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月がきれいだった
3.淡いピンクがかった金髪の、軍服のような正装をしたお兄さんにお湯から引き上げられ
しおりを挟む淡いピンクがかった金髪の、軍服のような正装をしたお兄さんにお湯から引き上げられ、濡れネズミ状態で、自分の置かれた状況を把握しようにも、さっぱりわからない。
自宅の玄関を出て、月を見ようと思ったら、雨上がりの濡れた路面に映った月を踏んじゃって、その足先からサラサラと崩れていく自分の身体に目を回して、気がついたらお湯に浮かんでた。
自分でも何言ってんのかわかんないけど、今のところ、事実だ。夢でなければ。
天井も壁も、ローズストーンと白大理石のタイルを貼り合わせた可愛らしい造り。
浴槽?の周りを囲む柱は、古代ギリシャとかフェニキアとかローマとかの神殿遺跡のそれのよう。まあ、細かくはどれもそれぞれ様式が違うんだろうけど、イメージはだいたいそんな感じ。
浴槽は、オシャレなホテルの大浴槽とか、古代ヨーロッパ風庭園の泉のような、タイル張りの円形の縁取り。ただし、底は見えない。お湯の湧く井戸とか温泉の源泉とかかしら?
岡山にある温泉に、深くて、途中の岩棚に立って入る、泳げない人は入らない方がいい温泉があったっけ。お殿様も入ったとかいう。結構深かった。子供は絶対に入れないよね、あれ。
昔家族旅行で行った温泉に意識を飛ばしていると、濡れた私の手をすくい取り、揃えた指に口づけする美人お兄さん。
「えっええ!?」
騎士や下位貴族の男性が、高貴な女性にする挨拶というやつに見えたけど、私がそんな扱いを受けるこの状況やこの人との関係性に何も思い当たらない。
「アレイヒヴァフ、ルッテンヴァルク・ヘル、アルクァン……」
「ご、ごめんなさい、なんて言ってるのかさっぱりわからないです。英語は話せませんか? すぴーくいんぐりっしゅ」
もちろん、私も英語が得意という訳ではないけれど、単語くらいはわかるかもしれないもんね。
少し困った顔をしたお兄さんは、後ろを振り返ると、また、何語かわからない言葉で、誰かを呼びつけた。
少し待つと、ギリシャ神話モチーフのファンタジー映画で見るような、キトン風の白い布を被り腰で留めただけのような衣装の人が数人現れ、どの人も綺麗な、明るい栗毛やオレンジ掛かった金髪の美女で、お胸も豊かな双丘が並び、やはりこの正装の人はこの中でもとびきりの美人だけど、男性なんだなぁと納得する。
女性の一人が大きな厚手の布を差し出し、それを受け取った美人さんは私の肩からかけてくれる。毛布みたいな手触りだけど、タオルなのかな、吸水性はいいみたいで、すぐに顔や肩から雫は垂れなくなる。
次の女性がゴブレット的なゴツいコップを差し出す。
それを受け取り、美人さんは私に差し出す。湯気が立って、暖かそうだけど、匂いがワイン? シャンパン? とにかくお酒だった。
「すみません、温かい飲み物は嬉しいんですけど、お酒は……未成年ですから」
通じてないだろうけど、一応断る。
次の女性は、着替えかな? 多分衣類だろうものを差し出したが、美人さんは首を横に振る。ここでお兄さんの前では着替えられないよねぇ。うん。
そうこうするうちに、壁の一部の開いていたところから、お爺さんと言って良さそうな壮年の男性ふたりと、老人ではなさそうだけと青年と呼ぶにはトウが立ってそうな男性が三人入ってきた。
いや、皆さん、なんで堂々と、女子風呂に入ってくるんですか? 集団痴漢なの? 堂々とノゾキ……いや見学会だよね、ここまで来ると。それとも混浴かな? 皆さん、服着てますけど。
男性達は、濃い灰色の髪や白髪混じりの栗毛で、目は女性たちも含め大抵の人が赤茶か青味がかった灰色で、どう見ても、西洋人、それも西ヨーロッパか北欧系に見える。
唯一、この薄ピンクの金髪美人さんだけが、東洋とも西洋ともつかない、あるいはどちらでもいいような顔立ちだった。私の苦手な凸凹の激しいThe 外人っていうクドさも、東南アジアやオセアニア、アフリカ系の濃ゆさもない。
ヨーロッパのどこかの人と言われても、韓国人だと言われても、アメリカのどこかに住んでますと言われても、それこそ色素が薄いけど日本人だと言われても納得できるような、ドールやキャラクターフィギュアが等身大で息をしてるみたいにもみえる、不思議な顔立ちだ。ただしとびきり美人。でも男性。
「ミルヴァルフ、アレクシアラ・ベッフェルグィル……」
優しい目をして何かを語りかけてくれるこの人の言葉を知りたい。なんて言ってくれてるのか、理解したい。そう思った。
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