月がきれいだった

ピコっぴ

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月がきれいだった

2.ぴちょん  雫が、水面に跳ねる音がする。

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 ぴちょん


 雫が、水面に跳ねる音がする。


 温かくて、ゆらゆら気持ちいい。手を動かすと、お湯をかき分ける感触がして、お腹にお湯がかかる。

 目を開けると、綺麗なローズストーンと白大理石のタイルが交互に張られた天井が見える。

 ところどころ水滴が溜まっていて、一滴はひとしずく 顔の横のお湯に落ち、跳ねが頰にかかる。もう一滴はひとしずく オデコに。……結構地味に痛い。天井が高いんだな。


 ところで、ここは? なんで、お風呂で浮いて寝てんだろ?

 お風呂で浮いてる…… ここ、もしかしてスーパー銭湯の寝湯?


 わたし、何してたんだっけ?


 ──月 そう、月を観てたんだった


 子供の頃から、星より太陽より月が好きだったんだよね。観るのも、小物なんかのデザインも。


 身体は、体積の半分ほどが水面に浮いて、仰向けに寝てたみたいだけど、月観てたはずなのに、なんでお風呂で寝てる? もしかして、月が綺麗だと、玄関に出た記憶自体がお風呂で眠る間の夢だった?


 うちは、取り立てて裕福ということもないけれど、定期的にスーパー銭湯へ通ってゆったり寛ぐ程度には余裕のある生活をしていたし、身体を横たえて¾ほど湯に浸かりタオルをお腹に掛けて寝る寝湯が好きだった。

 ちなみに、薄く覆う程度に湯が流れる温かい岩盤に転がる寝ころび湯は、腰が痛くなるし寒い日は風邪ひきそうで好きじゃない。似てるけど違うのよね。


 起き上がろうとして足に力を入れ、腰を折ると、お尻から沈んでいく。

「ぐべっ…… ガボボ!?」

 寝湯じゃない!? 深いお湯の中に、沈んでいく。

 さっ! 酸素! 酸素ください!! 溺れちゃうよぉ


「ウィクシタァン!? ヌベルフバルファ」


 はぁ? 何語ですか?


 ざばぁっ お湯飛沫しぶきを飛び散らして、引き上げられる。

 

 酸素! 酸素って、空気って美味しい!!


「ケホッ かはかはっ ゲグゥがふっ」


 とてもうら若き乙女の呼吸音とは思えない、胃にも喉にも、鼻にも溜まったお湯を、咳こみ、ゲップや喉のひだに引っかかった細かい夕食の食べかすなども一緒に、口から鼻から吐き出して、痛いのなんの……


「ウィクシタァン!? ヌベルフバルファ・アレ、タッヒルマ」


 いや、だから、何語ですか?


 涙と鼻水と胃酸とお湯を顔中から垂らしてなんとかおもてをあげると、吸い込まれるような青緑の虹彩こうさいと紫紺の睛眸ひとみがふたつ、心配そうに私の顔をのぞき込んでいる。

 傷もにきびもない艷やかな白い額にかかる緩いウェーブを描く髪は、少しだけ赤味がかった金髪──芸能人とか一部のセレブや、アニメやラノベなんかで今注目のピンクっぽいストロベリーブロンドと言うやつではないか。

 男性で淡いピンクの金髪とは、染めてるんなら驚きだけど、似合うし違和感のない綺麗な顔。


 はっ! こんな綺麗な顔の人に、鼻水と胃液と涙でぐしゃぐしゃの顔を見られている!?

 やだ、恥ずかしい。しかも、溺れたのを助けてもらったのに、恩人に対してお礼も言ってない。


 いや、女性風呂に、なんで美形外人のお兄さんが?


 麗人なお姉さんかもと期待したけど、軍服のような西洋とかの現代貴族の礼服のような服の胸元は広くなだらかで双丘はなく、喉仏と、ふらつく私を支える力強い腕と大きな手は、間違いなく男性のものと思われた。


 次に気になるのが、私をヽヽ見た?である。寝湯に浸っていたのならタオルは掛けてただろうけど、沈んだ時にどこかへ失せている可能性も……


 顔に、湯に溺れただけではない熱を帯びうつむいて、己の姿を見下ろせば、ちゃんと服を着ていた。でどこもかしこも身体に張り付いて気持ち悪いけど、なんにも着てないよりずっといい。よかった。


 いや、よくない。なんで、服着たままお風呂に浮いてて、溺れたらストロベリーブロンドの美人お兄さんに引き上げられてんの?


 てか、ここどこ?







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