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オウジサマってなんだ?
38.父親とはこんな感じなのか?①
しおりを挟む調査隊に必要なものの選定や準備などに追われて、気がつけば、夕陽が沈みかけていた。
「もう、こんな時間か……」
手にしていた大量の書類を書棚にしまい、魔術でロックをかける。こうすると、他の職員では開ける事が出来ない。ルーシェンフェルドより高い魔力で強引に解呪するか、戸棚そのものを破壊するしかない。
エルキールアライオン以外は、フィリシスティアーナかルーティーシアなら、魔力霊力が、血筋からの質が似ているので、時間をかけて解きほぐせば解呪出来るかというくらいの精度だ。
(あの子はどうしているかな)
執務中は集中していたので思い出す事はなかったが、キリもついて気が緩み、一度気になりだしたらどんどんヴァニラの事ばかりになっていく。
(今から急いで馬を飛ばしても、もう食事には間に合わぬし休む時間になるか。それでも、少しは落ちついているか、様子だけでも見ておきたい……!)
初めての子供の顔を毎晩見たくて、早く帰りたい新米父親のようである。
勿論、地下に用意してある転移魔法陣を使えば、ほんの僅かな時間で帰宅することは出来る。が、それではクルルクヴェートリンブルクやシルベルストがついてこられないし、明朝登城する際にも、魔法陣を使わねば、護衛騎士達の馬がない。
第一、そんなに早く会いたいのかと言われているようで(誰にともなくそんな感じがするらしい)利用するのを躊躇われる。
それでも、一目だけでも、眠っている顔を見るだけでもいいから、あの子が休めているかだけでも確認しよう……!
そう決めると、外套を羽織り、いそいそと執務室を出る。
「局長、お疲れ様でした! 今日はもうお帰りですか?」
「うむ、皆もご苦労であった。これから忙しくなるだろうが、よろしく頼む」
簡単に労い、歩幅も大きく廊下を急ぐ。
「あれ? クィルフ、珍しいね、急ぎ足なんて。
……なんかあるの?」
またしても、めざといサルティヴァルスに見つかったが、振り返りもしないで、
「ああ、もう日が暮れてしまうからな。馬も明るい内の方がよかろう?」
返すと、スタスタと立ち去る。
「だから、城下町のタウンハウスに寝泊まりすればいいのに……」
追いかけても少しづつ離されていき、声も遠くなっていくが、会話を続けるサルティヴァルス。
「社交のシーズンはそうするさ」
「夜会になんか参加しないくせに」
勿論、主催もしない。が、招待客側としての参加はないが、離宮での王家主催の夜会や、王族が賓客として参加する夜会では、警備側としての参加はある。
勿論、ルーティーシアが参加する夜会ではエスコートするし、フィリシスティアーナが参加するときは祖父の侯爵にエスコートを任せ、自分は警備に専念するのである。
「もー、そんなに急いで帰らないといけない理由でもあるの?」
早歩きで引き離していてよかった。と思ったかどうかは当人しかわからないが、内心驚き焦った事は確かだった。
(ヴァニラの事はまだ知らぬはず……)
胸の内はおくびにも出さず、振り返らずに、王宮の奥、外交には使わない実務優先の、素材は上質だがシンプルなデザインの廊下を突き進む。
罪を犯している訳ではないが、規範に則ったルール通りという訳でもないからか、後ろめたさがあるのだ。
本来なら、フィリシスティアーナの言うように、犯罪被害者として、調書をとり身元を確認した後、自宅まで送り届けるか、犯罪被害者総合保護舎に預け、犯罪の内容によって騎士団か王立兵団の、犯罪取締局に届けを出すのが一般的な処置である。
それを、言葉が通じない為に、事件の詳細はおろか、概要すら聞き出せない有り様だ。
性犯罪被害を受けたがゆえに、大人でも子供でも男性が近づくと肩を震わせたり、涙が滲んだりする様子に胸が痛む。
大人に囲まれておどおどするのがなんだか可哀想で、馬か馬車に数時間揺られて王都まで移動させ、女性専用舎であっても新たな知らない人間に囲まれた環境に移すのは躊躇われたのだ。
──せめて、傷が癒えずとも、花を見て微笑むくらい回復するまでは……
本人は上手く逃げられたと思っているが、自称『クィルフ大好き人間』のサルティヴァルスには、看破されていた。
(なんか隠し事してるな? いつもの素っ気なさとはなんか違うし、さっき明らかに私の言葉に反応したし)
──知りたい! あの子が内緒事するのなんていったいどれだけぶりだ!?
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