ」

「死なない? 殺されないの?」

「もちろんだよ、わざわざ殺すために、魔導士を何人も使えなくしてまで取り寄せるなんて、魔導士の無駄使いだろう?」


 天使のような微笑みで、私の頰を伝う涙を拭ってくれる。

 殺されるのだと思ったら、絶望感から自然に涙が出ていたらしい。


 笑顔で優しく頰に触れる美人さんだけど、言葉が通じるようになってからさっきまでの態度に、もう胸が温かくなったりしない。それに、さり気なく怖い言葉が混じってたし。


 ──魔導士を何人も使えなくしてまで取り寄せるなんて、魔導士の無駄使いだろう?


 それって、私を呼び寄せるために、何人もの魔導士が犠牲になったってこと?

 確かに、殺すための人間を一人呼びつけるのに、たくさんお勉強してたくさん努力しただろう、きっと貴重な魔導士の方々を、何人も犠牲にするのは馬鹿げてる。

 だからって、気持ちは軽くならない。私は殺されないのだとしても、何人もの犠牲が出たのだという事実が、重くのしかかる。


「そんなに青褪めて…… また誤解してるね? 使い物にならなくなったと言っても、死んではいないよ。ただ、当分の間、魔導士としての活動は出来ないと言うだけさ」


 そうなの? よかった。私一人のために何人も亡くなるなんて、ひどい話だもの。

 ホッとしたのもつかの間。再び哀しいことを言う美人さん。


「まあ、中には、二度と魔導士を名乗れなくなるくらい魔核に傷を追った者も居るだろうけどね。

 そんなのは、元々たいした才能じゃなかったのさ」


 ──だから、君が気に病むことはないよ


 いや、どう考えてもおかしいでしょう?

 あなたの言う『たいした才能』じゃないにしても、それなりに、私を喚ぶための力になる魔導士として選ばれるくらいには、実績を積み上げてきた人だよね?

 そんな人に労う気持ちもなく、たいした才能じゃなかったと言うの?

 あなたが選ばなければ、私を呼び寄せようとしなければ、相応の実績を重ねて、魔導士として歩んでいけた人に対して、酷い言いようだ。


 第一印象はあてにならないのね。


 とても残念だった。


 そして、そんな人に“贄”として呼び寄せられた私は、どうされるのか、怖くて仕方がなかった──



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

夫の裏切りの果てに

恋愛
 セイディは、ルーベス王国の第1王女として生まれ、政略結婚で隣国エレット王国に嫁いで来た。  夫となった王太子レオポルドは背が高く涼やかな碧眼をもつ美丈夫。文武両道で人当たりの良い性格から、彼は国民にとても人気が高かった。  王宮の奥で大切に育てられ男性に免疫の無かったセイディは、レオポルドに一目惚れ。二人は仲睦まじい夫婦となった。  結婚してすぐにセイディは女の子を授かり、今は二人目を妊娠中。  お腹の中の赤ちゃんと会えるのを楽しみに待つ日々。  美しい夫は、惜しみない甘い言葉で毎日愛情を伝えてくれる。臣下や国民からも慕われるレオポルドは理想的な夫。    けれど、レオポルドには秘密の愛妾がいるらしくて……? ※ハッピーエンドではありません。どちらかというとバッドエンド?? ※浮気男にざまぁ!ってタイプのお話ではありません。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

処理中です...