月がきれいだった

ピコっぴ

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月がきれいだった

5.優しく肩を揺すられる。眠いんだけど。

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 優しく肩を揺すられる。眠いんだけど。

 

「オクタ・ヴィアムナーラ、ア・レム、クレスタム」


 ん? オクタビアンさん? レクイエム? 何言ってんのかわかりません。

 温かくて、気持ちいいからもう少し寝かせて……


 再度優しく肩を揺すられる。う~ん、眠いんだけど。


 ぼんやりと、薄目を開けると、窓から月が見える。

 ああ、ここの月もきれいだな。三日月って、いろんなもののモチーフに……に? 三日月?


「私が観てたのって、満月じゃなかった!?」


 飛び起きる。

 スブリングこそ入っていないものの、これでもかと言うくらい中綿の入った、柔らか過ぎず固くないベッドに寝ていた。

 私の肩を揺すっていたのは、先程タオルや着替えを持ってきていたお姉さん(たぶん)で、美人さんは、2歩下がった位置で見守っていた。


 あの毛布のようなタオルは吸水性抜群だったらしく、着ていた服──木綿のブラウスとウールの巻スカート、カーディガンとレーヨンの九分丈パンツはすっかり乾いている。

 けれど、乙女にあるまじき、異臭を放っていた。

 急な雨に濡れたまま歩いてて、上がったあとにしばらく生乾き状態が続き、乾いたあと、残念な洗濯物の臭いになるよね。アレである。


 そりゃ、美人さんは、こんな私を運んで来たら、さぞかし鼻が辛かった事だろう。距離をとるのも無理はない。


 ギリシャ神話の女神のような格好のお姉さんは、着替えらしき衣類を見せ、私が頷くと、カーディガンから順に脱がしていく。


 んん? 自分で出来ますが……


 ハッ 美人さんがいる前でなんて事を!? と、思ってそちらを見ると、すでに姿は見えなかった。

 私が目覚めたので安心してどこかへ行ったのか、着替えが始まるタイミングで気を利かせて姿を消したのかは、見てなかったからわからないけど、気兼ねなく脱げるかな。


 別のお姉さんの持つ籐のカゴにカーディガン、巻スカート、九分丈パンツ、ブラウスの順に入れられていく。

 一度お風呂に入ったあとなので、キャミソールは着ててもブラは着けてなかった。

 キャミソールとショーツも脱ぐの?

 そりゃ、身体に接する肌着で濡れて生乾きを起こしたのだから、雑菌が繁殖してるのはわかる。でも、こんなにたくさんのお姉さんたちがいる前で、すっぽんぽんになれと?


 躊躇していると、後ろに控えていたやや年配の女性が迫って来て、有無を言わさずキャミソールとショーツをへっぺがし、籐カゴへ投げ入れる。

 取り返されると思ったのか、カゴを抱えたお姉さんは、頭の位置も変わらないほど滑らかに後ろへ下がり、ゆっくり動いているようなのに驚く速さで退室していった。


 返してくれるんでしょうね? アレ。


 素っ裸の私に、若い女神コスプレのお姉さん達が群がり、温かい絞りタオルで全身を拭われ、バニラのような香りのミルククリームっぽいものを摺り込んでいく。シアバターみたいな保湿クリームなのかな?


 薄手のシルクっぽい滑らかな生地の、一分丈パンツ。キュロットかもくらいのタックとかドレープとかとられた、超ひらひらを穿かせてくれる。

 締め付けなさすぎて、逆に心許ない下着です。ウエスト部分はゴムではなく、両脇に縫い付けられた幅広の帯を腰に二周巻いて端を折り返して、巻いた部分へくぐらせていた。


 両肩に幅広の帯のような布をお臍まで垂らし、それを押さえるようにウエストにも薄いシルクのような帯を三周させて、同じように端を巻いた部分に折り込む。
 肩から下げていた帯は、背中も被っていて、短いひと言(意味は理解出来なかったけどたぶん断りを入れたのかな)のあと、中に手を突っ込んで胸の収まりをよくしてくれる。ブラ変わりなのだろう。補正下着みたいな盛り上げとフィット感はいいけど、知らない人に胸を摑まれて、内心困惑がおさまらない。

 過去に一度だけ下着屋さんでされたことがあるっきりの、他人に胸を持ち上げられるという慣れない行為に、目を白黒させてしまう。


 私の着ていた胸元にレースを縫い付けた綿の短めのキャミソールとはまったく違う、するするしたシュミーズを被せてくれる。

 が、着せてくれたのはこれで終わりだった。


 ちなみに、ただおとなしくナスがママキューリがパパではなかった。

 抵抗しても、身体を隠そうと試みても、集団で寄ってたかってお世話されるのだ。力負けした。

 始終にこやかで、無表情でなかったのがせめてもの救いだった。


 これはどういうアレなのか。私が何をしたというのだ。

 ここはどこ? 私はなんでこうなってんの?


 もちろん、答えてくれる人はいなかった。


 もっとも、答えてくれる人がいても、たぶん、理解はできなかっただろうけど。

 まず、言葉が通じないのだから。



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