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月がきれいだった
8.君は、異世界から取り寄せた【贄】の月の水環の媛だよ
しおりを挟む──君は、異世界から取り寄せた贄の月の水環の媛だよ
『月のミワの姫』が何なのかはわからないけど、【贄】は解る。
生贄の【贄】信奉する神への貢物、あるいは何かを救う為の犠牲って意味だよね?
異世界から取り寄せたと言った。
あの濡れた路面に映った月を踏んだら、足先から身体が崩れたように見えたのは、異世界へ、足先から順に移動していく様子だった?
出口はあの、お湯だったけど深い泉?
私、まったく知らない人達を救う目的で、殺されるために異世界へ攫われたの?
「ああ、誤解してないかい? 贄と言っても、死にやしないさ」
「死なない? 殺されないの?」
「もちろんだよ、わざわざ殺すために、魔導士を何人も使えなくしてまで取り寄せるなんて、魔導士の無駄使いだろう?」
天使のような微笑みで、私の頰を伝う涙を拭ってくれる。
殺されるのだと思ったら、絶望感から自然に涙が出ていたらしい。
笑顔で優しく頰に触れる美人さんだけど、言葉が通じるようになってからさっきまでの態度に、もう胸が温かくなったりしない。それに、さり気なく怖い言葉が混じってたし。
──魔導士を何人も使えなくしてまで取り寄せるなんて、魔導士の無駄使いだろう?
それって、私を呼び寄せるために、何人もの魔導士が犠牲になったってこと?
確かに、殺すための人間を一人呼びつけるのに、たくさんお勉強してたくさん努力しただろう、きっと貴重な魔導士の方々を、何人も犠牲にするのは馬鹿げてる。
だからって、気持ちは軽くならない。私は殺されないのだとしても、何人もの犠牲が出たのだという事実が、重くのしかかる。
「そんなに青褪めて…… また誤解してるね? 使い物にならなくなったと言っても、死んではいないよ。ただ、当分の間、魔導士としての活動は出来ないと言うだけさ」
そうなの? よかった。私一人のために何人も亡くなるなんて、ひどい話だもの。
ホッとしたのもつかの間。再び哀しいことを言う美人さん。
「まあ、中には、二度と魔導士を名乗れなくなるくらい魔核に傷を追った者も居るだろうけどね。
そんなのは、元々たいした才能じゃなかったのさ」
──だから、君が気に病むことはないよ
いや、どう考えてもおかしいでしょう?
あなたの言う『たいした才能』じゃないにしても、それなりに、私を喚ぶための力になる魔導士として選ばれるくらいには、実績を積み上げてきた人だよね?
そんな人に労う気持ちもなく、たいした才能じゃなかったと言うの?
あなたが選ばなければ、私を呼び寄せようとしなければ、相応の実績を重ねて、魔導士として歩んでいけた人に対して、酷い言いようだ。
第一印象はあてにならないのね。
とても残念だった。
そして、そんな人に“贄”として呼び寄せられた私は、どうされるのか、怖くて仕方がなかった──
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